(そんなことかよ)
雪道をつま先だけで走っていると、向こうから自転車で疾走して来る男と出会った。
あぶない!
身をかわしながら、右ひじで通り抜ける空気を弾き飛ばした。
後ろは見ない。
右ひじに異変を感じなかったからだ。
しかし、いずれ男が追いかけてきそうな気がした。
友人の五郎ちゃんが、いつの間にか追いついてきた。
やっぱ速いね。もう、こんなに来ていたの?
剥きたての栗のような顔で、ニコニコと話しかけた。
おう。
答えながら、この人ではないなと感じていた。
案の定、立ち話中の二人をジープが追い抜き、道をふさぐように斜めに止まった。
助手席から、ゴーグルをかけた男がゆっくり降りてきた。
運転席からは、サングラスの女がドアをバタンと閉め、小走りに回りこんできた。
ふたりとも、手に拳銃を持っていた。
やっぱり・・・・。
事情を知らない五郎ちゃんに、その場から遠ざかるよう手で指示した。
ハイキング・コースの一部である坂道に近かったので、左手で手すりをさぐった。
もちろん、ニヤつく男から目を離さずに。
女のほうは、すぐには危険を感じなかったが視野の端に置いていた。
後退りしながら、コースの案内板をもぎ取った。
パヒューン。
拳銃が発射された。
右手に持った案内板に、ガツっと手ごたえを感じた。
つづいて、もう一発。
またも案内板で受け止めた。
男の顔色がかわった。
どうしたらいいのか、迷いが浮かんでいた。
どうだ。
誇らしげに、五郎ちゃんのほうを見た。
男の拳銃がピクリと動いたが、発射できなかった。
相手の動揺が手に取るようにわかった。
攻守逆転のチャンスが到来したように思えた。
手すりを飛び越えて男に飛びかかった。
プシュ!
右のこめかみを、光が通過した。
反対側のガードレールを背に回りこんでいた女が発射した弾丸だった。
なんで・・・・。
何で油断したのかと、罵りながら倒れた。
どうして?
覗きこんだ女がつぶやいた。
サングラスを外した女は、一昨日山小屋で別れを告げた女だった。
あんな高いところまで連れてきて、別れようなんて思い上がっているのよ。
二度も弾をよけたのに、あたしのだけ当たるなんて馬鹿にしてるわ。
ヨリを戻そうなんて、情けないこと考えたあたしがバカだった・・・・。
女は男のジープに乗り込んで、下界におりた。
(おわり)
これまでの窪庭さんの作風と一変して何か奇妙な味わいの世界ですね。
何といったら適切なのか。
うん、夢の中のようなといったら当たっているだろうか。やっぱり違うかな。
「超短編シリーズ」となっているから今後の何篇かを読ませていただくと、徐々に分かってくる仕掛けになっているのかもしれませんが。
とにかく続く短編を楽しみにしています。
知恵熱おやじ
しばらく続けますので、よろしくお願いします。
登場人物が、ほとんど紹介されていないのが、不気味さに拍車を掛けます。
次回作を楽しみにしています。
それとも「線路は山の向こうに曲がり込んでいた」などと、見えることしか書いてはいけない、のか。
第三者の目が、カメラアイなら、ようだ、と想像は書けないのでしょうか?
よろしければご教授ください。
ガモジン
カメラアイなら、後者の書き方がぴったりきますけど・・・・。
でも、文章は写真ではないので、独自の表現法がありそうに思います。
その第一発と思われる『そんなことかよ』は、不気味で、余韻嫋々。(こちらの頭がおかしくなったような)
行間を空けても、涼風を期待できそうにありません。
こんな小説で遊べる作者に乾杯!
意に反して、涼しくなりませんかね?