どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

ポエム84 『沈黙の梅花ウツギに』

2015-04-08 01:49:42 | ポエム

 

     梅花ウツギ

    (城跡ほっつき歩記)より

  

 

梅花ウツギの白さに目を留めて

この花の白さはどこから来るのかと訝る

咲くというより消すためのグッズが

フェイドアウトのために用意されたのだろうか

 

青いインクで書き散らした日記の上に

梅花ウツギの花を敷き詰めてみようか

すれ違った青春の痛みも

手品のように空中に消えるだろうから

 

名前も消えた面影だけの人よ

元気で喜寿を迎えられそうですか

古い日記はもう跡形もなく

燃やした手紙の煙も行方不明です

 

ただあの日の気配を懐かしむ

それだけならいいですか

すれ違いの原因など

雲の海に流してしまいました

 

星降る野原で交わしたキッスは

とても熱かったよね

鼻腔を行き来する息遣いに誘われて

恋の深淵を覗きました

 

お盆で帰省するたびに

車窓から家の方角を眺め

もうお嫁に行っただろうかと目を泳がす

お寺の鐘がゴーンと響きました

 

六度の干支をやり過ごした果てに

まっさらな日記を机にひろげます

梅花ウツギの花をそっと並べれば

残り香が仄かに匂い立つでしょうか

 

出来事は在って無いようなもの

青春の日々も遠い稲妻のよう

無理に引き寄せれば

時空が歪むだけ

 

梅花ウツギは空木の仲間ですか

空洞の茎には暗闇がひそみますか

ないものねだりの造物主が創る

存在を無にする純白の花

 

すべてを忘れたことにしましょうか

跡形もない日記に顔を寄せ

懐かしむだけならいいですか

手探りするだけなら許してくれますか

 

 


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6 コメント

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まぶしい白さ (塚越和夫)
2015-04-08 17:06:38
いつもご紹介いただきありがとうございます。

初夏の生け垣などで目にする園芸品種のバイカウツギです。
撮影してから2年近くの間は名称不詳でした。
その後園芸植物大辞典を入手したりして漸く判明した経緯がありました。

初夏の白花には日差しの眩しさとも相俟って、どこか現実から遊離したような危うげさを感じます。
返信する
消そうとするほど美しくなっていき (知恵熱おやじ)
2015-04-08 20:00:04
72年も生きてくると、たいていの雑事はわざわざ消そうとしなくてもいつの間にか時間の闇にまぎれてうやむやになっていくようです。

でも、透明な苦味を伴う想いのエッセンスがかえって鮮明になってくる、たとえば初恋のようなものも中にはあって・・・・長く生きるのも悪くはないよね。

そりゃーカメラマンがやっと名前を知ったという白い花をこころの日記に挟んでも消えないよ。絶対消えてほしくない面影なんでしょう。

ぼくにもそんな宝物みたいのがひとつあってね・・・・8年前ある人の葬式でその人に思いがけなくばったり会ってしまった。

65年ぶりだったからぼくが12歳 あちらが11歳のときのことでね。子供のくせにお互いの恋心を言葉にして確認していたものだから、ドギマギしたナアー。
当然結婚してお孫さんもいたけれど。

おばちゃん(彼女のお母さん)と瓜二つ!・・・というのが出合い頭の印象でびっくり。
ところが当時一緒にやったちょっと際どい悪戯のことなど声を潜めながら話してみると、一辺にあの頃に戻ってしまった。

やっぱ、白い花でも消えないんだな。あの秘密は。
梅花ウツギの詩があの通夜での再会をもう一回思い出させてくれました。

初恋の詩というのは、たぶん誰にでも時を遡行させる力を齎してくれるんだろうな。

何回も美味しい金太郎あめ・・・なんちゃって!
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生垣の梅花ウツギ (tadaox)
2015-04-08 23:31:00
塚越さんが今回の画像を撮られてから、その花の名を突き止めるまでにかなりご苦労をされたと知り、ぼくが梅花ウツギの存在を知らなかったのも無理はないなと思いました。
生垣に使われているそうですが、やはり一度も見たことがありませんでした。

そして、白花の印象を初夏の日差しの眩しさに求め、なおかつ、この花が現実から遊離しているような危うさを秘めているとの表現に接し、腑に落ちた思いがしております。
あらためて、白という色の持つ喚起力に感じ入っているところです。
ありがとうございました。

返信する
こころの宝物 (tadaox)
2015-04-09 00:30:56
思い出の中にも特別のものがあり、それは宝物のように内に秘められたまま、終生消えることはないのかもしれません。
知恵熱おやじさんのように、時を経てから再会するという偶然もまた人生の妙味なのかと驚いているところです。

長い歳月の中で、たいていの雑事は消そうとしなくても自ずから、うやむやになっていくとの思いはつよく共感されます。
梅花ウツギの白い花には、薄れゆく記憶を逆説的に追認する仕掛けが施されているのでしょうか。
心の中で、希少な宝物としての重みは増していきながら、現実を支えるべき事象は年毎に薄れていく。
無理に引き寄せる必要もないが、ことさら消し去ることもしない。
梅花ウツギの白は、意図せずとも人の営みに寄り添ってくれる。
花でありながら、人生の機微を包み込んでしまう秘密の力を与えられている気がするのです。
いつもありがとうございます。
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純白 (aqua)
2015-04-12 10:58:08
こんにちは

白から生まれた白とでも言いましようか
とても清い純白な花ですね
私が知らないだけでしょうね
こちらではあまり見かけません
実物を見てみたいです
淡い初恋の記憶が蘇ってくるのでしょうか?
フェイドアウトのために用意されたのだろうか・・・
ホントにそうかもしれませんね
特別な白なのでしょう

白で始めり白で終わる
まさしく梅花ウツギはピッタリの白
幻想の世界の白のような気もします

素敵なポエムを
いつもありがとうございます
返信する
純白の鎮静作用 (tadaox)
2015-04-12 21:08:42
(aqua)様、こんばんは。
梅花ウツギは生垣に使われるそうですが、残念ながらぼくは見たことがないです。
園芸種として売っているようですが、きっと値段が張るのではないでしょうか。

生垣全体が純白の花で覆われていたら、どんな気持ちになるか想像してしまいます。
忘れかけた(と、自分をごまかしていた)初恋のことなどが、次々と意識にのぼってきて、慌てるのかもしれません。


梅花ウツギの純白には本来、思い出を鎮める作用があるのに、いたずらに拘わると不純物を呼び起こしてしまう。
これまで自然に純化してきたエキスのようなものは、そっとしておいたほうがいい。そんなことを考えています。
いつも的確なコメントありがとうございます。


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