田舎では、様々な伝統行事を大切にし、その家なりに行っていた。節分、夕刻になると、あちこちの家から大きな声で豆まきの声がステレオのように聞こえて来た。 どうしたことかわが家では何時も遅かったように想う。子供心に『うちでも早くやってくれないかな』と思ったものである。
豆まきは、正月の若水を汲むのと同様、その屋の長男がする習わしだった。わが家は、兵隊に行っていたので次兄がやっていた。家の座敷のすべてにまくと、外に向かって『鬼はー外』とまくより投げつけていた。あちこちの座敷にまかれた豆を兄弟で争って拾い食べるのが楽しみであった。豆がら(柊でなく)に鰯の頭を刺したものをあらゆる門口にさして鬼がこないようにした。
父母はどう関わっていたか定かでない。この行事が済むとなぜか安心した懐かしい想い出がある。