村境の峠にさしかかると、生まれ育った故郷には不思議な力があるもので、3年前に帰省したばかりなのに懐かしい感情がこみ上げてくる。峠を下りあたりの視界が開け田畑やあちこちの家屋敷が薄暮の中に見え隠れすると一層その感が高まる。啄木ではないが、故郷は本当に有難いと思う。
そんな気分で車を走らせていると、私の目を疑う光景が現れた。田毎の月云々のような小さな田んぼは、写真のように広々とした水田になり、そこを流れていた筈の小川は消えていた。車を止めあたりを見回し、しばし呆然、、、そうです。山間の1寒村にも近代化の波は押し寄せ、土地基盤整備事業が着々と進められているのでした。
翌朝あらためて田んぼに出かけてみました。ドジョウを掬った淀みも、春をいの一番に告げたネコヤナギの土手もセリを摘んだ小さな流れも、、、何もありません。あるのは大小様々なU字溝の幾何学的な線とそこを排水だけを目的とした水が無表情に流れているだけでした。 (20年前に記した文より)
数年ぶりで帰省するが、今度はどんな想いをするのかな、、、、