さきち・のひとり旅

旅行記、旅のフォト、つれづれなるままのらくがきなどを掲載します。 古今東西どこへでも、さきち・の気ままなぶらり旅。

冬が終わり、季節は春に・・・

2012年04月15日 | らくがき

  春風が吹いて桜が咲き、日の入りはすっかり遅くなりました。四月になり、新しい年度が始まりました。長い冬が続く英国では、この四月という月は、ようやく暗い季節が終わりを告げて、再生の歓びをもたらす季節をあらわすのです。そんな気分を、14世紀の詩人、ジェフリー・チョーサーは先日ご紹介しました『カンタベリー物語』の冒頭で詠いました。

Whan that Aprill with his shoures soote             時は四月、にわか雨が
The droghte of March hath perced to the roote,  三月の乾きを根元までしみとおって和らげ
And bathed every veyne in swich licour          そのお湿りはすべての植物を潤し
Of which vertu engendred is the flour           その力で花が咲きはじめるのだ

  不毛な冬はやっと終わり、やってきた春は暖かさと潤いをもたらしてくれる。花が咲く。ああ、いいなあ・・・w(^益^)w と多くの英国人はこの季節に、この一節を思い出したりするわけです。日本人なら、『枕草子』の「春は、あけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは 少し明りて紫だちたる雲の細くたなびきたる」というのを思い出すかなあ。

  しかしだ。それを20世紀の詩人、T. S. エリオットというやつは、『荒地』という作品の冒頭で、見事にガツンとやってくれたのです。

April is the cruelest month, breeding       四月はもっとも残酷な月だ
Lilacs out of the dead land, mixing         死んだ土地からリラの花を咲かせて
Memory and desire, stirring               想い出と欲望を混ぜ合わせ
Dull roots with spring rain.                春の雨で鈍った根を生き返らせる
Winter kept us warm, covering            冬はわれわれを暖めてくれた
Earth in forgetful snow, feeding          忘却をもたらす雪で大地を覆い
A little life with dried tubers.               乾いたじゃがいもの根で小さな命を養ってくれたのだ

  これは1922年の作品で、第一次大戦後の荒廃したヨーロッパと、人々の不毛な精神状況を描いたと言われています。そおゆう専門的な時代考証は横に置いておいといて・・・。

  オレわね、冬が好きなの。寒くて長い夜が好きなんだよ。もちろん静かにひきこもっている生活ね。大学生の頃は2月と3月が休みで、ずっとこたつ虫になっていたなあ。朝の6時頃になってもまだ外は暗い だから寝る時間も落ちついて布団に入れるわけだ(^益^)b 昼過ぎに起きてメシを食い、こたつに入って本を読む。するとまた寝ちまって、浅い眠りがもたらす連続ドラマのような夢のフルコースに浸っていると、もう外は暗く夕方だ。人に会わなければ不愉快な緊張もない。外なんか出なくったって、本を通じて古今東西の、一流に面白い人たちと対話ができるではないですか。こんな生活が大好きなの。

 さすがに今はそこまでの生活は無理だけど、オレの仕事柄2~3月は休みが多く、4月になると夏まで忙しいので、春風が吹くとげんなりしてくる習慣が染みついてしまったわけだ。目覚まし時計の電子音を聞くのはなんとも言えず不愉快でしょう?オレにとっての春は、それと似たような感覚をもたらすのだと想像してくれたまへ。あなたがサラリーマンだったらさ、日曜の夜にサザエさんのエンディング・テーマが始まって

    ♪タラッタッタラ、タラッタッタラ、タラッタタッラ、タッ、! げっ!

となるでせう? (^益^)

 これを「サザエさん症候群」と言いますが、まる子ちゃんの「ピーヒャラ」を聞くと月曜日を思って気分が悪くなる人もいるそうです。私の友人で、甲子園が準決勝、決勝と進んでゆくと夏休みも終盤にさしかかってくるのでへこむやつがいます。

 あとさ、世の中が浮かれ出すのにも乗りきれねえ、という気分もあるよなあ。花見の季節もそうだけど、例えばクリスマスの喧騒なんかも、エリオットが言うように「想い出と欲望と混ぜ合わせ」るじゃないですか。そんなときに心の中にひゅるるるる~っと吹く風にさらされるよりも、いっそ冬の「忘却をもたらす雪」に覆われていたほうが「暖かい」のかもしれないネ。

 というわけで、おそらくひきこもりの連中などには、新年度が始まる時期、春の息吹を感じさせる季節はもっとも残酷な季節なのではないですか?


 エリオットの『荒地』は、発表後に一世を風靡しました。表面的に作られた「新しい始まりの歓び」に乗りきれない孤独感や疎外感は、決していつの時代でも例外的なものではないでしょう。



2 コメント

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こたつ虫^^ (あんみつ)
2012-04-20 20:30:24
さきち・さんも、冬がお好きなんですね^^
わたしも昔から、秋もいいけど冬が、なぜだか気持ちが落ち着くんですよ。
寒いのは、苦手なんですが、何も用事がなく、家でこたつ虫になっていられる時、幸せです~(〃∇〃)
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そうだねェ~(^益^) (さきち・)
2012-04-21 00:24:09
うん~。目覚ましの電子音がぬくぬくとした安楽を一掃するほどじゃありませんが、暖かい風が吹き始める春の訪れや、暑い夏が終わって秋風が吹く頃になると、仕事が忙しくなる季節の到来だなあ、と気持ちがへこんでしまうんですぅ。。。
こたつ虫、いいよね^^のどがかわくよね(^益^)
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