グラスの底と同じように「椅子に顔があったっていいじゃないか」と言ったのは岡本太郎さんでしたが、ある時に愛用のアーロンチェアから立ち上がり用事を済ませて戻ると、クッションの中央がウィンクしている顔の形に見えるのに気づきました。
アーロンチェアは発売された十数年前に直ぐ購入したものですが、その後のネット素材を使ったオフィス・チェアの先駆けとしてアメリカのハーマンミラー社で開発され、同じ分野のデザインを担当していた僕も驚かされたものです。参考にするためと言って取り扱い代理店に直接電話を入れ、特得フレンドリー価格で購入させて頂きました。
それ以来ずっと使っていますが、普通はネット・シートそのままか薄い専用クッションが用意されていたと想います。このぶ厚い型くずれしたクッションは当時姪に寸法を測って作って貰ったもので、さすがに少し解れてきたところもあるのですが今も有り難く使い続けています。
アーロンチェアは現在も研究所や会議室またIT企業のオフィスなどで採用されており、テレビ画面にもよく映るので一般的にも良く知られた製品ではないでしょうか。ミュージシャンの宅録ルームの写真などにも見られることが多いので、クリエイターの中でも多くのファンを魅了しているのが分かります。座るという動きに則った人間工学的なアプローチから、全てが発想され設計されているので、十数年経っても古びるということが無いのは、僕のような同業者から見ても素晴らしいと想います。
ネット素材他にも腰部のサポートをフィットさせる構造や、アームが回転しパソコン・ワークに対応するアイデアなど今もしっかり機能しています。そして多人種国家のアメリカの製品らしく、サイズも確か3タイプ開発され世界中にマーケットを獲得する理由にもなっています。ちなみに僕は東洋人なのでMサイズだったと記憶しています。
ところで、このクッションに出来た顔は前方の窓から入る外光で偶々このように見えたもので、試しに上の室内蛍光灯を点けると陰影が薄まって曖昧に消えてしまいました。