暑い木曾路を西に 2019-03-02 23:23:28 | 文学 「同志打ちはよせ。今は、そんな時世じゃないぞ。」 十三日の後には、福島へ呼び出されたものも用済みになり、湯舟沢峠両村の百姓の間には和解が成り立った。 八沢の牢舍を出たもの、証人として福島の城下に滞在したもの、いずれも思い思いに帰村を急ぎつつあった。十四日目には、半蔵は隣家の伊之助と連れだって、峠の組頭平助とも一緒に、暑い木曾路を西に帰って来る人であった。 ――島崎藤村「夜明け前」