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★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

神々の閨――蝉と天使

2020-08-02 23:19:41 | 文学


「汝は右よりめぐり逢へ、我は左よりめぐり逢はむ」とのりたまひて、約り竟へてめぐりりたまふ時に、伊耶那美の命まづ「あなにやし、えをとこを」とのりたまひ、後に伊耶那岐の命「あなにやし、え娘子を」とのりたまひき。おのもおのものりたまひ竟へて後に、その妹に告りたまひしく、「女人先立言へるはふさはず」とのりたまひき。

今日、庭で蝉をみていたら、蝉が幹のあちら側とこちら側にいてぐるぐる回っておった。

イザナギとイザナミは蝉であった……

イザナギはマッチョ蝉であったので、「女性が先に言うのはイカン」とか言っていたが、リア充蝉、お前は何を言ってるんだ……。どっちが先でもいいだろうが、だいたいこのオスから言わなくてはならぬ=オスが稼げなきゃだめ、みたいなプレッシャーでオス蝉がどれだけ苦労しているかわかっておるのかっ

それでお二人は、さっそく、天の浮橋という、雲の中に浮かんでいる橋の上へお出ましになって、いただいた矛でもって、下のとろとろしているところをかきまわして、さっとお引きあげになりますと、その矛の刃先についた潮水が、ぽたぽたと下へおちて、それが固まって一つの小さな島になりました。
 お二人はその島へおりていらしって、そこへ御殿をたててお住まいになりました。そして、まずいちばんさきに淡路島をおこしらえになり、それから伊予、讃岐、阿波、土佐とつづいた四国の島と、そのつぎには隠岐の島、それから、そのじぶん筑紫といった今の九州と、壱岐、対島、佐渡の三つの島をお作りになりました。


――鈴木三重吉「古事記物語」


むかし、鈴木三重吉が神のベッドシーンを省いたことに腹が立ちましたが、確かに、考えてみりゃ、島を生む人間というのはどういうことでしょう。大便をかためて日本を造ったというのでしょうか。あまりにもひどすぎます。宮台真司は、日本の政治家はアメリカのケツにウンコがついてても舐めるのかこら、といっていましたが、日本の国土がクソであった場合、クソとクソとが衝突したところで何のこたあないわけで、三重吉としては、リアリズムに回帰しただけではないでしょうか。

しかし、彼らが蝉であった場合どうであろうか?

今日は、ベンヤミンの「歴史の概念について」を、クレーの「新しい天使」とともに授業で喋ったけど、蝉の排泄物はいわば天使のものであるから、我々が天使の排泄物でできていた場合は、まだ納得出来る。ベンヤミンはなんでこんなに天使が好きなのかわからんが、――むしろわたくしは蝉が天使だと思う。我々の文化は、夏の天使の襲来によって養われたのだ。耳をふさいで。