夫婦の怪獣という設定は案外多い。
見ると、妻の髮に白い韮の花がこの朝早くから刺さつてゐた。
私はまた葡萄棚の下へ戻つて來た。それから井戸傍で身體を拭いた。雇つてある老婆が倒れた垣根の草花を起してゐた。
私はふと傍の薔薇の葉の上にゐる褐色の雌の鎌切りを見附けた。よく見ると、それは別の青い雄の鎌切りの首を大きな鎌で押しつけて早や半分ほどそれを食つてゐる雌の鎌切りだつた。
「なるほど、これや夫婦生活の第四段の形態だ。」と私は思つた。
――横光利一「妻」
横光利一は何回読んでもあんまり好きになれない作家だが、なんだか自分にも他人にも生き物にも優しさがない気がするからだ。自己肯定とやらは当然、他人に言われていることを自分にも当てはめるみたいな、自己肯定そのものから出てくるエネルギー抜きでやれることが可能な条件でようやく成立し、特に他人への否定を自分に当てはめられるかどうかにかかっているはずなのに、それだけは避けるからやりようがないんだ、と横光を読むと思う。わたくしは、横光を現代人にひきつけて読みすぎているのであろう。