なあむ

やどかり和尚の考えたこと

サンサンラジオ394 さめざめと泣く

2022年12月04日 05時00分00秒 | サンサンラジオ
三ちゃんのサンデーサンサンラジオ。第394回。12月4日、日曜日。

2日金曜日、ついに初雪が降りました。本格的な冬の始まりです。
同じ日の朝、日本がスペインに勝ち、予選1位通過となりました。
ワールドカップは何が起こるか分かりません。だから面白いのでしょう。
日本が強いというよりも、いい試合をした選手たちに拍手を送りたいと思います。

先月29日火曜日は母の49日忌で、納骨も勤めました。
母は「生まれた時から体が弱かった」が口癖で、そのために健康には人一倍気をつけていました。
子どもの頃、薬だと言って親に飲まされていた酒は実はマムシ酒だったと知りゾッとしたと。
その割には、ハブ酒を取り寄せて私に「飲め」と勧めていました。
本人が言うほど病弱ではなかったと思いますが、その親は、農家に嫁にやっても務まらないと思っていたようで、その当時当地では珍しく女学校に入れて農家以外に嫁がせようとしていたようです。
結局その親の思いで寺に来るようになりました。

私が子どもの頃、雪道で転んで頭を打った後遺症が出て、保育所の勤めから帰ってくるとすぐに横になっていた姿を悲しく見ていました。
病院に入院して、首にコルセットをはめて帰ってきた時には驚きました。
その後は、整体や光線療法、酸素吸入や自然療法のようなものなどなど、いいと言われるものは何でも試し、いわば健康オタクになっていました。
胃がんが発見されて4分の3を切除して、それからは更に気をつけるようになっていました。
いいというものをいったん始めるとまじめに継続する性格で、朝起きると南部せんべいを一枚食べてコーヒーを飲むというのが近年のルーティンでした。
テレビ体操も欠かさずやっていました。
そんな本人の努力もあり、体が弱かった子どもは満88歳まで生きることができました。

当然ですが、思い出はたくさんあります。
私が生まれて間もなくの頃、よく泣いて泣き止まず、痩せてきていました。
病院に連れて行って診てもらうと、「栄養失調だ、母乳が出ていないんじゃないか?」と言われて初めて気づき、「帰りに薬屋に寄ってヨーグルトを食べさせたら2瓶ペロッと食べた」という話は何度も聞かされました。
その頃、姑との関係が悪く、そのストレスが原因で母乳が出ていなかったのだろう、乳が出ていないことにも気づかないなんて、なんてバカな親だと悔やみ、泣きながらヨーグルトを口に運んだ。
「そのためにお前は体が弱く、背も大きくなれなかった」と、自分を責めながら何度も語るのでした。
確かに子どもの頃、病弱で何度か入院もしましたが、身長が伸びないのはそのせいではないでしょう。たぶん。

こんなこともありました。
大学に入学したての頃、親のハンコが必要な書類があって実家に送り、それが着いたか、速く送り返してほしいという意味で公衆電話から電話をかけました。
「はいはい」と出た母親に、「オレだ」と言うと、「お前かあー」と言ったきり涙声になりました。
「手紙よこすならなんで何か一言書いてこないんだ、紙っぺら一枚いれて、父ちゃんは封筒の表と裏と何度もながめていたぞ!」と責められました。
東京に出てから初めての便り、元気でいるのか、ちゃんと食べているのか、大学には行っているのか、日々心配しながら連絡を待っていた、手紙が来たと思ったら書類だけで一言も書いていない。仕方なく封筒を何度も裏返し、なぐり書きの字をながめていた。
そんな親の気持ちを慮る心が、自分にはありませんでした。実に子どもでした。

永平寺から帰り、あるお寺の留守役をしていた頃、母親を乗せて出かけた車の中で、「お寺のお布施をごまかしているんじゃないだろうな」と言ってきました。
留守居役の寺で法事を務めると、そのお布施はまとめて住職に渡してそこから何割かをいただくというやり方でした。それを「ピンハネ」していないだろうなという懸念でした。
私は烈火のごとく怒り、「自分の子どもを泥棒扱いするのか!」と必要以上に責め立てました。
母は、「親なんてバカなもんだな、子どものことを心配するばっかりに余計なことを言って…」と、さめざめと泣きました。

 一番苦手なのは おふくろの涙です
 何もいわず こっちを見ている
 涙です  (サトウハチロー『おかあさん』)


今頭に浮かんでくるのは母親が泣いていることばかりです。
つくづく親不孝でした。辛い思い、悲しい思いをいっぱいさせてきました。
甘えていたのだと思います。
親の年齢に追いつけないと同じように、いくつになっても人は、親の気持ちを分かることはできないのだろう。
たとえ、死んだ親の年齢になったとしても、そこから親は仏さまとして成長し続けているのだから。

今週はここまで。また来週お立ち寄りください。