★暁紅の海が息づく冬はじめ 佐藤鬼房
★初冬の木をのぼりゆく水のかげ 長谷川双魚
★柔かな夜につゝまれて初冬かな 星野立子
第1句、海に臨むちょっとした高いところからの海の眺め、太陽が東の海から登る地点なのだろう。佐藤鬼房だから塩竃市の高台辺りから太平洋を臨む場所であろうか。具体的な場所までは推定する必要はないが、詮索したくなるのも人の性。
冬にも拘わらずやはり日の出は生命感溢れる景色である。さまざまな色彩が太陽と大気と海によって複雑に微妙に融合し、そして分離する。冬のはじめの引き締まった寒さが身に沁みる朝にことのほか惹かれる日の出である。
山の頂上で眺める「ご来光」も真夏であっても朝の引き締まった寒さ故に好まれるのである。
第2句、「しょとう」よりも「はつふゆ」という語感が暖かみをもたらす。こちらも少し高い場所から水面に反射した太陽光が時間とともに場所を移動し、木に昇って行く時間を詠んでいる。葉を落しかけた木の幹を暖めるように登っていく太陽の反射光、こちらは自然の景色でもいいが、公園などの池に太陽が当たる集合住宅やマンションなどを想定しても面白い。
この句も具体的な場所にこだわらない感傷ができる。そしてやはり朝の句と思いたい。
第3句、こちらは風景や目の位置とは切り離された句。そして夜の句である。初冬で寒さが迫ってきたものの、身にまとう服や布団、湯船の温みが愛おしくなる。暖房が効きすぎてもよくない。程よい温みが嬉しい。
家族の団欒や、ひょっとしたら男女のしずかな語らいの場かもしれない。もっと艶やかな場面かもしれない。
こちらは「しょとう」と読ませるが柔らかみがある用い方である。