世田谷美術館にて昨年11月23日~今年1月26日まで「奈良原一高のスペイン 約束の旅」を開催していた。1月に入ってから見に行きたいと思ってはいたが、白内障の手術や、始めてしまった本の処分の作業に追われているうちに行きそびれてしまった。
そして会期末を待たずに1月19日、奈良原一高は心不全のため88歳で亡くなった。
「美術展ナビ」の情報では、次のように紹介されていた。
1962~65年のヨーロッパへの旅から生まれたシリーズ「スペイン 偉大なる午後」から120点、「ヨーロッパ・静止した時間」から15点を選び、関連資料と合わせて展示している。「祭り」「町から村へ」「闘牛」をテーマにしたスペインの熱情あふれる世界と、パリ、ヴェネチアなどを写した静寂を感じさせる街の情景が並ぶ。奈良原さんは近年、療養中だったが、開幕後に家族と会場を訪れたという。
と記されている。
本日録画を見たのはその展覧会の会期中に放送された「写真家・奈良原一高~魂の故郷を探し求めて~」の再々放送である。番組の案内には以下のように記述されている。
【ゲスト】島根県立美術館学芸員…蔦谷典子,詩人…文月悠光,
【出演】美輪明宏,写真史家…金子隆一,東京国立近代美術館研究員…増田玲,世田谷美術館学芸員…塚田美紀,
【司会】小野正嗣,柴田祐規子
【詳細】奈良原一高は、報道とは一線を画した独自の世界観で、写真を芸術に高めたとされる。炭鉱の島、修道院、刑務所、そして世界の果て。世間から隔絶された環境に生きる人々の姿を描いた奈良原を駆り立てたものは何だったのか。同時代を生きた者としてその写真に共感するという、美輪明宏が、奈良原の魅力に迫る。
敗戦を13歳で迎えた奈良原が、それまで教えられた軍国思想などが否定され、生きる上での思想のハシゴを外されている。その空虚を埋めるように新しい表現を求めて彷徨したことが番組では匂わされていた。
初期の長崎の軍艦島、北海道の修道院、和歌山県の刑務所での作品は、以前にどこかで見たと思う。特に軍艦島の地で撮影した作品には印象に残っている。人の確かな存在と、人は写っていないが色濃く人の気配を感じさせる作品に、人間のつくる社会というものが背後に「廃墟」を背負っている、というメッセージを私は得た記憶がある。
しかしファッションやアポロの発射場に向けられた視線には違和感を持ち続けた。スペインでの作品は見る機会はないままだった。
本日の放送で垣間見たスペインでの作品ではやはり人間の歴史の連続性と、ちょっとしたはずみでその歴史を動かした思想が「廃墟」に転化してしまう脆さを内包している、という初期の作品からの印象は1960年代のスペインを訪れても持続していることに気がついた。
1960年代、70年代の私は団塊の世代の社会体験の追体験を求めつつ、結果としては自分自身の空虚さを嫌というほど味わい、その空虚を埋める作業を細々と続けてきたと思っている。奈良原一高は、そんな自分と重ね合わせながら作品を追ってみたい表現者の一人である。
1970年代以降の作品については、まだまだ私は感想を述べるほど見ていないので、述べることは残念ながらできない。