メランコリア

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ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

1990 WIMBLEDON

2004-01-12 18:13:55 | テニス
今年のウィンブルドンは、テニスファンにとっては最高のカードばかりが揃った。
日本勢は相変わらず早々と散ったが、「今回はとにかく芝のコートに慣れることだ」と話したセレスもベスト8まで残った。

 

 

しかし、絶好調のガリソンの予想だにしない完璧な勝ち上がりに、セレスだけでなく、
間違いなく優勝候補だったグラフまでもが敗れるという、まさに大金星があった。



一方、全仏を欠場してレンドルと同じくウィンブルドンに全てを賭けていたナブラチロワもほとんど危なげなく勝ち進んできた。
その中にはサバティーニとの一戦もあった。

最近、不調続きだったサバティーニだが、今回は観ていて気持ちのいい試合だった。
サーヴ&ネットをふんだんに取り入れて、アンラッキーなポイントからズルズルと流されることもなく、
目標めがけて直進するナブラチロワには到底かなわなかったにせよ、
ナブラチロワは彼女に対して「これから先、もっと伸びていく選手だ」と言ったように、
また私たちファンに期待を持たせてくれた。

彼女とは正反対に、グラフにしてみれば悪条件が重なり、時に可哀想なほど調子を出し切ることが出来なかった。
全仏でセレスに敗れ、風邪がグズグズと長引き、そこにもってきて父親のゴシップ
さらに「最近、フォアハンドを打つのも辛い。26歳頃にはリタイアの時期が来るかもしれない」などと、ひどく弱気なことを言っている。


女子シングルス決勝 ジーナ・ガリソン×マルチナ・ナブラチロワ は、ナブラチロワ優勝

ガリソンはこのナブラチロワ戦で急にナーヴァスになり、今までの好調なボレーの数々は
どこかへ消し飛んでしまったように本調子を出せなかった。

一方、ナブラチロワは、さすがの貫禄で、落ち着いた、かつエンジョイしたプレーを終始貫いたのが勝敗を決めた。
彼女の優勝は、ゆっくりと、そして限りなく、静かに決定した。
若いプレイヤーらとの世代交代で、ここ2~3年入れ替わり立ち代りしていたけれども、
彼女の素晴らしい執念によって、なんと9度目の優勝というベテランの極致を見せてくれた。

 

マルチナは、若手選手に敗れた時、一度ひどいスランプに陥って、辞めようと思ったそうだ。
その時、ウィンブルドン10回優勝経験を持つキング夫人に

「あなたは勝ち過ぎた。10日ばかりテニスのことなど全部忘れてヴァカンスを楽しんだらどう?」

と勧められ、電話にも出ずに楽しく過ごしたのが良かった、と話している。

一方、ガリソンは先日、結婚したばかりで、決勝戦にも夫が観戦しに来ていた。
しかし惜しくも敗れたガリソン、そして執念を貫き通したマルチナにも、最後は温かい拍手を送っていた。

ウィンブルドンの観客も皆やっと、ここに来てひと息つけたという、一種の安心感を持ったはず。
ゆるやかに続く、1万人を超える観客の拍手は、決して熱狂的なものではなく、
ナブラチロワの全身を賭けた努力と、その精神力に対して敬意を表す拍手だった。

マルチナは早速、コーチや、いろいろアドバイスしてくれたキング夫人のところへ
客席を軽やかに飛び越えて、顔中を涙で濡らしながら喜びを分かち合った。

今年33歳。
レンドルは、あまりにもウィンブルドンタイトルを取ろうと力んだために、
また今年も準決勝でエドベリに敗れ去らなければならなかったが、
マルチナは、見事に最後の最後まで戦い抜き、そして金のプレートを掲げて
観客の温かい拍手の中で勝利の笑顔を見せた。

芝のグリーン、カバーもグリーンで統一され、ボールボーイたちのユニフォームもグリーン。
それがまるで補色のようにコートに映っていた。

ファイナルに近づく頃には、芝はずいぶん剥がれて土がのぞきはじめるが、
ちょうどボールボーイが構えているあたりも土がのぞいているのが印象的だった。


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男子のほうも面白いカードばかりがズラズラと続いたのは、
やはりシード上位選手が順当に勝ちあがってきたせいだろう。
全仏の多彩な顔ぶれがどこへ行ったのやら。

マッケンローが1回戦で敗退し、ジャニ系のマスクを持つゴラン・イワニセビッチ18歳
代わりにのし上がってきたほかは、レギュラーメンバが勢ぞろいだった。

とくに興味深いカードは、テレビでは放送されなかったがエドバーグ×マイケル・チャン
またかよ、のこの顔合わせ。

しかし、全仏で1回戦負けしたエドバーグ、ベッカーは、すっかり心を入れ替えて臨んできたため、
チャンの得意の粘りも効かなかったらしい。

セミファイナルは両試合ともいい顔合わせだった。
ベッカーはよりによって1回戦敗退時の相手イワニセビッチ。
「芝のコートであいつとは顔を合わせたくない」と言っていたのも空しく、再度の勝負となった。

この2人はなんだかタイプが似ている。
2人ともブンブンサーヴを得意とし、イワニセビッチは、なんと70回近く、ベッカーも40回くらい
ノータッチエースを取るという偉業を成し遂げたし、2人とも芝の上でよく転び、よく暴れる。

それから、交互によく大声を出すし、まるでガキ大将の兄弟のようだった。
セットは長引いたが、今回はベッカーが決勝に進出する。


もう1つは、レンドル×エドバーグ
芝で練習を積み上げて、ここまで全くシード選手と当たらずに済んでいたレンドルは、
なんとあまり本調子でないままにエドバーグに完敗してしまった。

彼の大きな武器であるファーストサーヴの確率が低く、それに続くボレーミスも続いた。
とても印象深かったのは、関係者席に座っていたレンドル夫人と、エドバーグのガールフレンドの表情が対照的だったこと。

レンドルが追い込まれれば、追い込まれるほど、奥さんは本当に落ち着いた菩薩の如き無表情だったが、
正反対にエドバーグのGFは「しめた!」としたり顔そのものだった。

レンドルは「妻は世界中でもっとも大切な存在だ」とコメントしている。
先日、女の子の赤ちゃんも産まれたし、精神的に安定している今、
ぜひ来年もコンディションを調整して、ウィンブルドン初制覇を何度でも貪欲にチャレンジして欲しい。


 



そして、決勝は昨年と同じボリス・ベッカー×ステファン・エドベリの対戦となった。


男子決勝 ボリス・ベッカー×ステファン・エドベリ
エドバーグは最初の2セットを驚くべき落ち着きで取った。
ベッカーのサーヴをうまく抑えて足元へ落とし、彼のハーフボレーの甘いところをファーストボレーで決める作戦はかなり有効で、
それであのブンブンサーヴにもプレッシャーがかかり、多くの凡ミスを招いた。

しかし、第3セットからは、さすがにベッカーのサーヴにも拍車がかかり、
今度はエドバーグの調子が少し崩れはじめた。
しかし、こうして2セットずつ互いに取って、ファイナルセットを見るかぎり、2人の実力の差は本当にわずかだ。

相変わらず滑ったり、叫んだりしていたボリスに比べて、エドバーグは終始静かなプレーを保った。
つまりは精神の安定を保っていたことが勝敗を決めたのだろう。

第5セットは4-4でエドバーグがブレイクしてからは5-4でのエドバーグのサービスだったので、
1ポイント1ポイント凄い緊張の中でも、確実にチャンピオンへの手ごたえを感じ取っていた。
ポイントを決めるごとにエドバーグは天を仰いでガッツポーズをした。

最後はベッカーのレシーヴミスで、エドバーグの優勝はナブラチロワの時と同じく静かに決定した。
確かに他の選手と違って、エドバーグの優勝は、ともすれば忘れてしまいそうになるほど地味で穏やかなものだ。

しかし、準決勝でレンドルに勝った時でさえ、あまり笑顔を見せず、この2週間ずっと厳しい中で集中力を持続させてきた。
それがスッとほどけて、ファイナルを決めた後の表情にはなんとも言えないものがあった。



実に2年ぶりの優勝。ベッカーは空を見つめていた。
たくさんの選手がそれぞれ「ここぞ」と臨んで戦ったウィンブルドン'90は、
イギリスの暖かい陽射しを浴びて、その疲れを癒やすために、また来年まで静かな休養に入る。

MEN'S SINGLE:ステファン・エドバーグ(23歳)
WEMEN'S SINGLE:マルチナ・ナブラチロワ(33歳)


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