※「作家別」カテゴリー内「ミヒャエル・エンデ」に追加します
エンデの代表作『はてしない物語』は私の大好きな本のトップ10に入る
初めて読んだ時のドキドキワクワクする気持ちも思い出せる
でも『モモ』に関しては、自分のノートには
読んだという記録はあるけれども感想メモもなく
内容もほとんど覚えていない
時間を奪われるというテーマは
今も昔もとても共感できて
それから早く解放される世界にならないかなと常々思っている
いつも紐づけて思い出されるのは
カーペンターズで私が好きな歌
♪Mr. Guder/The Carpenters
和訳はこちら
灰色の男たちの会議はまるで国会の議会みたい
時間という文字をお金に変えてもまるで違和感がない
*
一度読んだ本を二度、三度読まない自分が
もう一度改めて読みたいと思った中の一つ
引っ越すたびに大好きだった本もほとんど BOOK OFFなどに売り払い
本書も一旦は手放したのだけれども、また買い直して
ずっと手元に置いておきたい本だけの仲間入りをしている
今読むと時間が過ぎるスピードの速さ
「もっとお金を」「もっと時間を」
「足りない、足りない」と言って働き詰めている
世界中の人たちの姿がそのまま書かれていることに気づく
そのスピードは年々加速し続けている
それを強制的に制限されているのが、今の自粛期間だと思う
パラレルワールドがあるとしたら
みんなそれぞれ行きたい世界へと分かれていくのだろう
自分がそれを選択したのならまだしも
無自覚であるなら、一旦立ち止まって
自分の心の奥底の声を聞く必要がある
自分が本当に満たされるのはどんな時か?
エンデは好きだけれども『鏡の中の鏡』はまだ読んでいない
・『鏡の中の鏡』について - Ewig-Kindlich
いつか読む機会があるだろうか?
本書の表紙画、挿画を描いたのもエンデだそう/驚
私が買ったのは箱入りで、改めて細かい線画を観ると
本書の世界観が凝縮されている
後ろ向きのモモがどんな表情をしたコなのかは
読む人それぞれの心の中にある
モモが本書の中で自然にしていることは「傾聴」
どんな有難いアドバイスや哲学より
人の心を開かせると私たちに教えてくれている
【内容抜粋メモ】
※ひっかる箇所が多すぎて、また長くなります
昔々にもすでに立派な大都市があり、円形劇場がありました
みんな芝居が好きでたまなかったからです
演じられることに聞き入ると
まるで自分たちの日常より真実ではないかと思えるのです
幾世紀が流れ、大都市は滅び
人々は自動車や電車で動き回るようになっても
円形劇場はまだ遺っています
モモの物語はそこで起きたのです
*
廃墟に住みついたのはモモという少女
背が低く、痩せて、いつも裸足
だぶだぶの男ものの上着を着ています
生活の辛さを知る親切な人たちが集まり
家は? 親は? と聞いても答えられない
警察に届ければ施設に入れてもらえると言うと
モモ:私はそこから逃げて来たの 悪いこともしていないのに毎日ぶたれるのよ
*
みんなはモモの部屋を作り
毎日代わる代わる食べ物を持ってくるようになり
モモにはたくさんの友だちが出来て
モモはなくてはならない存在となる
なにかあると「モモのところに行ってごらん」と言うのが決まり文句になった
モモは未来を予言したり、曲芸は出来なくても
相手の話を聞くことが出来ました
モモに話していると、驚くようないい考えが浮かんでくるのです
「おれがいなくても、別のやつがその場所をふさぐだけさ」
と喋っているうちに
「おれは世界中にひとりしかいない大切な存在なんだ」という具合
*
ある日、左官屋のニコラと、居酒屋のニノが殺し合いになりかねないケンカをする
ツボを壊したこと、名誉を傷つけたことなど
いろいろモモに聴いてもらううちに恥ずかしくなり仲直り
ケンカのもとは、ほんの些細なことだったと分かり笑い合う
モモは犬や猫、雨、木々、風にまで耳を傾けました
するとみな、それぞれのことばでモモに話しかけてくるのです
*
モモがいるようになってから、子どもたちがより楽しく遊べるようになりました
航海ごっこをしていると、本当に夕立が来て
それぞれ船長、研究者などになって闘う
オバケクラゲと戦い、台風の目に入ろうとすると巨大な怪物が現れる
対怪物砲を撃ち込むが歯が立たない
海の娘が古い歌を歌い始めると嵐はピタリと止む
「原住民の言い伝えの奥深くには真実が潜んでいることが多いんだ」
*
モモには2人の親友がいる
1人は道路掃除夫のベッポ
質問されると、どう答えるべきかとても時間をかけて考える
「世の中の不幸はすべて、みんながやたらとウソをつくことから生まれている
せっかちすぎたり、正しくものを見極めわめないせいだ」
自分の仕事が好きで、ゆっくり着実にやりました
汚れた道路を前にしていると、とても意味深いことが浮かぶことがあります
ベッポ:
とても長い道路を受け持つことがあって、これじゃやりきれないと思ってしまう
一度に道路ぜんぶを考えてはいかん
次の一歩のことだけ、次のひと呼吸のことだけ考えるんだ
(マインドフルネスだね
すると楽しくなる これが大事だ
楽しければ仕事ははかどる
昔のわしらに会ったよ
世界が透き通って見えてくる
その底に他の時代が沈んでいる
(パラレルワールドみたい
そこにいる2人は今とは違う姿だ
だが、お前とわしだと分かったんだ!
もう1人の親友は器量よしの若者 観光ガイドのジロラモのジジ
大嘘を並べて、最後に帽子をさし出すとお金を払ってくれる
ジジ:
詩人だってそうじゃないか
学者の本も作り話かもしれない
本当のことは誰も知らないんだもの
本当とかウソとか一体どういうことだい?
ジジは有名になり、金持ちになる夢がある
ジジ:でも、いい暮らしをするために命も魂も売り渡すやり方はイヤだな
正反対の2人はとても仲良し
*
それは音もなく、人目につかず、日1日と深く入って来る侵略軍のようでした
ますます数を増やして大都会でなにやら精力的に働きまわる灰色の男たちに
みんなは気づきません
頭から足まで灰色の服の紳士は、しょっちゅう小さなメモになにか書き込んでいます
灰色の書類かばんを抱え、いつも灰色の葉巻をくゆらしています
モモだけは男たちをよく見ていました
これまでにない寒気に襲われ、その後しばらく現れませんでした
*
ジジの空想力は、モモと知り合ってから空高く舞い上がり
子どもも大人も聞きに押し寄せました
例えば、ブルブル族とビクビク族の絶え間ない戦争の話
王は成長すると純金にかわる金魚をもっていて
女帝はなんとしても欲しいと言うと
代わりにクジラの赤ん坊を届けさせました
成長しきった時はじめて金になると言われて
どんどん大きくなる魚がすべてになる女帝
「大きければ大きいほどいい」
魚にばかり気を取られ、国を治めなかったため
王は帝国全土を征服し、ようやく真実に気づいた女帝は
水槽に身を投げ、魚のそばで死んだ
ジジはモモがいるかぎり、二度と同じ話を繰り返すことはなかった
例えば、残虐な暴君の話
「これまでとまったく同じ大きさの新しい地球を作れ」と命じる
その材料は地球から取るため、地球はだんだんやせ細る
人々は新しい地球に移り住み、古い地球はなくなってしまう
ジジ:今の世界は、その新しいほうの地球なんですよ
上品な中年婦人は悲鳴を上げて逃げ出した(ww
いちばん大切にしていたのは、ジジとモモを主人公にした話で2人だけのもの
モモは「魔法の鏡」というタイトルを考え、ジジが話しだす
永遠の命を持つ一人ぼっちのお姫さまの周りは鏡にうつったただの影
丸い鏡を毎日世界に送ると、そこに映る影を集めてくる
その鏡に自分の姿を映すと、永遠の命は失われる
ある日、鏡は若い王子の影を持ち帰り、どうしても会いたいと思い
とうとう鏡に自分を映す決心をする
王子はジロラモといい、“あしたの国”を支配している
妃選びのために美しい娘たちが宮殿に集められる
そこに悪い妖精も来て、惑わされた王子は
「1年間は鏡を見ない」という条件を出す
モモ姫は下界で王子を探し始め、“きょうの国”に着いた時は裸足でボロボロ
王子はふと鏡を見てしまい、そこに映るモモを見て
妖精の罠にかかっていたことに気づく
妖精の呪いで、王子は“あしたの国”の王子と忘れて彷徨う
ある廃墟でモモ姫と出会った時、2人は互いが分からなかったが
鏡に映すと思い出し、2人は一緒に“あしたの国”に向かう
2人で鏡を覗くとまた永遠の命となって
*
日常的な秘密 それは時間
同じ時間でも永遠に感じることもあれば、一瞬に思えることもある
時間とはすなわち生活だから
その人の心にあるからです
それを誰より知っているのは灰色の男たち
彼らは人間の時間に対して、ある大々的な計画を練り上げた
例えば、床屋のフージー氏の場合
「オレの人生はハサミと、お喋りで過ぎていくのか
死んだら、もともといなかったみたいに忘れられてしまうんだ
でも、仕事はけっこう楽しいし、腕に自信もある
もしちゃんとした暮らしができていたら
今とは全然違う人間になっていただろう
なんとなく立派そうな生活
週刊誌に載るようなしゃれた生活
それをするには時間のゆとりがなさすぎる」
そこに灰色の男が入って来る
「私は時間貯蓄銀行から来ました
あなたは口座を開きたいとお考えですね?
時間は倹約するしかありません
あなたは時間を無駄遣いしています
70歳まで生きるとして計算してみましょう」
2,207,520,000秒
フージー氏は42歳だが、突然、時間を無駄にする罪をおかした気持ちになる
灰色の男は、細かく彼の時間を計算していく
睡眠時間 毎日8時間だけでも4億4150万4000秒のムダ
三度の食事 1日2時間・・・
歳をとった母親のための1時間お喋り
飼っているボタンインコの世話に毎日15分
毎週1回映画に行き、週に2回飲み屋に行く
ダリア嬢は一生車いす生活だが、あなたは毎日花をもって訪ねている
あなたは役に立たないことに時間を浪費している
灰色の男:
おわかりになったでしょうが、どれだけ残りがあるか見てみましょう
計算すると「0秒」
0の長い行列を見てフージー氏は打ちひしがれる
灰色の男:
1日2時間の倹約なんてなんです?
あなたが62歳になった暁には、この大資本が自由に使えるわけです
時間貯蓄銀行は利子まで払います
どれくらい長く銀行に預けたままにしておくかによります
(今の銀行のシステムにそっくり!
仕事をさっさとやって、余計なことは止めちまうんです
1人のお客に1時間もかけないで15分で済みます
お母さんは安くていい養老院に入れてしまう
インコを飼うのは止めなさい
店の中に正確な大きい時計をかけるといいですよ
フージー氏:お任せしましょう
灰色の男:
あなたはほんとうに近代的、進歩的な人間の仲間に入りました
おめでとう!
完全な信頼の上になりたっているから契約書もない
言葉は取り消せません
では、ごきげんよう
灰色の男が店から出た時には、男も訪問の記憶もすっかり消えていたが
取り決めのことは心にしっかり食い込んだ
それから彼はひと言も話さず仕事をした
こうなると仕事はちっとも楽しくない
ダリア嬢には事務的な手紙で、暇がないからもう行けないと知らせた
インコはペット屋に売り、母親は養老院に入れた
彼はそれらを自分の考えだと思い込んだ
倹約した時間は跡形もなく消え
1年、また2年と飛び去っていく
毎日がますます早く過ぎるのに気づいて愕然としても
死に物狂いで時間を倹約した
こうして「時間節約」する人は日ごとに増えた
メディアも、効率的な新しい文明の利器を褒め称えた
「これこそ人間が将来、本当の生活ができる」
「時間節約こそ幸福への道!」
「時は金なり」
などの広告が増え、学校、幼稚園にまで張り出された
みんなお金を余計に稼ぎ、いい服装になったが
いつもくたびれた不機嫌な顔になった
遊ぶ時ですら、娯楽を詰め込み、やたらとせわしなく遊ぶ
一番堪えがたいのは静けさでした
ほんとうは心のどこかで気づいていたので、静かになると不安でたまらないのです
(だから瞑想が必要なわけだ
静けさが来そうになると、騒音をたて、都会に不愉快な騒音が増えた
旧市街の家々は壊され、全部同じ家になった
そのほうが安上がりで時間を節約できます
生活は日ごとに貧しく、画一的になっていくのを
はっきり感じたのは子どもたちです
子どもと遊んでくれる大人が1人もいなくなったからです
*
モモ:お友達がだんだん来なくなった気がするの
ジジ:オレの話を聞くやつも減っちまった
その代わり、円形劇場に遊びに来るのは新しい子どもたち
ベッポ:かれらはただ、隠れ場が欲しいだけなんだ
以前は、木箱、モグラの穴などで十分遊べましたが
新しい子どもたちは、たくさんのオモチャを持っていても
遊ぶことがまるきり出来ないのです
高価な遠隔操作で走る戦車などはそれ以上のことには役に立ちません
自分で空想を働かせる余地がまったくないのです
「ねえ、ジジ、なにかお話しして」
ジジ:それよりみんなの話を聞きたいよ
「うちは立派な自動車を買った 大きくなったら僕も自動車を買いたいな」
「あたしは毎日映画に行かせてもらえる
うちの人はみんな忙しいから、映画を観るお金をくれるの」
「僕はレコードを11枚持ってる
パパはくたびれて、お話をしてくれる元気がないんだ
ママも1日中留守さ」
「オレたちを厄介払いするためなんだ」とみんな泣き始める
「もう来られなくなるかも
ここの人たちは怠け者だって
ここに来ると君たちみたいな人になっちゃうって言われた」
ベッポ:わしは神さまからだろうと、1秒の時間も盗んだことなどない!
モモ:私も
ジジ:
オレもだ!
以前は、みんなモモに話を聞いてもらって自分自身を見つけ出していた
オレの話を聞いて、自分自身を忘れたものだ
フージーはいい奴だったが、急にヒマがなくなったと言う
ありゃもうただの抜け殻だ
伝染性の気ちがい病があると考えたくなるよ!
モモ:じゃあ、友だちを助けてあげなきゃ!
*
翌日から古い友だちを訪ね歩くと
ニコラは新興住宅地で働いていて、金回りがよく、滅多に家に帰らない
帰ってもひどく酔っぱらっている
モモは辛抱強く待ち、ニコラと再会する
ニコラ:
時代はどんどん変わる 悪魔みたいなテンポだ
なにもかも組織だっている
酔っぱらわないとガマンできなくなるのさ
モルタルにやたら砂を入れて、4、5年はもつが、すぐに壊れる
あんなものは家じゃない 死人用の穴ぐらだ!
いつかたんまり金がたまったら、仕事におさらばして、別のことをするよ
ニコラと明日会う約束をするが、彼は来なかった
居酒屋のニノを訪ねると
昔からの大事な客を追い出そうとしているニノに腹を立てている妻リリアーナ
ニノ:
家主が店の家賃を上げたんだ なんでも物価が上がってる
一生ケチな居酒屋の主人で終わらない
いっぱしの成功をするのが悪いのか?
オレだってあのじいさんたちが好きだった
でも時代が変わったんだ
モモは古い友だちを訪ね歩くと、以前と変わらない付き合いが復活した
それは灰色の男たちにとって許しがたい行いでした
*
ある日、モモは高価な人形を見つける
「あたしはビビガール 完全無欠なお人形です」
「あたしを持っていると、みんながあなたを羨ましがるわ」
「あたし、もっといろいろなものが欲しいわ」
(バービー人形かリカちゃん人形みたいな感じかな
モモは人形と話そうとしても、この3つを繰り返すばかりで
これまで感じたことのない気持ちになる
それが退屈さと分かるまでに時間がかかった
ふと灰色の自動車が停まっていることに気づいて
灰色の男がやって来た
灰色の男:嬉しそうじゃないね
モモは世の中から楽しいことがすっかり消えてしまった気がした
灰色の男:
この人形と遊ぶにはなにかあげなくちゃ
洋服がいるよ 本物のミンクのコート、テニスの服、
ヘビ皮のハンドバッグ、人形用のテレビはちゃんと映るんだよ
いろんなものを買ってあげれば退屈せずに済むんだ
ビビガールにはお似合いのビビボーイもいる
彼にもたくさんの付属品がある
それにも飽きたら、女友だちもいる
これをみんな君にあげよう!
そうなれば君はもう友だちなんかいらないだろう?
モモはある戦いの中に巻き込まれていると感じました
この男は人を不安にさせるけれども
なぜか可哀想にも思えました
モモは相手の中にすっかり入り込んで
その人の考えや、本当の心を理解できましたが
この男では、からっぽの闇に落ちていく感じで
そんなの初めてです
灰色の男:
人生で大事なことは1つしかない
なにかに成功すること
たくさんのものを手に入れることだ
そうなった人間には、友情、愛などはひとりでに集まってくる
君はみんなの前進をはばんでいる!
だから我々は、君の友だちを君から守ろうとしている
モモは勇気を奮い起こして、灰色の男の闇の中にまっしぐらに入りました
灰色の男:
君みたいな人間は初めてだ
君みたいな人間がたくさんいたら
我々の時間貯蓄銀行はすぐに潰れて
我々自身も消えてしまう
我々は人間の記憶に残らないよう気をつけている
知られない間しか仕事ができない
我々は時間に飢えている
君たちは時間のなんたるかを知らない!
我々の数が増えるほどもっとたくさん要るんだ
おまえは、私のことを忘れてくれなくちゃいけない
忘れてくれ!
たちまち自動車のトランクにすべて吸い込まれ走っていってしまう
記憶は消えなかった
モモは灰色の男のほんとうの声を聞いたからです
*
夕方、ジジとベッポが来て、その話をすると
ジジ:
おれたちで街全体を救うんだ!
奴らの正体を暴きゃいいんだ
時間どろぼうを捕まえるにゃ、時間をエサにするわけさ
町のどこかになにか建物があるにちがいない
それを見つけりゃいいんだ
古い友だちをみんな動員しよう
最近来る子どもたちもだ
ベッポ:
軽々しく挑発したら、モモを危ない目に遭わせることになる
子どもたちまで危険に落とすことにならないか?
ジジ:
世の中は全体がひとつのでっかいお話なのさ
おれたちゃみんなその登場人物なんだ
(それは同感
*
翌日、円形劇場には大人は来ませんでしたが
子どもは5、60人集まりました
パオロ:どうやって時間なんか盗めるのかな?
フランコ:警察なんかまるきり役には立たないってことさ
ジジ:
子どもたちでデモ行進するんだ
円形劇場で説明集会するから来てくださいって呼びかけるんだ
みんなはのぼりやプラカードを作り、シュプレヒコールを叫びました
「日曜の6時に集まるんだ そしたらみんなは自由になる!」
これを見た子どもたちが加わり、デモは数千人にふくれあがりました
*
日曜の6時 町の人は1人も現れませんでした
大人たちはデモ行進に気づきさえしなかったのです
子どもたちは次々と帰って行きました
フランコ:
大人を信用しちゃいけなかったんだ
今後はもう絶対に相手にするもんか
ベッポは特別勤務があると日曜の夜にも仕事に出かけた
ベッポ:人手不足とかなんとかでな
ジジ:オレは夜警をすることになってるんだ
*
大都会から離れた郊外に、見上げるようなゴミの堆積が続いていました
大都会から毎日吐き出されるゴミで、焼却炉に運ばれるのを待っているのです
ベッポは疲れて、そこで眠りこんでしまいました
目覚めると、ごみの山を埋め尽くして、灰色の男たちが立ち並んでるではありませんか
裁判官のようなテーブルがあります
「NO.BLW/555/c 重罪裁判の法廷前に進み出よ!
子どもは、我々の天敵だ
子どもに時間を節約させるのははるかに難しい
つまりこの子は、ほかの人間に影響力を持ち
我々の仕事を著しく妨げている」
NO.BLW/555/c:
あの子の話の聞き方は、なにもかも吐き出させるような独特の聞き方なのです
「被告には罰として、一切の時間の供与を即刻停止する」
灰色の男が彼の書類かばんと葉巻をひったくると
途端に透明になり消えてなくなってしまいました
エンデの代表作『はてしない物語』は私の大好きな本のトップ10に入る
初めて読んだ時のドキドキワクワクする気持ちも思い出せる
でも『モモ』に関しては、自分のノートには
読んだという記録はあるけれども感想メモもなく
内容もほとんど覚えていない
時間を奪われるというテーマは
今も昔もとても共感できて
それから早く解放される世界にならないかなと常々思っている
いつも紐づけて思い出されるのは
カーペンターズで私が好きな歌
♪Mr. Guder/The Carpenters
和訳はこちら
灰色の男たちの会議はまるで国会の議会みたい
時間という文字をお金に変えてもまるで違和感がない
*
一度読んだ本を二度、三度読まない自分が
もう一度改めて読みたいと思った中の一つ
引っ越すたびに大好きだった本もほとんど BOOK OFFなどに売り払い
本書も一旦は手放したのだけれども、また買い直して
ずっと手元に置いておきたい本だけの仲間入りをしている
今読むと時間が過ぎるスピードの速さ
「もっとお金を」「もっと時間を」
「足りない、足りない」と言って働き詰めている
世界中の人たちの姿がそのまま書かれていることに気づく
そのスピードは年々加速し続けている
それを強制的に制限されているのが、今の自粛期間だと思う
パラレルワールドがあるとしたら
みんなそれぞれ行きたい世界へと分かれていくのだろう
自分がそれを選択したのならまだしも
無自覚であるなら、一旦立ち止まって
自分の心の奥底の声を聞く必要がある
自分が本当に満たされるのはどんな時か?
エンデは好きだけれども『鏡の中の鏡』はまだ読んでいない
・『鏡の中の鏡』について - Ewig-Kindlich
いつか読む機会があるだろうか?
本書の表紙画、挿画を描いたのもエンデだそう/驚
私が買ったのは箱入りで、改めて細かい線画を観ると
本書の世界観が凝縮されている
後ろ向きのモモがどんな表情をしたコなのかは
読む人それぞれの心の中にある
モモが本書の中で自然にしていることは「傾聴」
どんな有難いアドバイスや哲学より
人の心を開かせると私たちに教えてくれている
【内容抜粋メモ】
※ひっかる箇所が多すぎて、また長くなります
昔々にもすでに立派な大都市があり、円形劇場がありました
みんな芝居が好きでたまなかったからです
演じられることに聞き入ると
まるで自分たちの日常より真実ではないかと思えるのです
幾世紀が流れ、大都市は滅び
人々は自動車や電車で動き回るようになっても
円形劇場はまだ遺っています
モモの物語はそこで起きたのです
*
廃墟に住みついたのはモモという少女
背が低く、痩せて、いつも裸足
だぶだぶの男ものの上着を着ています
生活の辛さを知る親切な人たちが集まり
家は? 親は? と聞いても答えられない
警察に届ければ施設に入れてもらえると言うと
モモ:私はそこから逃げて来たの 悪いこともしていないのに毎日ぶたれるのよ
*
みんなはモモの部屋を作り
毎日代わる代わる食べ物を持ってくるようになり
モモにはたくさんの友だちが出来て
モモはなくてはならない存在となる
なにかあると「モモのところに行ってごらん」と言うのが決まり文句になった
モモは未来を予言したり、曲芸は出来なくても
相手の話を聞くことが出来ました
モモに話していると、驚くようないい考えが浮かんでくるのです
「おれがいなくても、別のやつがその場所をふさぐだけさ」
と喋っているうちに
「おれは世界中にひとりしかいない大切な存在なんだ」という具合
*
ある日、左官屋のニコラと、居酒屋のニノが殺し合いになりかねないケンカをする
ツボを壊したこと、名誉を傷つけたことなど
いろいろモモに聴いてもらううちに恥ずかしくなり仲直り
ケンカのもとは、ほんの些細なことだったと分かり笑い合う
モモは犬や猫、雨、木々、風にまで耳を傾けました
するとみな、それぞれのことばでモモに話しかけてくるのです
*
モモがいるようになってから、子どもたちがより楽しく遊べるようになりました
航海ごっこをしていると、本当に夕立が来て
それぞれ船長、研究者などになって闘う
オバケクラゲと戦い、台風の目に入ろうとすると巨大な怪物が現れる
対怪物砲を撃ち込むが歯が立たない
海の娘が古い歌を歌い始めると嵐はピタリと止む
「原住民の言い伝えの奥深くには真実が潜んでいることが多いんだ」
*
モモには2人の親友がいる
1人は道路掃除夫のベッポ
質問されると、どう答えるべきかとても時間をかけて考える
「世の中の不幸はすべて、みんながやたらとウソをつくことから生まれている
せっかちすぎたり、正しくものを見極めわめないせいだ」
自分の仕事が好きで、ゆっくり着実にやりました
汚れた道路を前にしていると、とても意味深いことが浮かぶことがあります
ベッポ:
とても長い道路を受け持つことがあって、これじゃやりきれないと思ってしまう
一度に道路ぜんぶを考えてはいかん
次の一歩のことだけ、次のひと呼吸のことだけ考えるんだ
(マインドフルネスだね
すると楽しくなる これが大事だ
楽しければ仕事ははかどる
昔のわしらに会ったよ
世界が透き通って見えてくる
その底に他の時代が沈んでいる
(パラレルワールドみたい
そこにいる2人は今とは違う姿だ
だが、お前とわしだと分かったんだ!
もう1人の親友は器量よしの若者 観光ガイドのジロラモのジジ
大嘘を並べて、最後に帽子をさし出すとお金を払ってくれる
ジジ:
詩人だってそうじゃないか
学者の本も作り話かもしれない
本当のことは誰も知らないんだもの
本当とかウソとか一体どういうことだい?
ジジは有名になり、金持ちになる夢がある
ジジ:でも、いい暮らしをするために命も魂も売り渡すやり方はイヤだな
正反対の2人はとても仲良し
*
それは音もなく、人目につかず、日1日と深く入って来る侵略軍のようでした
ますます数を増やして大都会でなにやら精力的に働きまわる灰色の男たちに
みんなは気づきません
頭から足まで灰色の服の紳士は、しょっちゅう小さなメモになにか書き込んでいます
灰色の書類かばんを抱え、いつも灰色の葉巻をくゆらしています
モモだけは男たちをよく見ていました
これまでにない寒気に襲われ、その後しばらく現れませんでした
*
ジジの空想力は、モモと知り合ってから空高く舞い上がり
子どもも大人も聞きに押し寄せました
例えば、ブルブル族とビクビク族の絶え間ない戦争の話
王は成長すると純金にかわる金魚をもっていて
女帝はなんとしても欲しいと言うと
代わりにクジラの赤ん坊を届けさせました
成長しきった時はじめて金になると言われて
どんどん大きくなる魚がすべてになる女帝
「大きければ大きいほどいい」
魚にばかり気を取られ、国を治めなかったため
王は帝国全土を征服し、ようやく真実に気づいた女帝は
水槽に身を投げ、魚のそばで死んだ
ジジはモモがいるかぎり、二度と同じ話を繰り返すことはなかった
例えば、残虐な暴君の話
「これまでとまったく同じ大きさの新しい地球を作れ」と命じる
その材料は地球から取るため、地球はだんだんやせ細る
人々は新しい地球に移り住み、古い地球はなくなってしまう
ジジ:今の世界は、その新しいほうの地球なんですよ
上品な中年婦人は悲鳴を上げて逃げ出した(ww
いちばん大切にしていたのは、ジジとモモを主人公にした話で2人だけのもの
モモは「魔法の鏡」というタイトルを考え、ジジが話しだす
永遠の命を持つ一人ぼっちのお姫さまの周りは鏡にうつったただの影
丸い鏡を毎日世界に送ると、そこに映る影を集めてくる
その鏡に自分の姿を映すと、永遠の命は失われる
ある日、鏡は若い王子の影を持ち帰り、どうしても会いたいと思い
とうとう鏡に自分を映す決心をする
王子はジロラモといい、“あしたの国”を支配している
妃選びのために美しい娘たちが宮殿に集められる
そこに悪い妖精も来て、惑わされた王子は
「1年間は鏡を見ない」という条件を出す
モモ姫は下界で王子を探し始め、“きょうの国”に着いた時は裸足でボロボロ
王子はふと鏡を見てしまい、そこに映るモモを見て
妖精の罠にかかっていたことに気づく
妖精の呪いで、王子は“あしたの国”の王子と忘れて彷徨う
ある廃墟でモモ姫と出会った時、2人は互いが分からなかったが
鏡に映すと思い出し、2人は一緒に“あしたの国”に向かう
2人で鏡を覗くとまた永遠の命となって
*
日常的な秘密 それは時間
同じ時間でも永遠に感じることもあれば、一瞬に思えることもある
時間とはすなわち生活だから
その人の心にあるからです
それを誰より知っているのは灰色の男たち
彼らは人間の時間に対して、ある大々的な計画を練り上げた
例えば、床屋のフージー氏の場合
「オレの人生はハサミと、お喋りで過ぎていくのか
死んだら、もともといなかったみたいに忘れられてしまうんだ
でも、仕事はけっこう楽しいし、腕に自信もある
もしちゃんとした暮らしができていたら
今とは全然違う人間になっていただろう
なんとなく立派そうな生活
週刊誌に載るようなしゃれた生活
それをするには時間のゆとりがなさすぎる」
そこに灰色の男が入って来る
「私は時間貯蓄銀行から来ました
あなたは口座を開きたいとお考えですね?
時間は倹約するしかありません
あなたは時間を無駄遣いしています
70歳まで生きるとして計算してみましょう」
2,207,520,000秒
フージー氏は42歳だが、突然、時間を無駄にする罪をおかした気持ちになる
灰色の男は、細かく彼の時間を計算していく
睡眠時間 毎日8時間だけでも4億4150万4000秒のムダ
三度の食事 1日2時間・・・
歳をとった母親のための1時間お喋り
飼っているボタンインコの世話に毎日15分
毎週1回映画に行き、週に2回飲み屋に行く
ダリア嬢は一生車いす生活だが、あなたは毎日花をもって訪ねている
あなたは役に立たないことに時間を浪費している
灰色の男:
おわかりになったでしょうが、どれだけ残りがあるか見てみましょう
計算すると「0秒」
0の長い行列を見てフージー氏は打ちひしがれる
灰色の男:
1日2時間の倹約なんてなんです?
あなたが62歳になった暁には、この大資本が自由に使えるわけです
時間貯蓄銀行は利子まで払います
どれくらい長く銀行に預けたままにしておくかによります
(今の銀行のシステムにそっくり!
仕事をさっさとやって、余計なことは止めちまうんです
1人のお客に1時間もかけないで15分で済みます
お母さんは安くていい養老院に入れてしまう
インコを飼うのは止めなさい
店の中に正確な大きい時計をかけるといいですよ
フージー氏:お任せしましょう
灰色の男:
あなたはほんとうに近代的、進歩的な人間の仲間に入りました
おめでとう!
完全な信頼の上になりたっているから契約書もない
言葉は取り消せません
では、ごきげんよう
灰色の男が店から出た時には、男も訪問の記憶もすっかり消えていたが
取り決めのことは心にしっかり食い込んだ
それから彼はひと言も話さず仕事をした
こうなると仕事はちっとも楽しくない
ダリア嬢には事務的な手紙で、暇がないからもう行けないと知らせた
インコはペット屋に売り、母親は養老院に入れた
彼はそれらを自分の考えだと思い込んだ
倹約した時間は跡形もなく消え
1年、また2年と飛び去っていく
毎日がますます早く過ぎるのに気づいて愕然としても
死に物狂いで時間を倹約した
こうして「時間節約」する人は日ごとに増えた
メディアも、効率的な新しい文明の利器を褒め称えた
「これこそ人間が将来、本当の生活ができる」
「時間節約こそ幸福への道!」
「時は金なり」
などの広告が増え、学校、幼稚園にまで張り出された
みんなお金を余計に稼ぎ、いい服装になったが
いつもくたびれた不機嫌な顔になった
遊ぶ時ですら、娯楽を詰め込み、やたらとせわしなく遊ぶ
一番堪えがたいのは静けさでした
ほんとうは心のどこかで気づいていたので、静かになると不安でたまらないのです
(だから瞑想が必要なわけだ
静けさが来そうになると、騒音をたて、都会に不愉快な騒音が増えた
旧市街の家々は壊され、全部同じ家になった
そのほうが安上がりで時間を節約できます
生活は日ごとに貧しく、画一的になっていくのを
はっきり感じたのは子どもたちです
子どもと遊んでくれる大人が1人もいなくなったからです
*
モモ:お友達がだんだん来なくなった気がするの
ジジ:オレの話を聞くやつも減っちまった
その代わり、円形劇場に遊びに来るのは新しい子どもたち
ベッポ:かれらはただ、隠れ場が欲しいだけなんだ
以前は、木箱、モグラの穴などで十分遊べましたが
新しい子どもたちは、たくさんのオモチャを持っていても
遊ぶことがまるきり出来ないのです
高価な遠隔操作で走る戦車などはそれ以上のことには役に立ちません
自分で空想を働かせる余地がまったくないのです
「ねえ、ジジ、なにかお話しして」
ジジ:それよりみんなの話を聞きたいよ
「うちは立派な自動車を買った 大きくなったら僕も自動車を買いたいな」
「あたしは毎日映画に行かせてもらえる
うちの人はみんな忙しいから、映画を観るお金をくれるの」
「僕はレコードを11枚持ってる
パパはくたびれて、お話をしてくれる元気がないんだ
ママも1日中留守さ」
「オレたちを厄介払いするためなんだ」とみんな泣き始める
「もう来られなくなるかも
ここの人たちは怠け者だって
ここに来ると君たちみたいな人になっちゃうって言われた」
ベッポ:わしは神さまからだろうと、1秒の時間も盗んだことなどない!
モモ:私も
ジジ:
オレもだ!
以前は、みんなモモに話を聞いてもらって自分自身を見つけ出していた
オレの話を聞いて、自分自身を忘れたものだ
フージーはいい奴だったが、急にヒマがなくなったと言う
ありゃもうただの抜け殻だ
伝染性の気ちがい病があると考えたくなるよ!
モモ:じゃあ、友だちを助けてあげなきゃ!
*
翌日から古い友だちを訪ね歩くと
ニコラは新興住宅地で働いていて、金回りがよく、滅多に家に帰らない
帰ってもひどく酔っぱらっている
モモは辛抱強く待ち、ニコラと再会する
ニコラ:
時代はどんどん変わる 悪魔みたいなテンポだ
なにもかも組織だっている
酔っぱらわないとガマンできなくなるのさ
モルタルにやたら砂を入れて、4、5年はもつが、すぐに壊れる
あんなものは家じゃない 死人用の穴ぐらだ!
いつかたんまり金がたまったら、仕事におさらばして、別のことをするよ
ニコラと明日会う約束をするが、彼は来なかった
居酒屋のニノを訪ねると
昔からの大事な客を追い出そうとしているニノに腹を立てている妻リリアーナ
ニノ:
家主が店の家賃を上げたんだ なんでも物価が上がってる
一生ケチな居酒屋の主人で終わらない
いっぱしの成功をするのが悪いのか?
オレだってあのじいさんたちが好きだった
でも時代が変わったんだ
モモは古い友だちを訪ね歩くと、以前と変わらない付き合いが復活した
それは灰色の男たちにとって許しがたい行いでした
*
ある日、モモは高価な人形を見つける
「あたしはビビガール 完全無欠なお人形です」
「あたしを持っていると、みんながあなたを羨ましがるわ」
「あたし、もっといろいろなものが欲しいわ」
(バービー人形かリカちゃん人形みたいな感じかな
モモは人形と話そうとしても、この3つを繰り返すばかりで
これまで感じたことのない気持ちになる
それが退屈さと分かるまでに時間がかかった
ふと灰色の自動車が停まっていることに気づいて
灰色の男がやって来た
灰色の男:嬉しそうじゃないね
モモは世の中から楽しいことがすっかり消えてしまった気がした
灰色の男:
この人形と遊ぶにはなにかあげなくちゃ
洋服がいるよ 本物のミンクのコート、テニスの服、
ヘビ皮のハンドバッグ、人形用のテレビはちゃんと映るんだよ
いろんなものを買ってあげれば退屈せずに済むんだ
ビビガールにはお似合いのビビボーイもいる
彼にもたくさんの付属品がある
それにも飽きたら、女友だちもいる
これをみんな君にあげよう!
そうなれば君はもう友だちなんかいらないだろう?
モモはある戦いの中に巻き込まれていると感じました
この男は人を不安にさせるけれども
なぜか可哀想にも思えました
モモは相手の中にすっかり入り込んで
その人の考えや、本当の心を理解できましたが
この男では、からっぽの闇に落ちていく感じで
そんなの初めてです
灰色の男:
人生で大事なことは1つしかない
なにかに成功すること
たくさんのものを手に入れることだ
そうなった人間には、友情、愛などはひとりでに集まってくる
君はみんなの前進をはばんでいる!
だから我々は、君の友だちを君から守ろうとしている
モモは勇気を奮い起こして、灰色の男の闇の中にまっしぐらに入りました
灰色の男:
君みたいな人間は初めてだ
君みたいな人間がたくさんいたら
我々の時間貯蓄銀行はすぐに潰れて
我々自身も消えてしまう
我々は人間の記憶に残らないよう気をつけている
知られない間しか仕事ができない
我々は時間に飢えている
君たちは時間のなんたるかを知らない!
我々の数が増えるほどもっとたくさん要るんだ
おまえは、私のことを忘れてくれなくちゃいけない
忘れてくれ!
たちまち自動車のトランクにすべて吸い込まれ走っていってしまう
記憶は消えなかった
モモは灰色の男のほんとうの声を聞いたからです
*
夕方、ジジとベッポが来て、その話をすると
ジジ:
おれたちで街全体を救うんだ!
奴らの正体を暴きゃいいんだ
時間どろぼうを捕まえるにゃ、時間をエサにするわけさ
町のどこかになにか建物があるにちがいない
それを見つけりゃいいんだ
古い友だちをみんな動員しよう
最近来る子どもたちもだ
ベッポ:
軽々しく挑発したら、モモを危ない目に遭わせることになる
子どもたちまで危険に落とすことにならないか?
ジジ:
世の中は全体がひとつのでっかいお話なのさ
おれたちゃみんなその登場人物なんだ
(それは同感
*
翌日、円形劇場には大人は来ませんでしたが
子どもは5、60人集まりました
パオロ:どうやって時間なんか盗めるのかな?
フランコ:警察なんかまるきり役には立たないってことさ
ジジ:
子どもたちでデモ行進するんだ
円形劇場で説明集会するから来てくださいって呼びかけるんだ
みんなはのぼりやプラカードを作り、シュプレヒコールを叫びました
「日曜の6時に集まるんだ そしたらみんなは自由になる!」
これを見た子どもたちが加わり、デモは数千人にふくれあがりました
*
日曜の6時 町の人は1人も現れませんでした
大人たちはデモ行進に気づきさえしなかったのです
子どもたちは次々と帰って行きました
フランコ:
大人を信用しちゃいけなかったんだ
今後はもう絶対に相手にするもんか
ベッポは特別勤務があると日曜の夜にも仕事に出かけた
ベッポ:人手不足とかなんとかでな
ジジ:オレは夜警をすることになってるんだ
*
大都会から離れた郊外に、見上げるようなゴミの堆積が続いていました
大都会から毎日吐き出されるゴミで、焼却炉に運ばれるのを待っているのです
ベッポは疲れて、そこで眠りこんでしまいました
目覚めると、ごみの山を埋め尽くして、灰色の男たちが立ち並んでるではありませんか
裁判官のようなテーブルがあります
「NO.BLW/555/c 重罪裁判の法廷前に進み出よ!
子どもは、我々の天敵だ
子どもに時間を節約させるのははるかに難しい
つまりこの子は、ほかの人間に影響力を持ち
我々の仕事を著しく妨げている」
NO.BLW/555/c:
あの子の話の聞き方は、なにもかも吐き出させるような独特の聞き方なのです
「被告には罰として、一切の時間の供与を即刻停止する」
灰色の男が彼の書類かばんと葉巻をひったくると
途端に透明になり消えてなくなってしまいました