メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

『モモ』 ミヒャエル・エンデ著 岩波書店 大島かおり訳 vol.1

2020-09-06 12:03:41 | 
「作家別」カテゴリー内「ミヒャエル・エンデ」に追加します







エンデの代表作『はてしない物語』は私の大好きな本のトップ10に入る
初めて読んだ時のドキドキワクワクする気持ちも思い出せる

でも『モモ』に関しては、自分のノートには
読んだという記録はあるけれども感想メモもなく
内容もほとんど覚えていない

時間を奪われるというテーマは
今も昔もとても共感できて
それから早く解放される世界にならないかなと常々思っている

いつも紐づけて思い出されるのは
カーペンターズで私が好きな歌

Mr. Guder/The Carpenters

和訳はこちら


灰色の男たちの会議はまるで国会の議会みたい
時間という文字をお金に変えてもまるで違和感がない



一度読んだ本を二度、三度読まない自分が
もう一度改めて読みたいと思った中の一つ

引っ越すたびに大好きだった本もほとんど BOOK OFFなどに売り払い
本書も一旦は手放したのだけれども、また買い直して
ずっと手元に置いておきたい本だけの仲間入りをしている


今読むと時間が過ぎるスピードの速さ
「もっとお金を」「もっと時間を」
「足りない、足りない」
と言って働き詰めている
世界中の人たちの姿がそのまま書かれていることに気づく
そのスピードは年々加速し続けている

それを強制的に制限されているのが、今の自粛期間だと思う

パラレルワールドがあるとしたら
みんなそれぞれ行きたい世界へと分かれていくのだろう

自分がそれを選択したのならまだしも
無自覚であるなら、一旦立ち止まって
自分の心の奥底の声を聞く必要がある

自分が本当に満たされるのはどんな時か?



エンデは好きだけれども『鏡の中の鏡』はまだ読んでいない

『鏡の中の鏡』について - Ewig-Kindlich


いつか読む機会があるだろうか?



本書の表紙画、挿画を描いたのもエンデだそう/驚
私が買ったのは箱入りで、改めて細かい線画を観ると
本書の世界観が凝縮されている

後ろ向きのモモがどんな表情をしたコなのかは
読む人それぞれの心の中にある

モモが本書の中で自然にしていることは「傾聴」
どんな有難いアドバイスや哲学より
人の心を開かせると私たちに教えてくれている




【内容抜粋メモ】

※ひっかる箇所が多すぎて、また長くなります







昔々にもすでに立派な大都市があり、円形劇場がありました
みんな芝居が好きでたまなかったからです
演じられることに聞き入ると
まるで自分たちの日常より真実ではないかと思えるのです

幾世紀が流れ、大都市は滅び
人々は自動車や電車で動き回るようになっても
円形劇場はまだ遺っています
モモの物語はそこで起きたのです



廃墟に住みついたのはモモという少女
背が低く、痩せて、いつも裸足
だぶだぶの男ものの上着を着ています

生活の辛さを知る親切な人たちが集まり
家は? 親は? と聞いても答えられない

警察に届ければ施設に入れてもらえると言うと
モモ:私はそこから逃げて来たの 悪いこともしていないのに毎日ぶたれるのよ





みんなはモモの部屋を作り
毎日代わる代わる食べ物を持ってくるようになり
モモにはたくさんの友だちが出来て
モモはなくてはならない存在となる

なにかあると「モモのところに行ってごらん」と言うのが決まり文句になった

モモは未来を予言したり、曲芸は出来なくても
相手の話を聞くことが出来ました

モモに話していると、驚くようないい考えが浮かんでくるのです

「おれがいなくても、別のやつがその場所をふさぐだけさ」
と喋っているうちに
「おれは世界中にひとりしかいない大切な存在なんだ」という具合





ある日、左官屋のニコラと、居酒屋のニノが殺し合いになりかねないケンカをする
ツボを壊したこと、名誉を傷つけたことなど
いろいろモモに聴いてもらううちに恥ずかしくなり仲直り
ケンカのもとは、ほんの些細なことだったと分かり笑い合う


モモは犬や猫、雨、木々、風にまで耳を傾けました
するとみな、それぞれのことばでモモに話しかけてくるのです





モモがいるようになってから、子どもたちがより楽しく遊べるようになりました

航海ごっこをしていると、本当に夕立が来て
それぞれ船長、研究者などになって闘う

オバケクラゲと戦い、台風の目に入ろうとすると巨大な怪物が現れる
対怪物砲を撃ち込むが歯が立たない

海の娘が古い歌を歌い始めると嵐はピタリと止む
「原住民の言い伝えの奥深くには真実が潜んでいることが多いんだ」




モモには2人の親友がいる
1人は道路掃除夫のベッポ
質問されると、どう答えるべきかとても時間をかけて考える

「世の中の不幸はすべて、みんながやたらとウソをつくことから生まれている
 せっかちすぎたり、正しくものを見極めわめないせいだ」

自分の仕事が好きで、ゆっくり着実にやりました
汚れた道路を前にしていると、とても意味深いことが浮かぶことがあります

ベッポ:
とても長い道路を受け持つことがあって、これじゃやりきれないと思ってしまう
一度に道路ぜんぶを考えてはいかん
次の一歩のことだけ、次のひと呼吸のことだけ考えるんだ

(マインドフルネスだね

すると楽しくなる これが大事だ
楽しければ仕事ははかどる


昔のわしらに会ったよ
世界が透き通って見えてくる
その底に他の時代が沈んでいる

(パラレルワールドみたい

そこにいる2人は今とは違う姿だ
だが、お前とわしだと分かったんだ!


もう1人の親友は器量よしの若者 観光ガイドのジロラモのジジ
大嘘を並べて、最後に帽子をさし出すとお金を払ってくれる

ジジ:
詩人だってそうじゃないか
学者の本も作り話かもしれない
本当のことは誰も知らないんだもの
本当とかウソとか一体どういうことだい?

ジジは有名になり、金持ちになる夢がある
ジジ:でも、いい暮らしをするために命も魂も売り渡すやり方はイヤだな


正反対の2人はとても仲良し




それは音もなく、人目につかず、日1日と深く入って来る侵略軍のようでした
ますます数を増やして大都会でなにやら精力的に働きまわる灰色の男たち
みんなは気づきません

頭から足まで灰色の服の紳士は、しょっちゅう小さなメモになにか書き込んでいます
灰色の書類かばんを抱え、いつも灰色の葉巻をくゆらしています

モモだけは男たちをよく見ていました
これまでにない寒気に襲われ、その後しばらく現れませんでした



ジジの空想力は、モモと知り合ってから空高く舞い上がり
子どもも大人も聞きに押し寄せました

例えば、ブルブル族とビクビク族の絶え間ない戦争の話
王は成長すると純金にかわる金魚をもっていて
女帝はなんとしても欲しいと言うと
代わりにクジラの赤ん坊を届けさせました

成長しきった時はじめて金になると言われて
どんどん大きくなる魚がすべてになる女帝

「大きければ大きいほどいい」

魚にばかり気を取られ、国を治めなかったため
王は帝国全土を征服し、ようやく真実に気づいた女帝は
水槽に身を投げ、魚のそばで死んだ


ジジはモモがいるかぎり、二度と同じ話を繰り返すことはなかった


例えば、残虐な暴君の話
「これまでとまったく同じ大きさの新しい地球を作れ」と命じる

その材料は地球から取るため、地球はだんだんやせ細る
人々は新しい地球に移り住み、古い地球はなくなってしまう

ジジ:今の世界は、その新しいほうの地球なんですよ

上品な中年婦人は悲鳴を上げて逃げ出した(ww


いちばん大切にしていたのは、ジジとモモを主人公にした話で2人だけのもの

モモは「魔法の鏡」というタイトルを考え、ジジが話しだす

永遠の命を持つ一人ぼっちのお姫さまの周りは鏡にうつったただの影
丸い鏡を毎日世界に送ると、そこに映る影を集めてくる

その鏡に自分の姿を映すと、永遠の命は失われる

ある日、鏡は若い王子の影を持ち帰り、どうしても会いたいと思い
とうとう鏡に自分を映す決心をする

王子はジロラモといい、“あしたの国”を支配している
妃選びのために美しい娘たちが宮殿に集められる

そこに悪い妖精も来て、惑わされた王子は
「1年間は鏡を見ない」という条件を出す

モモ姫は下界で王子を探し始め、“きょうの国”に着いた時は裸足でボロボロ

王子はふと鏡を見てしまい、そこに映るモモを見て
妖精の罠にかかっていたことに気づく

妖精の呪いで、王子は“あしたの国”の王子と忘れて彷徨う

ある廃墟でモモ姫と出会った時、2人は互いが分からなかったが
鏡に映すと思い出し、2人は一緒に“あしたの国”に向かう

2人で鏡を覗くとまた永遠の命となって





日常的な秘密 それは時間
同じ時間でも永遠に感じることもあれば、一瞬に思えることもある
時間とはすなわち生活だから
その人のにあるからです

それを誰より知っているのは灰色の男たち
彼らは人間の時間に対して、ある大々的な計画を練り上げた

例えば、床屋のフージー氏の場合

オレの人生はハサミと、お喋りで過ぎていくのか
 死んだら、もともといなかったみたいに忘れられてしまうんだ


 でも、仕事はけっこう楽しいし、腕に自信もある
 もしちゃんとした暮らしができていたら
 今とは全然違う人間になっていただろう

 なんとなく立派そうな生活
 週刊誌に載るようなしゃれた生活
 それをするには時間のゆとりがなさすぎる


そこに灰色の男が入って来る

「私は時間貯蓄銀行から来ました
 あなたは口座を開きたいとお考えですね?

 時間は倹約するしかありません
 あなたは時間を無駄遣いしています

 70歳まで生きるとして計算してみましょう」


2,207,520,000秒


フージー氏は42歳だが、突然、時間を無駄にする罪をおかした気持ちになる
灰色の男は、細かく彼の時間を計算していく

睡眠時間 毎日8時間だけでも4億4150万4000秒のムダ

三度の食事 1日2時間・・・

歳をとった母親のための1時間お喋り

飼っているボタンインコの世話に毎日15分

毎週1回映画に行き、週に2回飲み屋に行く

ダリア嬢は一生車いす生活だが、あなたは毎日花をもって訪ねている

あなたは役に立たないことに時間を浪費している







灰色の男:
おわかりになったでしょうが、どれだけ残りがあるか見てみましょう
計算すると「0秒」

0の長い行列を見てフージー氏は打ちひしがれる


灰色の男:
1日2時間の倹約なんてなんです?
あなたが62歳になった暁には、この大資本が自由に使えるわけです

時間貯蓄銀行は利子まで払います
どれくらい長く銀行に預けたままにしておくかによります

(今の銀行のシステムにそっくり!

仕事をさっさとやって、余計なことは止めちまうんです
1人のお客に1時間もかけないで15分で済みます

お母さんは安くていい養老院に入れてしまう
インコを飼うのは止めなさい

店の中に正確な大きい時計をかけるといいですよ


フージー氏:お任せしましょう

灰色の男:
あなたはほんとうに近代的、進歩的な人間の仲間に入りました
おめでとう!

完全な信頼の上になりたっているから契約書もない
言葉は取り消せません
では、ごきげんよう







灰色の男が店から出た時には、男も訪問の記憶もすっかり消えていたが
取り決めのことは心にしっかり食い込んだ

それから彼はひと言も話さず仕事をした
こうなると仕事はちっとも楽しくない


ダリア嬢には事務的な手紙で、暇がないからもう行けないと知らせた
インコはペット屋に売り、母親は養老院に入れた

彼はそれらを自分の考えだと思い込んだ
倹約した時間は跡形もなく消え
1年、また2年と飛び去っていく

毎日がますます早く過ぎるのに気づいて愕然としても
死に物狂いで時間を倹約した


こうして「時間節約」する人は日ごとに増えた
メディアも、効率的な新しい文明の利器を褒め称えた

「これこそ人間が将来、本当の生活ができる」

「時間節約こそ幸福への道!」

「時は金なり」

などの広告が増え、学校、幼稚園にまで張り出された


みんなお金を余計に稼ぎ、いい服装になったが
いつもくたびれた不機嫌な顔になった

遊ぶ時ですら、娯楽を詰め込み、やたらとせわしなく遊ぶ

一番堪えがたいのは静けさでした
ほんとうは心のどこかで気づいていたので、静かになると不安でたまらないのです

(だから瞑想が必要なわけだ

静けさが来そうになると、騒音をたて、都会に不愉快な騒音が増えた


旧市街の家々は壊され、全部同じ家になった
そのほうが安上がりで時間を節約できます







生活は日ごとに貧しく、画一的になっていくのを
はっきり感じたのは子どもたちです

子どもと遊んでくれる大人が1人もいなくなったからです



モモ:お友達がだんだん来なくなった気がするの

ジジ:オレの話を聞くやつも減っちまった

その代わり、円形劇場に遊びに来るのは新しい子どもたち
ベッポ:かれらはただ、隠れ場が欲しいだけなんだ

以前は、木箱、モグラの穴などで十分遊べましたが
新しい子どもたちは、たくさんのオモチャを持っていても
遊ぶことがまるきり出来ないのです

高価な遠隔操作で走る戦車などはそれ以上のことには役に立ちません
自分で空想を働かせる余地がまったくないのです


「ねえ、ジジ、なにかお話しして」

ジジ:それよりみんなの話を聞きたいよ

「うちは立派な自動車を買った 大きくなったら僕も自動車を買いたいな」

「あたしは毎日映画に行かせてもらえる
 うちの人はみんな忙しいから、映画を観るお金をくれるの」

「僕はレコードを11枚持ってる
 パパはくたびれて、お話をしてくれる元気がないんだ
 ママも1日中留守さ」

「オレたちを厄介払いするためなんだ」とみんな泣き始める

「もう来られなくなるかも
 ここの人たちは怠け者だって
 ここに来ると君たちみたいな人になっちゃうって言われた」

ベッポ:わしは神さまからだろうと、1秒の時間も盗んだことなどない!
モモ:私も

ジジ:
オレもだ!
以前は、みんなモモに話を聞いてもらって自分自身を見つけ出していた
オレの話を聞いて、自分自身を忘れたものだ


フージーはいい奴だったが、急にヒマがなくなったと言う
ありゃもうただの抜け殻だ
伝染性の気ちがい病があると考えたくなるよ!

モモ:じゃあ、友だちを助けてあげなきゃ!



翌日から古い友だちを訪ね歩くと
ニコラは新興住宅地で働いていて、金回りがよく、滅多に家に帰らない
帰ってもひどく酔っぱらっている

モモは辛抱強く待ち、ニコラと再会する

ニコラ:
時代はどんどん変わる 悪魔みたいなテンポだ
なにもかも組織だっている
酔っぱらわないとガマンできなくなるのさ


モルタルにやたら砂を入れて、4、5年はもつが、すぐに壊れる
あんなものは家じゃない 死人用の穴ぐらだ!

いつかたんまり金がたまったら、仕事におさらばして、別のことをするよ

ニコラと明日会う約束をするが、彼は来なかった



居酒屋のニノを訪ねると
昔からの大事な客を追い出そうとしているニノに腹を立てている妻リリアーナ

ニノ:
家主が店の家賃を上げたんだ なんでも物価が上がってる
一生ケチな居酒屋の主人で終わらない
いっぱしの成功をするのが悪いのか?

オレだってあのじいさんたちが好きだった
でも時代が変わったんだ


モモは古い友だちを訪ね歩くと、以前と変わらない付き合いが復活した
それは灰色の男たちにとって許しがたい行いでした



ある日、モモは高価な人形を見つける

「あたしはビビガール 完全無欠なお人形です」
「あたしを持っていると、みんながあなたを羨ましがるわ」
「あたし、もっといろいろなものが欲しいわ」

(バービー人形かリカちゃん人形みたいな感じかな

モモは人形と話そうとしても、この3つを繰り返すばかりで
これまで感じたことのない気持ちになる
それが退屈さと分かるまでに時間がかかった

ふと灰色の自動車が停まっていることに気づいて
灰色の男がやって来た

灰色の男:嬉しそうじゃないね

モモは世の中から楽しいことがすっかり消えてしまった気がした

灰色の男:
この人形と遊ぶにはなにかあげなくちゃ
洋服がいるよ 本物のミンクのコート、テニスの服、
ヘビ皮のハンドバッグ、人形用のテレビはちゃんと映るんだよ
いろんなものを買ってあげれば退屈せずに済むんだ

ビビガールにはお似合いのビビボーイもいる
彼にもたくさんの付属品がある
それにも飽きたら、女友だちもいる

これをみんな君にあげよう!
そうなれば君はもう友だちなんかいらないだろう?


モモはある戦いの中に巻き込まれていると感じました
この男は人を不安にさせるけれども
なぜか可哀想にも思えました

モモは相手の中にすっかり入り込んで
その人の考えや、本当の心を理解できましたが
この男では、からっぽの闇に落ちていく感じで
そんなの初めてです


灰色の男:
人生で大事なことは1つしかない
なにかに成功すること
たくさんのものを手に入れることだ

そうなった人間には、友情、愛などはひとりでに集まってくる

君はみんなの前進をはばんでいる!
だから我々は、君の友だちを君から守ろうとしている


モモは勇気を奮い起こして、灰色の男の闇の中にまっしぐらに入りました

灰色の男:
君みたいな人間は初めてだ
君みたいな人間がたくさんいたら
我々の時間貯蓄銀行はすぐに潰れて
我々自身も消えてしまう

我々は人間の記憶に残らないよう気をつけている
知られない間しか仕事ができない

我々は時間に飢えている
君たちは時間のなんたるかを知らない!
我々の数が増えるほどもっとたくさん要るんだ

おまえは、私のことを忘れてくれなくちゃいけない
忘れてくれ!


たちまち自動車のトランクにすべて吸い込まれ走っていってしまう

記憶は消えなかった
モモは灰色の男のほんとうの声を聞いたからです





夕方、ジジとベッポが来て、その話をすると

ジジ:
おれたちで街全体を救うんだ!
奴らの正体を暴きゃいいんだ

時間どろぼうを捕まえるにゃ、時間をエサにするわけさ
町のどこかになにか建物があるにちがいない
それを見つけりゃいいんだ

古い友だちをみんな動員しよう
最近来る子どもたちもだ

ベッポ:
軽々しく挑発したら、モモを危ない目に遭わせることになる
子どもたちまで危険に落とすことにならないか?

ジジ:
世の中は全体がひとつのでっかいお話なのさ
おれたちゃみんなその登場人物なんだ


(それは同感




翌日、円形劇場には大人は来ませんでしたが
子どもは5、60人集まりました

パオロ:どうやって時間なんか盗めるのかな?

フランコ:警察なんかまるきり役には立たないってことさ

ジジ:
子どもたちでデモ行進するんだ
円形劇場で説明集会するから来てくださいって呼びかけるんだ







みんなはのぼりやプラカードを作り、シュプレヒコールを叫びました

「日曜の6時に集まるんだ そしたらみんなは自由になる!」

これを見た子どもたちが加わり、デモは数千人にふくれあがりました



日曜の6時 町の人は1人も現れませんでした
大人たちはデモ行進に気づきさえしなかったのです

子どもたちは次々と帰って行きました

フランコ:
大人を信用しちゃいけなかったんだ
今後はもう絶対に相手にするもんか

ベッポは特別勤務があると日曜の夜にも仕事に出かけた
ベッポ:人手不足とかなんとかでな

ジジ:オレは夜警をすることになってるんだ




大都会から離れた郊外に、見上げるようなゴミの堆積が続いていました
大都会から毎日吐き出されるゴミで、焼却炉に運ばれるのを待っているのです

ベッポは疲れて、そこで眠りこんでしまいました

目覚めると、ごみの山を埋め尽くして、灰色の男たちが立ち並んでるではありませんか
裁判官のようなテーブルがあります

「NO.BLW/555/c 重罪裁判の法廷前に進み出よ!

 子どもは、我々の天敵だ
 子どもに時間を節約させるのははるかに難しい


 つまりこの子は、ほかの人間に影響力を持ち
 我々の仕事を著しく妨げている」

NO.BLW/555/c:
あの子の話の聞き方は、なにもかも吐き出させるような独特の聞き方なのです

「被告には罰として、一切の時間の供与を即刻停止する」

灰色の男が彼の書類かばんと葉巻をひったくると
途端に透明になり消えてなくなってしまいました

コメント

『モモ』 ミヒャエル・エンデ著 岩波書店 大島かおり訳 vol.2

2020-09-06 12:03:40 | 
『モモ』 ミヒャエル・エンデ著 岩波書店 大島かおり訳 vol1.


同じ頃、大きなカメが1匹、モモの顔をまっすぐ見ています
その甲羅にほんのり光る文字が見えます

「ツイテオイデ!」






円形劇場に灰色の自動車が何台も着いた時にはモモはいません

「本部に知らせるべきだ 大部隊に出動命令できる」


大都会は真夜中過ぎになっても眠りません
大勢がせかせか動き回って、イライラと押しのけあい
自動車がひしめき、ネオン広告が点滅しています


モモの部屋がからなのを見たベッポは
モモが彼らにもうさらわれてしまったと思う

ベッポ:モモになにか恐ろしいことが起きたんだ!

ベッポはジジに見たことを全部話しました

ジジ:
そいつらがモモを見つけたのは確かかい?
どこかうろついているだけかもしれないじゃないか
明日になればなにもかも、すぐまたよくなるよ

(先日読んだ『遠い部屋、遠い声』と同じセリフ!


時間貯蓄銀行員は大動員命令が発せられ
町には灰色の男たちがひしめいています


モモはややこしい道をカメのあとについて歩いています
カメはどこに追っ手が現れるか正確に知っているようでした


灰色の男:
子どもを見かけたのは、まるで知らない地区です
時間の境界線ぎわにあるみたいです


角を曲がると、突然ふしぎな光があたり一面から降り注いでいます
ここには見渡すかぎり誰もいません






カメは前よりもっとゆっくり歩いているのに、すごく早く前進するのにビックリしました
速度を上げるほど進まなくなります

灰色の男たちはチクショウ!と叫びながら必死に走りましたが
力尽きて、モモは消えてしまいました


煌びやか宮殿のようなところに
<さかさま小路>と標識があります

カメの甲羅に「ウシロムキニススメ!」と浮かびました

後ろ向きに歩くと、息も逆向き、考えることも逆向き!


<どこにもない家>





小さなドアをくぐると、「ツキマシタ」
ドアの名札には「マイスター・ゼクンドゥス・ミヌティウス・ホラ」とあります

※マイスター(賢者)・ゼクンドゥス(秒)・ミヌティウス(分)・ホラ(時間)の意味




灰色の男たちの幹部は全員、特別会議に召集されました

「我々の時間金庫は無尽蔵ではない!
 女の子は逃れてしまい、時間はムダに使い捨てられてしまった」

「我々はあの子を厄介払いした
 この成果に満足したいと考えます」

「あの子は普通ではありません
 捕まえて初めて害にならないと保証されるのです」

「今回の事件にはほかの力が手を貸している
 みんなも分かっているはず マイスター・ホラのことです」

灰色の男たちは殴られたように体を縮めました

「例の人物は、我々に対抗できる方策を授けて送り返してくる
 すべてを犠牲にする覚悟をせねばなりません!」

「我々に実際何ができる?」

「我々には、人間の手下がたくさんいる
 モモに関する危険をすべて排除すればいい
 諺に“打ち負かすことのできない相手こそ、友だち”というのがある
 
 この子はその道に案内することもできる
 あの場所をわがものとすれば、無限の権力を握れる!

 逆に利用すればいいのだ」

「我々の計画を教えてやるのだ
 代わりに欲しいだけの時間をやると約束するとか」

「あの子はもう欲しいだけの時間を持っている
 それなら彼女から時間を奪えばいい」

「我々は彼女の友だちを捕まえるべきだ
 友だちを取り戻すためなら、道を教えるでしょう」


うなだれていた男たちには、いっせいに勝ち誇った笑いが浮かんでいます



どんな広いホールより大きな広間に入るとあたり一面ロウソクの火が灯り
数えきれないほどの時計の音がします
それらは全部別々の時間をさしています

螺旋階段をのぼると、やさしい声が聞こえました

ホラ:カシオペイア! モモは連れてこなかったのかね?

細い老人は、金の刺繍の上着、青い絹のズボン
銀髪は頭の後ろに束ねて編んであります

モモに近づくと子どものように若返ってしまいました

ホラ:
これは星の時間をあらわす時計だ
宇宙には特別な瞬間が時々あるのだ
でも人間はその瞬間を利用することを知らず
気づかれないまま過ぎ去ってしまうことが多い

朝ごはんの支度が整っているよ


時間の国の時計の森に入ると、しゃれたソファやイスがあり
金褐色にパリっと焼けた巻パン、チョコレートの入ったポット・・・

モモは飲めるチョコレートがあるなんて知りませんでした
このパンほど美味しいものはありません
食べるにつれて疲れも取れ、食べるほどますます美味しくなります

ホラ:
君は彼らの1人にほんとうのことを白状させてしまった
しかもみんなに彼らの秘密を知らせようとした

カシオペイアはきっちり30分先までに起きることが確実に分かるんだ
だから大勢の灰色の男たちと出会わなかった
しかし、起きることを変更はできない

私は彼らをよく知っているし、向こうも私を知っている
私はあの連中をいつも見張っている
なんでも見えるメガネを持っているんだ


モモ:なぜ灰色の顔をしてるの?

ホラ:
死んだもので命をつないでいるからだ
人間は一人ひとり自分の時間を持っている
自分のものである間だけ、生きた時間なんだ

彼らは人間の姿をしているだけ
ほんとうはいないはずのものだ

人間がそういうものの発生を許しているから生まれてきた
そして彼らに支配させる隙まで与えている

お前はなぞなぞは好きかね?

3人のきょうだいがいる

一番上は今いない これからあらわれる
二番目もいないが、もう家から出かけた後
三番目だけがここにいる

三番目がいないと、あとの2人はなくなってしまうから


モモは苦戦するが

モモ:
一番目は未来だわ!
二番目は過去、三番目は今のことだわ!
つまり未来が過去に変わるから、現在があるんだわ!

答えは時間 この世界のことよ!

でも、時間って一体何なの?
分かった 一種の音楽なのよ
あたしはしょっちゅう聴いていた気がするわ


ホラ:
ここは、あらゆる人間の時間のみなもとなんだ
私はただ時間を司っているだけ
一人ひとりに定められた時間を配ること

その時間をどうするかは自分で決めなくてはならない
時計は、人間の胸の中にあるものを真似て象ったものなのだ
心が時間を感じとらない時は、ないも同じだ

モモ:私の心臓が鼓動を止めたらどうなるの?

ホラ:
おまえの時間もおしまいになる
あるいは、人生を逆に戻って、最後にたどり着き
またその門を出ていくのだ
おまえ自身がひとつの音になるのだよ

もし人間が死とはなにか知っていたら怖いとは思わないだろう
死を怖れなければ、時間を盗むなんて誰にも出来ないはずだ


でも人間は死を怖がらせる話のほうを信じたがるようだ
これも謎のひとつだ

時間のみなもとに連れていってあげよう
そこでは沈黙を守らねばならない



丸天井の下 天井には穴が開いていて光の柱がおりている
真下には池があり、どこからぶら下がっているのか大きな振り子が動いている

振り子が近づくと、これまで見たことのない美しい花が咲く
振り子が遠のくと花はしおれ、反対側に別のさらに美しい花が咲く

はるかかなたから聴こえてきた音楽は
星空の下で聴いた歌だと気づく

あらゆる惑星と恒星がそれぞれ本当の名前を告げている言葉
それが時間の花を咲かせている


ホラ:
どの人間にも今のような場所がある 心の中だ
お前の中で言葉が熟しきるまで時が必要だ
それだけ待てるかね?

モモはすぐに眠りに落ちる





モモが起きると円形劇場にいる
さっき覚えた歌をまた歌ってみる

カシオペイアが足元にいる

モモがいない間、灰色の男たちの計画は順調に進んだ

ジジは観光案内の権利金を相当受け取り大人気となる
ラジオ、テレビに出て、今では大邸宅に住んでいる
どんどん膨らむ需要に追いつかず、とうとうモモだけの物語まで話してしまうが
他のと同様、みんなはよく味わうことなく忘れて、さらに要求してくる

そのうちただ新しい題をつけて、内容はほぼ同じ
それに気づく者はいなかった

ジジは昔の生活を懐かしくてたまらなくなることがあるが戻れない
予定表はびっしりで、貧乏で無名のジジにも戻りたくない

灰色の男たちの話をしてしまおうと決心すると

灰色の男:
やめておけ お前をつくり出したのは我々だ
成功が来たのと同じ速さで逃げてゆくだけさ
深刻に考えないことだ

ジジは自身に対する尊敬をすっかり失くしてしまいました
今ではイカサマ師、聴衆の道化なのです



ベッポはまず交番に行きましたが
浮浪児の女の子で苗字も住所もないとなると捜索願の書類も作れない

警官:
私はヒマじゃない
体力も神経も参りかかっている

酔っ払いじゃないなら気違いだな
留置場に入れておけ!

ベッポは精神病患者の病院に入れられてしまう

灰色の男:
助け出そうなどとすると、あの子は償わされる
条件を飲むなら返してやる
身代金として10万時間貯蓄してもらおう

ベッポは今では仕事への愛情など持たずに、ただ時間を節約するために働いている



灰色の男たちにとって、最大の難事業は子どもたちを操ること
子どもたちはモモがまだいるかのように円形劇場で遊んでいた

そこで子どもにあれこれ指図できる大人たちが利用された

大人:
子どもは未来の人的資源だ
道徳的に堕落し、非行に走る可能性があるから対策を講じるべき

「子どもの家」が建てられ、親が面倒を見きれない子どもはみんなそこに入れられた
緑地などで遊ぶことは厳禁

子どもたちは楽しみ、夢中になること、夢見ることを忘れていった
小さな時間貯蓄家となり
好きなことをしていいと言われても何をすればいいか全然分からない

円形劇場には誰も来なくなった

モモは誰もいないのを不思議に思い、丸1年眠っていたと知る
自分の部屋に行くとジジからの古ぼけた手紙があった

「帰ったらすぐに知らせてくれ
 お腹が空いたらニノの所へ行けばいい
 勘定を全部僕に回してくれる」




モモは翌日から古い友だちを1人ひとり訪ねに行く

まずはニノの酒場に行くと「スピード料理 レストラン・ニノ」
大きなビルに変わっている

(ファストフードか

陳列された料理をとってレジに並ぶ長い行列
小さなテーブルでせかせか食べる人々

ニノはモモを見てとても喜び、ジジが払うからいくらでも食べていいと言うが
2人が話していると文句が飛び交い、ニノは落ち着いて話していられなくなる

ニノ:
ベッポはサナトリウムみたいな所に入れられて、それ以上は知らない
頼むからもう行ってくれ!



次の日はジジを訪ねる
郊外の高級住宅地の一番立派な屋敷でしばらく待つと
クルマが来て、ジジはモモを抱き上げ、何度も頬にキスをする

話をする時間がないため、空港まで行くクルマにモモを乗せる
後ろには3人の女性がいて、モモが物語の主人公だと分かると

「新聞社に連絡しましょう!」
「映画会社に引きあわせましょう!」
「せめてインタビューだけでも」

と2人の会話を遮り、ジジはクスリを飲み、それだけはダメだと断る

ジジ:
分かったろう? 戻りたくても戻れない
人生でいちばん危険なのは、叶うはずのない夢が叶うことだ
僕にはもう夢が残っていないんだ

でも貧乏でいるのはイヤだ
だから今のほうがマシなんだ
地獄でも居心地はいい

モモは彼が死の病だとよく分かった

ジジ:
僕と一緒にいてくれ!
一緒に住んで、話を聞いてくれるだけでいい

でも、もしモモがモモでなくなったら
彼の力になることもできません
モモの目に涙があふれ、首を横にふりました

モモはジジを失った気持ちになり、カシオペイアともはぐれてしまったと気づく


ベッポを探してあてどもなく彷徨い歩いても見つからない
その間も灰色の男たちは油断なく見張っていた

孤独にはいろいろある
モモは時間の山に埋もれてしまい
この2、3か月はとても長い時間でした



ある日、円形劇場に遊びに来ていた子ども2人に出会うが
灰色の制服みたいなものを着て、生気のない顔

子ども:
遊戯の授業で遊び方を習うんだ 将来の役に立つってことさ
最初は何回かここから出ようとしたけど、すぐに捕まった


灰色の男:
お前にやってもらいたいことがある
お前の友だちも返してやる

トラックに乗せられ、逃げる気がなくなるモモ
あの人たちを助けることができるのは私だけだと思うと
不安は勇気に変わり、負けるものかという気持ちになる



からっぽの広場に着き、四方を灰色の男たちのクルマに囲まれる

灰色の男:
本当のことを話そうじゃないか
お前はあらゆる人間から切り離されてしまったんだ

我々はマイスター・ホラに会ってみたいのだ
だが彼の居場所が分からない
お前は案内してくれるだけでいい

彼が物分かりよく話に応じれば大丈夫
そうでなきゃ、ムリにも分からせる方法がある

我々は一人ひとりからちびちびと時間を集めるのにうんざりした
全部をそっくりまとめてもらいたい

人間なんてもうとっくに要らない生き物になっている
今度は我々がこの世界を支配する!

モモ:知ってるのはカシオペイアだけだわ

灰色の男:緊急警報を出して、そのカメを探せ!


カシオペイアはモモの足元にいる
「ホラノトコロニ ユキマショウ スグチカクデス!」

灰色の男たちは、音もなく2人のあとを追いました
振り向くと時間泥棒たちがびっしりやって来るのを見て驚く

しかし「さかさま小路」に入ると男たちの体が消えてなくなる
彼らは怒りに燃えた顔でそれ以上追いかけるのをやめる





ホラ:
カシオペイアは私にとっても謎みたいなことがよくあるよ
灰色の男たちは私たちを包囲している

でもさかさま小路の時間の逆流のせいで消えてしまう
あすこを通るとその分だけ若くなる

人間は時間だけでできているわけじゃなく、それ以上のものだ
だが灰色の男たちは盗んだ時間だけでできているから何ひとつ残らない

時間の2つの流れは互いにつり合いを保っている
一方を止めれば、もう一方も消えてしまう・・・

そこでホラはある秘策を思いつく

始めがあった以上、終わりもある

彼らは私に無理強いさせる方法があると言った
私自身に手を出すことはできないが
人間にもっとひどい害を与えることで脅迫するつもりだ

私は人間にそれぞれの時間を送っている

彼らはあの葉巻なしには生きていけない
時間の花に冷気を吹きつけて凍らせておいている
それで葉巻を作るんだ
花は自由になれば、それぞれの持ち主のもとに帰ろうとする


彼らの煙がこの家を包んだら、時間が送り出せなくなる
すると人間は死ぬほどひどい病気になる

ある日急になにもする気がなくなる
何をしても面白くなくて感情をなくす(うつ病みたい

笑うことも泣くことも忘れる
致死的退屈症だ

私は人間が自力でこの悪霊から逃れるようになるのを待っていた
その気になればできたはずだ
やつらの生まれるのを助けたのは人間なのだから

でも、もう待てない 手伝ってくれるかい?
世界が永久に静止したままになるか
再び動き出せるかはお前次第になる

頼りになるのは自分だけ

私は絶対眠らない 眠れば時間が止まってしまう
しかし灰色の男たちも時間を盗めなくなる

時間がなくなれば、私は眠りから覚めることができなくなる

お前に一輪だけ時間の花を渡そう これで1時間だけ時間がある

時間が止まれば、彼らは時間貯蔵庫に駆けつけるだろう
彼らが蓄えた時間を取り出せないよう邪魔しなければならない
時間は人間に帰ってはじめて、私は眠りから覚めることができる


カシオペイア:ワタシモ イッショニユキマス!

ホラ:
カシオペイアは時間の圏外に生きているからね
自分の中に自分だけの時間を持っている

いつかまた会うこともあるだろう
私たちはいつまでも友だちだ
ごきげんよう かわいいモモ


ホラが眠りに入ると時計の音がいっせいに止まる





無数の時計が止まり、街中は一瞬で止まった状態になる
灰色の男たちはそれに気づいてパニックになる


灰色の男:
補給が途絶えた?!
じゃあ、今ある葉巻がなくなればどうなる?
時間貯蔵庫に駆けつけよう!
私の葉巻はあと27分しかないんだ

大混乱状態となり、相手の口から葉巻をひったくると
相手は怯えた顔で消えてしまいます

彼らの人数は少しずつ確実に減っていきました
彼らは長い距離を走ることに慣れていないので、すぐに息が切れます


モモはとうとうベッポを見つけるが、優しい顔はげっそり痩せています

カシオペイアに急かされて都会の北のはずれに出ました
灰色の男が入った建物にはこんな掲示があります





土管を滑り落ち、迷路のような地下道を通ると
辛うじて生き残った灰色の敗残兵たちが座っています
巨大な金庫が奥に見えます

灰色の男:
蓄えを大事に使わなくちゃいかん
ここにいる人数をずっと減らさなくてはいけない

議長はクジに負けた男の葉巻を取り上げ、残ったのはわずか6人です

灰色の男:
扉が開いているために冷凍室の温度が上がり
時間の花は解けて持ち主のもとに戻ったら、我々には防ぎようがない


カシオペイア:
トビラヲ シメナサイ!
ハナデ トビラニフレナサイ!

モモは花で扉に触るとガチャンと錠が閉まる

灰色の男:あの子の時間の花を取り上げないと一巻の終わりだ!

モモは逃げ回り、追うのに夢中で葉巻を落として消える男
2人だけになり、互いに花を奪い合い1人になり
そのちびた葉巻がポロリと落ちて消えてしまう

最後の男は「これでいいんだ なにもかも終わった」

(なんだか気の毒な灰色の男たち・・・
 常に時間に追われて生きるなんて地獄のような人生だ
 この幻想の男たちを作ったのも人間なんだ


カシオペイア:トビラヲ アケナサイ

無数の人間の命の時間が、春の嵐のように飛んでいく
本当の居場所に帰ったのです 人間の心の中に


カシオペイア:モモ トンデオカエリ!


モモはベッポと再会し、2人は笑ったり、泣いたりして
休みなくあらゆる話をしました


都会では長いこと見られなかった光景が繰り広げられていました
子どもたちは道路の真ん中で遊び
クルマに乗った人は降りて一緒に遊びました

お医者さんも、患者一人ひとりに時間を割いています
労働者もゆったり愛情こめて働きます

円形劇場に戻ると、友だちが全員集まってお祝いが始まりました
モモは澄んだ声であの歌をうたいました


ホラは、なんでも見えるメガネでそれをニコニコして見ています

疲れたカシオペイアは風邪をひいて手足をひっこめて眠る前
甲羅にはこの物語を読んだ人にしか見えない文字が浮かびました







【作者のみじかいあとがき】
この物語は私が人から聞いたのを、記憶通りに書いたものです

私が長い旅に出ている時、汽車で奇妙な乗客と同じ車室に乗りあわせました
その夜の間に私にこの物語を話してくれたのです






「過去に起きたことのように話しましたが
 将来起きることとして話してもよかったんですよ
 私にはどちらでも大きな違いはありません」


(宇宙人!?

それきり二度と会えないままですが、会えたらいろいろ質問したいと思います




【訳者のあとがき】
「時間がない」「ヒマがない」 今では子どもまでそう言います

人間の心のうちの時間
人間が人間らしく生きることを可能にする時間が
だんだん失われてきたようなのです

この町は典型的な現代の都会であり
完全に組織化されてしまい、浮浪児の存在を許しません

モモは自然のままのシンボルのような子どもなのです

人々は「よい暮らし」のためと信じて必死に時間を倹約し
それに気づいて警告しようとすると
ベッポのように狂人扱いされて隔離されるでしょう

見せかけの能率のよさ、繁栄とは裏腹に、都会は砂漠化してゆきます

この都会のどこかには、まるで四次元世界への通路のような地区があります
その向こうにあるのが「時間の国」です

物語がはじまるのは円形劇場
劇場は、人間の生の根源的な姿を芝居という形で見せてくれます

内容は大人にも子どもにも関わる現代社会の問題を取り上げ
病根を痛烈に批判しながら、楽しく美しい幻想的な童話形式
エンデはこれを「メルヘン・ロマン」と名付けました

この本の表紙カバー、挿絵、カットは作者自身の筆になるものです



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