メランコリア

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ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

ジュニア版世界の文学 14 大地 パール・バック/著 金の星社

2024-08-17 13:10:08 | 
1968年初版 1982年 第15刷 大久保康雄・大蔵宏之/訳

「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します


短大の英米文学のクラスでも必須読書の中に入っていたのを覚えている

中国を舞台にした底辺の人々を描いているのに
作者がアメリカの女性作家なのが意外だった

『母の肖像』に作家の家族の物語が書かれているそうなので読むのが楽しみ
本書の続編も2冊あるのも気になる


【内容抜粋メモ】

登場人物
王竜(ワンルン)
阿藍(オーラン):村の大地主・黄家の奴隷 王竜の妻
農恩(ノンユン):長男
農温(ノンウォン):次男

陳:隣家の農夫
杜鵑(ドチュエン):黄家の老大人つきの女奴隷
蓮華(リエンホワ):茶館のホステス
梨華(リホウ):女奴隷










■序
本書は、中国の王という農家の三代にわたる歴史を描いたもので
1912年の辛亥革命から国民党が政権を握るまでの時代が背景

バックは、宣教師の父に連れられて、生まれてすぐ中国に渡り
18歳から22歳の4年を除いて、39歳で本書を発表するまでの前半生を
ほとんど中国で過ごした


●新しい朝
王竜の結婚の日
正月から洗っていない体を洗う

6年前に母親が死に、老いた父のために毎朝火を起こして
粥を作るのも今日が最後だと喜ぶ

妻となる女の顔を見るのは今日が初めて
貧農の家の嫁に向かえるのは、大地主・黄家の女奴隷しか選択肢がなかった

老父:
大家のきれいな女奴隷に生娘がいるなんて聞いたこともねえ
若旦那がたが、みんな手をつけちまうだ

大家の門内に入るのも初めてで、緊張している王竜に銀貨を催促する門番

アヘン中毒の老夫人の前に座り、女奴隷・阿藍を見て
足を纏足(てんそく)していないのにガッカリする

老夫人:
この女は10歳で屋敷に来て、20歳の今日までこの家で育った
飢饉の年に両親が流れてきた時に買った
上手に使い、たくさん子どもを産み、初めての子どもは見せにきなさい

親戚を呼び、阿藍のつくった料理をみんなが褒める








●土から生まれる
野良仕事から戻ると、食事の用意ができていることにも満足する

阿藍は自分で紡いだ糸で着物をつくり、破れをつくろい、布団を打ち直し
3つの部屋を掃除し、野良仕事もした

阿藍:子どもができただ









産婆を頼むのも断り、1人で息子を産み
翌日からいつものように早く起きて食事の支度をした(!

阿藍は土壺にひび割れができると、新しいのを買わずに
土と粘土を混ぜて、新品同様に直した

その年は豊年で、余った銀貨は寝床の後ろの壁に埋めた


●黄家(ホワンけ)の土地
正月には地主・黄家に挨拶に行く阿藍

阿藍:
屋敷では去年と同じ着物を着ていた
5人の若さまたちが湯水のようにお金を使うし
3番目のお嬢さまが結婚する持参金は大金で
老夫人が土地を売りたいとおっしゃってた

王竜は黄家の土地を買おうと決めて死に物狂いで働く
阿藍は次男を産み、すぐに野良仕事を手伝う

この年も豊作で、2倍の収穫があった

阿藍が3人目を身ごもっていた時、叔父が金の無心に来る

叔父:
お前はあの黄家から土地を買ったじゃねえか
“長上のあやまちをただすなかれ”という聖人の言葉を知らねえのか!







阿藍:また生まれただ 今度は奴隷(女児)ですだ


●旱魃
ひどい旱魃となり、畑は実らないまましなびたが
王竜はまた黄家の土地を買った

阿藍はまた身ごもり、子どもたちは空腹で泣き叫び
とうとう牛を殺して食べた

飢えた村人は棒を持って王竜の家を襲う

阿藍:
みんなで食べられる草を探したり、木の皮をはいだりしに行きますべ
こんな時に生まれてくる4番目の子どものために!

隣家の陳:村じゃ人間の肉まで食ってる おまえの叔父さんもそうだ

王竜:阿藍、南へ行くだ

陳は王竜の家を襲ったことを詫び
いよいよの時に残しておいた赤豆をさしだす

阿藍は女の子を産んだが死んだとウソをついた
空腹のあまり畑の土まで食べる(!

叔父:子どもは4人しか残ってねえ 3人は死んじまった

土地を買いたいという人を連れて来るが、20分の1の安値
夫婦は土地は絶対に売らないと断る


●南へ
飢えた人々は南へ向かって大群となる
王竜は銀貨2個で初めて汽車に乗る

先に行った人から、まずムシロを買って、乞食をする方法を教えてもらう
阿藍と子どもらが乞食をして、王竜は人力車を引いて血の汗を流すが
車の借り賃を払うと、まったく稼ぎにならない

公設の貧民食堂に行って粥をもらうが
腹に入れたもの以外の持ち出しは禁止されている


●都会の底で
背が高くて、首に死んだ動物の毛皮を巻いた外国人を初めて見て驚く
男:アメリカの女だ 稼げるぞ!

息子がある日、ブタ肉を盗んできて、王竜は怒る
王竜:乞食はしても、おれたちは泥棒じゃねえだ

阿藍はまた妊娠していた
阿藍:売るものは、女の子のほかに、なにもねえだよ

王竜:子どもは売らねえだ

阿藍:
今年みたいな飢饉の年に私は奴隷に売られたから、両親は故郷に帰れただ
あんたを故郷へ帰すためなら、あの子を売ってもいいだ








2つ先の小屋の男:
貧乏人があまり貧乏になりすぎると道がある
去年の冬、おれは娘を2人売って食いつないだ
金持ちが富みすぎると、そこにも道がある
この屋敷では、下男でさえ象牙の箸で食べてるんだ


●春のおとずれ
王竜は子どもの時から字を習ったことがないから
都の城門や城壁に貼ってあるビラを読めなかったが
かたわらの男に読んでもらうと

「諸君は貧しく、下積みにされている なぜか?
 金持ち階級がすべてを強奪しているからだ」

戦争が起きて、武装した兵士が男を捕まえているのを見る
寝具や銃器を運ばせる人夫に使うのだと知る

敵軍が近いという噂が流れて、汽車で他の土地に去ったりして
町からだんだん人がいなくなる

頼みの公設食堂まで閉まった

故郷の土地に戻りたくて、女児を売ろうか迷う王竜

阿藍:
黄家では毎日ラバの馬具の革ひもでぶたれた
器量がいいと若さまが取り合い、飽きると下男がお下がりを取り合うだ

敵が町の城門を壊したのをきっかけに、貧民は屋敷になだれ込み強奪が始まる
人の波に押された王竜の前に逃げ遅れた男が出てきて命乞いをする

男:金ならいくらでもさしあげます!
王竜:そんなら金を出せ!








●故郷
王竜は麦、米、トウモロコシの上等の種と、牛を買って故郷に戻る
泥棒が家を根城にしていたせいで荒れ果てていたのを修繕する

泥まみれで働き、阿藍はまた身ごもった
阿藍は乳房の間にたくさんの宝石を隠し持っていた
王竜:売り払って、土地を買う 土地よりほかに安全なものはねえだ

阿藍は真珠を2つだけ持っていたいと頼む

黄家に行くと、執事が金を盗んで逃げたため
老大人と美人の女奴隷・杜鵑だけが残っている
杜鵑は宝石で土地を売り、老大人にサインさせる


●大百姓
貧しい陳の土地も買って、畑を手伝ってもらう
その年は豊作で、阿藍は男女の双子を産む
長女は成長しても言葉が話せない

作男は年々増え、陳に監督と土地の管理を任せる
王竜は自分で畑で働くことはほとんどなくなった

穀物の売買で字が読めないことをバカにされるので
長男を町の学校で勉強させて、商売を手伝わせようと思う

次男も学校へ行きたいとせがむ
2人は先生から農恩(ノンユン)、農温(ノンウォン)と名前をもらう

北の大河が氾濫し、王竜の畑も水没し、村ではまた飢える者が出たが
王竜には2年間の蓄えがあり、家は高い丘にあるため被害を免れる

王竜は退屈でくさくさして、阿藍の身なりに苦情を言う

阿藍:
時々、お腹が火で焼かれるように痛む
私は子どもの時に売られたから、母が纏足をしてくれなかった

王竜は町にできた大きな茶館を訪れる
賭け事、遊興とは無縁の生活をしていたため
茶を飲んで座っていると、杜鵑が来て
掛け軸の美人画から好きなのを選べばあっせんすると言われて驚く








●熱病
王竜は茶館に通い、花のようにきれいな蓮華にハマる
古臭いと言われた弁髪を切り落とし、綿から絹の服を新調し
銀貨をたくさん使う姿を見て、わけが分からず阿藍は怖れる
阿藍の大事にしていた2つの真珠も奪って使ってしまう

金に困った叔父が妻子を連れて、家に住みつく

叔母:お前の亭主は他の女に夢中なんだよ

王竜は100枚の銀貨を払って蓮華を買い、第二夫人にして
中庭をつくり大きな部屋に住まわせる
杜鵑は蓮華の身の周りの世話をする


●大地のいきづかい

阿藍:
黄家にいた頃、杜鵑は私をいじめただ
私はこの家を出たくても郷里がねえだで

老父は知らずに中庭で蓮華を見かけて「家に売女がいる!」と叫ぶ
老父:わしの女は1人だった わしの父親の女も1人だった わしらは百姓なんだぞ!

畑から水がひき、王竜はまた野良仕事をすることで愛欲の傷が癒えるのを感じた
蓮華は玩具であり、阿藍は労働の伴侶として位置が決まった

長男は急に子どもでなくなり、ふさぎこむようになる


●来襲
蓮華は茶館時代の客で穀物商の劉(リュウ)さんの娘なら
長男の嫁にピッタリだとすすめる

長男はある夜酔っぱらって帰る
叔父の長男が黄家にある遊女の家に連れて行ったと分かり
怒った王竜は銀を2倍払うから今度息子が来たら追い出してくれと命令する

叔父に文句を言うと、上着の胸を開いて匪賊団のしるしを見せる
彼らは物を盗み、家を焼き、女を略奪していた
王竜の家だけ襲われないのは、叔父のお陰だと分かり愕然とする

畑はイナゴの大群に襲われる
ほとんどの田畑が丸裸にされたが、王竜の畑は一部被害を逃れた







阿藍:
あんたがいなくなると、長男がしょっちゅう後房へ行くだ
南でも行かせたほうがいいだよ

王竜は出かけたフリをして戻ると、長男と蓮華が一緒にいるのを見る
王竜:明日、南へ行くんだ 呼びにやるまで帰ってくるじゃねえぞ!


●土へ
次男は立派な商人にしようと思い、穀物商へ見習いに出す
2番目の娘を穀物商の次男の嫁にする約束をする

阿藍が痛みに苦しむのを見て、医者に診てもらうと

医者:
肝臓も悪いし、胃潰瘍もあり、腹部に頭くらいの石がある
銀千枚でないと全快の保証はできない

王竜はその日から阿藍のそばにつきそって世話をする
阿藍は寝言を言う
阿藍:私は醜いだで、可愛がってもらえねえことは、よく分かってるだよ

阿藍の最後の希望で、長男の結婚式を早めて
黄家と同じように立派なご馳走をふるまう
阿藍は満足して亡くなる







その後、老父も亡くなる
2人を埋めると、生きている時と同じく自分の土地で憩うのだと満足する王竜


●飢餓のときにも
堤防が決壊し、また畑が水没する
収穫がなく、人々は飢えで地上、水上で死んだ

王竜は部屋の壁、畑の下などに銀を埋めてあるため飢える心配はない

叔父の長男が次女を狙っているのを心配して、許嫁の家に早めに引き取ってもらう
アヘンを買い与えると、叔父夫婦は中毒になり、毎日夢うつつ状態になる

長男は黄家を改造して引っ越そうと提案する
王竜は下見に行き、かつて阿藍をもらいに行った時を思い出し
この家を借りる決心をする


●歳月
王竜一家が引っ越すと、叔父一家は蓮華がいた部屋に移る
北で戦争が起きると、叔父の長男が兵士になりたいと言い
王竜は喜んで軍服などを揃える銀を渡す

長男に息子が生まれる

陳が急に亡くなり、王竜は父の死より泣いて、立派な棺をつくらせ
家族のすぐ下に埋葬させる

長男は体面を保つために、表側にいた貧民を追い出して
池をつくり、花を植えさせる

長男は恥をかくことばかり心配し
次男は無駄に浪費することばかり心配する

長男:
町の人たちは私たちを偉大な王家と呼んでいる
この名前にふさわしい暮らしをするのは当たり前です

三男には百姓を継がせようとしていたが
勉強したいと言われて仕方なく家庭教師をつける

王竜は7人の孫ができ、叔父が亡くなる


●泥ぐつ
急に大勢の軍隊が屋敷に来て、中に叔父の長男がいて困惑する王竜一家







叔父の長男が嫁や女奴隷を見る目つきを怖れていると
杜鵑:ここにいる間、あの人を慰めるために奴隷女をあてがうことですよ

蓮華の世話をしている梨華が選ばれると泣いてイヤがり
同情した王竜は別の女をあてがう

その奴隷女は身ごもったが女児のため身分は変わらず
叔母も亡くなり、叔父の長男が去った後、望み通りに夫を紹介してやる
王竜は老夫人と同じ台座から話したことで、人生がひとめぐりした気がする

三男が軍人になって戦争に行くと言い出して驚く
三男:今までにないほどの革命が起きて、我々の土地は自由になるのです

王竜は嫁を探すと言うと、梨華以外はみな不器量だとこぼす


●小春日和
改めて梨華を見て、その可憐さに惹かれる王竜
王竜:わしはたいへん歳をとっている
梨華:私は老人が好きです 老人はみな親切です

梨華と父の関係を知った三男は、家を出る







王竜は知恵おくれの娘のために毒薬を買い、自分が死んだ後
ご飯に毒薬を混ぜてくれと梨華に頼むと
自分の娘として面倒をみると約束する

三男が将校になったという噂を聞く

王竜は長男に自分用の立派な棺を用意させ
梨華とともに昔の家に戻る

長男は新しい妻をもらい(?)、次男は穀物商店を持つ
土地を売って2人で分けようと話しているのを聞いて

王竜:
ばかめ! 土地を売りはじめたら一家はおしまいだぞ
土地は誰にも奪われることがねえだ

「土地はけして売りませんよ」と兄弟は父をなだめて微笑し合った




解説





パール・バック
1892年ウエスト・バージニヤ州生まれ

長女は3歳になっても言葉が話せない“精神薄弱児”だった
自分の死後も生きるためにお金がいるため小説を書こうと決心した

バック:私はあの頃、ひどくお金が欲しかった

『大地』の続編『息子たち』『分裂した家』はのちに『大地の家』としてまとめて出版され
メトロ社で映画化された

57歳 アメリカ人と東洋人の混血児収容施設を設立し、十数人の混血児をひきとる
80歳で死去












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