メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

エヴァが目ざめるとき ピーター・ディッキンソン/作 徳間書店

2025-01-19 17:20:52 | 
1994年初版 唐沢則幸/訳 木内達朗/カバー画

SFというと、人口増加→荒廃って設定は食傷気味で
冒頭の数行でやめようかと思ったけれども、動植物の保護の観点で読み切った

チンパンジーの身体にヒトの記憶を移植するアイデアはゾッとした
いくらモフモフが好きでも、そっちじゃないよね

あくまで現世の寿命延長に固執するあまり
他の種を犠牲にしても構わないって考えもそのうちなくなるだろう

ヴァーチャル世界にどっぷり浸かってる未来はもう来ているし
巨大企業をバックにしたマスコミが大衆の意見に負ける様子も
SNSでひとり1人の意見が虚偽報道を越える今の時代と通じる


ピーター・ディッキンソン
1927年生まれ 初めて書いた大人向けのミステリーがゴールドダガー賞を受賞
『青い鷹』でガーディアン賞を受賞







【内容抜粋メモ】

■第一部 目ざめ
エヴァは交通事故に遭い、ひん死だったところを
科学者ジョーン・パラディシュ博士の「ニューロン記憶理論」初の人体実験の被験者となる

最初は目を開けるのもやっとだったが、8か月で胸のキーボードを使って会話して動けるまでになる
美しい少女だった姿がケリーというメスのチンパンジーとなり、ショックを受けるが徐々に慣れていく

人々は1日中家にこもって暮らし、ヴァーチャル映像を提供するシェーパー会社が世界を支配している
自然破壊で動植物が死に絶え、研究対象である動物が少し残っているだけの近未来

父はチンパンジー飼育研究所で霊長類学の主任教授をしているため
エヴァの様子にとても興味を持っているが、母は変わってしまった娘を見て戸惑う

エヴァは今はない森の夢を見る
ケリーはどこに行ったの?

人間だった頃の幻肢に戸惑うエヴァ
不安が高まるとクスリで眠らされる

“精神科医は推測するだけ”

研究所はいつも資金難で、エヴァの実験には高額がかかったため
シェーパーの会社SMIと契約し、最低1本はドキュメンタリー番組を撮ること
ワールド・フルーツがスポンサーにつき、ハニー・ベアドリンクのCMに出演する契約をする



エヴァはダーク・エランの番組に出る
エランはカワイイ少女時代の写真を持ち出し、イラっとしたエヴァはエランにキスをする
怖れと怒りの表情をカメラがとらえ、それを見た視聴者は喜ぶ


■第二部 生
エヴァは自宅に帰る
母といっしょに父の出た番組を見ていると
あっという間に身バレして大勢が詰めかけてパニックになる

父はSMIのジェーン・キャラウェイとともに来て
エヴァの保護と引き換えに、報道の権利をSMIに一任するよう契約を求める
最初からこうなると分かっていたようす

エヴァ:私は誰のものなの?
父と母はエヴァの対応や今後について言い争うようになる



エヴァは世界のマスコット的存在になり、学校へ戻る
ときどき、人々の圧迫感、孤独感、違和感に悩むエヴァ
SMIから派遣されたボディーガードのコルマックがつく

エヴァの成功例を見て、その後も志願者が60人以上になった
次に実験しているのはシーザーというオスのチンパンジーとステファンという少年
父は彼とエヴァを結婚させる未来まで想定している

エヴァ:2人の子どもはチンパンジーでしょ

父:
カンタンな道具を作ると、若いものへ伝達されていく
火をおこすとか、ヒモを結ぶとか
人類からチンパンジーに遺伝子に贈り物をするんだ

エヴァは自分の中のチンパンジーを自由に解き放つため、ときどき飼育所に通いはじめる
かれらは普通メスを中心とした家族の群れで生活している

研究所には、大人のメスのベス、ディンクス、ラーナ
子どものアベル、ワンのグループがいて
ボスは年長のジェロニモとズタボロで争っている

エヴァは服従の挨拶や毛づくろいをしてうちとけ
中でも頭のいいスニフというオスと仲良くなる

発情期は35日に1回、お尻のあたりがふくれ、オスはそれを見て興奮する



CMの現場を仕切るミミ・ヴェンチュリは短気で恐れられている
その息子グロッグ・ケネディはエヴァと仲良くなる

グロッグ:
ジャングルに戻るのがいい 人類はもう終わりだ
研究所も20年もすればなくなるよ
君なら先頭に立てる

グロッグはシェーパーでジャングルの生配信を見せる
カヤモロという森に視察に行き、ひどい感染病にかかる

グロッグ:
チンパンジーはカヤモロに送れない 免疫がない
自分たちでジャングルを作るしかない

ステファンとシーザーは互いに嫌い合ってうまくいかない
エヴァは子どもの頃からチンパンジーと慣れ親しんでいたから特別なケースだった

もう1人の少女は実験後9日間で死んでしまった
ジョーンは記者会見で叩かれる

ジョーン:彼らの死によって、人間の知識は増してきた
エヴァ:あなたもただのサルだってこと、覚えといて
エヴァはオーバーオールを引き裂いて大声で吠え、部屋を出る



キャラウェイが来て、SMIとワールド・フルーツに泥を塗るような行為は禁止すると警告する

キャラウェイ:
あらかじめ決めた質問以外の出演は断ったほうがいい
昨夜の映像は公表を禁じ、公表すれば権利侵害として告訴する

だが、学校の友人はエヴァがカッコよかったと喜ぶ
グロッグと会うことも禁止されるが、片方の羽がもがれた蝶をシンボルにして
動物の権利保護の大きな運動が巻き起こる
チンパンジーなどどうでもいいと思っている有名歌手も歌を提供する

グロッグはワールド・フルーツの名誉挽回にマダガスカルの島にあるジャングルに
チンパンジーを住まわせる資金を出させるように動かす



研究所の人工的なスペースしか知らなかったチンパンジーたちが
眠らされて島に移される

各地に遠隔操作のカメラが設置され、野生動物の番組に使われる
近くから飛んだ種でイチジクやマンゴーもなっている

野生のチンパンジーは起きている時間の2/3は食べ物を探し、1/3は食べている
吠えザルの鳴き声を流して、父やスタッフはエヴァを呼び出す

エヴァは電流フェンスで囲まれたコンテナの向こうに森を見つける
サイクロンが近づき、アラームをいったん切ると聞いて
その間に仲間を連れて脱出し、森に向かう

父母とスタッフは捜索隊で必死にエヴァを探す
グロッグ:世界は君の味方だ

エヴァはラーナを連れて行こうとする滑空艇に向かって大岩を落とす
その映像も漏れなく報道され、SMIはエヴァの申し出を受け入れ
人間による干渉は最低限にして、ジャングルを保護する契約をする



■第三部 死
20年が経ち、エヴァは冬に倒れて死を予感する
エヴァには子ども、孫もいる

グロッグは精神を病んで退き、研究所の所長になったデニーが来る
たくさんの子どもたちが自死し、誰も生産しなくなり、税金も集まらず
研究所は閉鎖となると伝える

デニー:チンパンジーは人類の未来の姿だと言われている

エヴァはキーボードを返して、カゴに乗せられて行く
火をおこしたり、ヒモを結んだり、いろいろ教えたことは何世代もかけて受け継がれるだろう
チンパンジーたちはエヴァに別れを告げて森の中に消えていく


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