昨日、「国立がんセンターがん対策情報センター」主催の市民向け講演会があったので行って来た。
前回と同様、大型TV中継で全国16会場を結んで行われた。
事前のチラシでは「がん対策に国民の視点はどう生かされていくか」がテーマとなっていたので、私はそのつもりで雪の降る中、駆けつけたのだが、実際は「論より科学的証拠~信頼できる情報とは…」だった。
札幌会場には約50人が集まり、TVの講演に耳を傾けた。
講演はいずれもがん対策情報センターの専門部門の責任者によるもので、「敵を知らずに戦えないーがん登録」「最新の治療が最善の治療とは限らない~臨床試験」「論より科学的根拠~がん情報を評価する」の3本だった。
手元に貰ったレジメを見ながら、私なりに要点をまとめて見た。
1.がん対策を立てる上で欠かせないのが「がん登録」である。
現在は国内35道府県1市で罹患率調査が行われているが、方法、体制、精度がバラバラで統一されていない。そこで宮城、山形、新潟、大阪などの比較的信頼性の高い10地域の計測データーを用いて罹患数・罹患率を推計している。
がん対策の寄与度・効果は、がんの死亡率と罹患率の比較によって量ることができる。
(2005年の乳癌死亡率で言うと、最大12.6、最小7.2と地域により1.75倍の開きがある。高い地域は乳癌の罹患数が多いのか、早期発見ができていないのか、治療が悪いのかを検討する必要があり、その対策をたてる上で全てのがん登録が必要なのである。)
今年6月の「がん対策推進基本計画」には、がん登録の個別目標が掲げられた。今後は院内がん登録の普及と、診断から5年以内の登録症例の予後の判明状況などを把握し、その状況改善を目標とすることになった。
2.新薬を誕生させるためには、臨床試験が必要である。
米国の調査では、動物実験で成績が良く、臨床試験が開始された薬の候補の内、病院で使える薬となったのは1/10だった。
がんの薬に限って見ると、それは1/20(5%)に過ぎなかった。
何回もの臨床試験をして有効性と安全性が調べられ、良い物だけが新薬として認められる。人の身体の仕組みは複雑なため、動物実験の結果と逆の効果(病気が悪化したり死に至ること)になってしまう事もある。
臨床試験の論理的、科学的な正しい方法は、「ランダム化比較試験」である。これは、その候補の薬を使う人と使わない人の2グループを作って比較する方法である。
かってアメリカで、乳癌患者にたいするある治療法の「ランダム化比較試験」を行った結果、古い治療法よりもその治療法の方が長生きしたという結果を受けて、4万人に実地された。ところが非常に副作用が強く、2~5%が死亡した。
2000年に公表された大規模な「ランダム化比較試験」の結果、その治療法は延命には全く効果がなかった事が分かったのだという。原因は研究者が統計学を間違ってしまったために起こった誤りだったとの事。試験も小規模で、データーが捏造されたものだった。
3.薬や治療法の科学的な評価は、「エビデンスレベル(信頼するべき根拠の高さ)」を知って判断するべきである。
国立がんセンターがん対策情報センターのがん情報サービスが、その情報を発信している。
http://ganjoho.ncc.go.jp/professional/plan.html
がんの「代替療法」のリスクは、患者は健康な人とは違うので、病気で弱っている身体に影響する可能性がある事、精神的にも弱っている所につけ込まれやすい事である。
例えばアガリスクを例にすると、動物実験では「発癌性」を示す可能性があること、「劇症肝炎」の報告もある。
「がんの治療」には、リスクが大きくてもそれを上回る大きな利益(ベネフイット)が必ずあるという強いエビデンス(信頼に足る根拠)が必要である。
「がんを予防するための食事」は、リスクが小なので、利益がありそうなら実践して良い。
「がんの代替療法」は、リスクが中・大と考えられるものは、それを上回るベネフィットの強いエビデンスが無いと使用するべきではない。
最後に全国の会場から出た質問に対する回答の幾つかを書いておく。
・「代替療法」をする場合は、何が起きるか分からないので、医者に必ず伝えておく様にするべきだ。
・米国や欧州で承認された薬が日本で承認されるのには数年かかり、承認されない薬は製薬業者が作れないし、保険薬として薬価が決まらない。
しかし、外国から個人輸入するのは日本では認められているが、問題が起きた時の責任の所在が不明となる。
・日本では治験にお金がかかるが、経済的なメリットが少ない。
・治験の途中経過は、担当の医者も知らない。
・がん登録で、個人へ問い合わせをする事はない。