穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

密室ではない

2022-04-03 07:36:29 | 書評

 毎朝お邪魔して相済みません。一つ質問です。『かばん錠』ってなんですか。私が知らないだけなんでしょうか。かばんは毎日使っていますが、かばんのカギと言えば、多いのはプチンと押し込めば閉まって、開けるときには錠前の両側を押し込むと開く奴が多いようです。あれのことかな。事々しくカバン錠と言われると初めて聞くので、私の認識と違うのかとインターネットで検索しましたが一件もヒットしませんでしいた。それほど恐ろしいものではないらしい。作者は当然読者が知っていると思っているのか、何の注釈も加えていません。もうすこし表現の工夫があっていいでしょう。ああ大げさに書かれるとなにか違ったものかと思いますよね。
 さて、作者の説明が不十分なので推測ですが、内側からだけ施錠出来て外からは開けられないものとして、カンヌキとカバン錠をあげているようです。私の理解はただしいかな。たしかに「カバン錠」は外側からは開けられない(カバンの場合は内側から)。もっとも我々がかばんの内側に入れるわけもない。不思議な国のアリスなら別ですが。
それで作者は密室だ密室だ、と騒ぐらしい。それとよくわからないのは窓があって鍵がかかっていない、開いていたと書いている。どうして密室なんですか。窓の高さがべらぼうに高いのか。窓から室内をのぞき込めるという描写があるから普通の高さでしょう。とすると人間が通り抜けられないほど小さい窓なのか。便所の窓でもあるまいに。この辺は全く書いてありませんね。これで密室と言われてもね。
 さて室内からだけ開錠できるものとしてカンヌキとカバン錠を書いている。そしてカンヌキに対してはその窓から糸をあらかじめカンヌキに引っ掛けておいて外から引っ張って施錠したとある。なるほどなるほど。しかしカバン錠ではそんな操作はできないというのですね。お見事お見事。
 現場が密室だと断定するのは捜査当局などがまったく手の付けられていない現場に慎重に入り現状がしっかりと維持されていることが前提です。あるいは第一発見者が現場の何物にも手を触れていない場合に限ります。案の定最後の最後(小説の)になって第一発見者として室内に入った犯人がどさくさに紛れて後からカバン錠をかけたことにしている。これは読者を詐欺にかけることですよ。まともな密室小説なら、現場発見の状況を詳細に報告すべきです。したがってこの小説の密室設定は詐欺以外のものではありません。