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無人航空機(むじんこうくうき)は人が搭乗していない航空機のこと。単に無人機とも呼ばれる。
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概要
「無人航空機」には翼長1-2m程度の一般的なラジコン機も含まれるが、人が搭乗して操縦するような大きさの機体から手の上に乗る小さなラジコンまでのあらゆる大きさのものが存在し、固定翼機と回転翼機の両方で軍用・民間用いずれも実用化されている。操縦は基本的に無線操縦で行われ、機影を目視で見ながら操縦するものから衛星回線を利用して地球の裏側から制御するものまで多様である。飛行ルートを座標データとしてあらかじめプログラムすることでGPSなどの援用で完全自律飛行を行う機体も存在する。
大きな機体ではガスタービンエンジンを搭載するものから、小さなものではガソリンエンジンを搭載し、極小の機体ではバッテリー駆動される。
固定翼機では、離着陸時に地上を滑走するものが多いが、小型の機体ではトラックの荷台に載せたカタパルトから打ち出すものや、さらに小さな機体では手で投げるものもあり、回収方法も小型のものではネットで受けるものがある。
名称
無人航空機を意味する英語 "Unmanned Aerial Vehicle" や "Unmanned Air Vehicle" からUAVと呼ばれることが多い。 "Unmanned" が男女差別を想起させるため、遠隔操縦するパイロットが地上から操縦しているが機体には乗っていないという点を強調して、「人が居ない」という意味の "uninhabited" で表わし、"Uninhabited Aerial(Air) Vehicle" の表記も見かけるがそれほど普及していない。「ドローン」(drone)を同義で使うこともある。
軍用機
軍用での無人機には以前よりターゲット・ドローンと呼ばれる標的機が存在し、例えば米空軍では1950年代にBQM-34 ファイヤービーのような高速飛行するジェット推進式の標的機を配備して、標的機の他にも試験的ながら攻撃用途での開発の先鞭が付けられた。ファイヤービーはパラシュートによる回収方法が採用されたが、米海軍では無線操縦式のヘリコプターであるQH-50 DASHにより、海上を飛行して魚雷を投下する用途で1960年代に開発配備した。
当初は攻撃用途での軍用無人機の開発が多かったが、標的機を除けば、無人作戦機として使えるものが実用化されることはなかった。1970年ごろから無線機の小型化や電子誘導装置の発達で写真偵察などの目的で無人偵察機が米国やイスラエルでの開発が本格化した。 20世紀末からは画像電子機器や通信機器、コンピュータの発達で、リアルタイムでの操縦と偵察映像の入手、完全自動操縦などが可能となり、21世紀からは偵察型から攻撃機型への展開が行われた。また、高高度を飛行することで通信中継点となる軍用無人航空機の研究も進められている。
高性能な機体で衛星通信での双方向の通信によってリアルタイムの操縦が行えるものでは、パイロット席に相当する移動式の操縦ステーションが組み合わされ、全体が1つのシステムとして機能するものも現れている。
無人ステルス機の研究は進められているが、RQ-3 ダークスターやX-47 (航空機)のような特異なステルス形状の機体はいずれも量産予定に至っていない。また、無人制空戦闘機といった計画も知られていない。
無人機による攻撃
MQ-1 プレデターなど武装した無人航空機が世界で数多く登場しており、アフガニスタン紛争、イラク戦争などで実戦投入されている。主な任務は対地攻撃だがイラク戦争では有人機との空中戦に用いられたケースもある。
近年、攻撃能力を持つ無人機がアフガニスタンとパキスタンでのターリバーン、アルカイーダ攻撃に参加しており、2009年8月にベイトゥラ・メスード司令官、2010年1月にはハキムラ・メスード司令官(生存説もある)の殺害に成功しているが、誤爆や巻き添えによる民間人の犠牲者が多いことが問題となっている[3]。これは無人機操縦員の誤認や地上部隊の誤報、ヘルファイアミサイルの威力が大きすぎることなどが原因となっている。ヘルファイアミサイルの問題に関してはより小型で精密なスコーピオンミサイルを採用して対処することになっている[5]。
機体そのものに人間が搭乗しないため撃墜されたり事故をおこしても操縦員に危険はなく、また衛星経由でアメリカから遠隔操作が可能であるため、操縦員は長い期間戦地に派遣されることもなく、任務を終えればそのまま自宅に帰ることも可能である。このような無人機の運用は操縦者が人間を殺傷したという実感を持ちにくいという意見がある[6][7]が、「いつミサイルを発射してもおかしくない状況から、次には子どものサッカーの試合に行く」という平和な日常と戦場を行き来する、従来の軍事作戦では有り得ない生活を送ることや、敵を殺傷する瞬間をカラーTVカメラや赤外線カメラで鮮明に見ることが無人機の操縦員に大きな精神的ストレスを与えているという意見もある[8]。軍事関連の著作を多く持つP・W・シンガーによると、無人機のパイロットは実際にイラクに展開している兵士よりも高い割合で心的外傷後ストレス障害を発症している[9]。
アメリカ軍では無人機の操縦者のうち7人に1人は民間人(民間軍事会社)だが、アメリカ軍の交戦規定により攻撃は軍人が担当している。
分類
軍用の無人機には任務、性能、サイズによる分類が存在する。
任務による分類
UAVはその機体の任務により以下のカテゴリーに分類され、マルチロール(多用途)の機体も多い。
- 標的(Target) - 対空戦闘訓練において、味方の地上部隊や航空部隊から敵航空機役として標的になる
- 偵察(Reconnaissance) - 戦場で情報を収集し味方に提供する
- 戦闘(Combat) - 攻撃能力を持ち、高い危険を伴う任務に投入される(UCAV)
- 兵站(Logistics) - 輸送や兵站任務用に設計されている
- 研究開発(Research and development) - UAV技術の開発や実証など実験目的で使われる
性能による分類
UAVは機体の性能で以下のカテゴリーに分類される。
- Handheld - 最高高度2,000ft(600m)、航続距離2km程度
- Close - 最高高度5,000ft(1,500m)、航続距離10km程度
- NATO type - 最高高度10,000ft(3,000m)、航続距離50km程度
- Tactical - 最高高度18,000ft (5,500m)、航続距離160km程度
- MALE - (Medium Altitude Long Endurance)最高高度30,000ft (9,000 m) 航続距離200km以上
- HALE - (High Altitude Long Endurance)最高高度30,000ft以上、航続距離は規定なし
- HYPERSONIC - 高速、超音速(マッハ1~5) もしくは極超音速(マッハ5+) 、最高高度50,000ft(15,200m) もしくは弾道飛行可能、航続距離200km以上
- ORBITAL - 低軌道を飛行可能(マッハ25+)
- CIS Lunar - 月遷移軌道を飛行可能
- Train Cable UAV (Tcuav) - UAV、UGV、列車の3つの技術を複合したシステム
サイズによる分類
明確ではないものの、以下のような分類を使用することがある。
- Strategic UAV - 戦略無人機、長時間長距離を飛行するもの
- Tactical UAV - 戦術無人機
- Vertical Takeoff/Landing UAV - 垂直離着陸無人機
- Small UAV - MAVよりは大きいが、比較的小型のもの
- MAV - Micro Air Vehicle の略で、狭義にはDARPAの定義したサイズ(最大の長さが150 mm以下)のUAVを指す
- NAV - Nano Air Vehicle の略で、MAVよりさらに小型のUAV。DARPAによると最大の長さが75 mm以下で、最大離陸重量は10グラム以下
軍用無人機の種別
標的機
軍用無人機の中でも標的機は異色の存在である。巡航ミサイルがそうであるように、標的機の多くが地上への帰還を前提としていないため、降着装置をまったく持たないものがある。
無人偵察機
無人偵察機は、米国のRQ-4グローバルホークや日本の遠隔操縦観測システム (FFOS) 等がある。イスラエルに対立するイスラム武装組織ヒズボラも2006年に無人偵察機「ミルサード」の所有を公表している。
偵察任務には長時間の滞空が求められるために固定翼機が多いが、回転翼機も存在する。[11][12]
無人攻撃機
英語ではUCAV(Unmanned Combat Aerial Vehicle)と呼ばれ、20世紀末に実用化され無人偵察機が、21世紀に入って搭載能力に余裕のある機種に攻撃任務を付加することで偵察・攻撃の両方が行えるマルチロールの無人偵察・攻撃機が実用化された[13][14]。
2001年の911事件後、米軍がアフガニスタンへの侵攻を開始した2001年10月14日に先立つ10月7日、MQ-1 プレデターがヘルファイアミサイルを搭載して武装偵察飛行を行ったのが無人攻撃機実戦の嚆矢である[出典 3]。その後アフガニスタン戦線の外、イラク戦争、イエメンなど中東地域での攻撃に多用されるようになった。地上部隊進軍のための情報提供と同時に援護攻撃を行ったり、イラク戦争ではイラク軍の防空網に対するおとりとして使われたほか、イラク戦争に先立つ2002年12月23日には、イラク飛行禁止空域を警戒飛行していたMQ-1は搭載していたスティンガー空対空ミサイルでイラク軍のMiG-25を攻撃している [出典 4][出典 5]。広く知られた利用方法はアルカイダやタリバンへの攻撃で、宣戦布告しての戦闘でない(=不正規戦争)パキスタンやイエメン、ソマリアなど、撃墜されパイロットが捕虜となって国際的な問題とされそうな国で多用されている[出典 6][出典 7][出典 8][出典 9]。
無人攻撃機には米軍が運用しているMQ-1 プレデターやMQ-9 リーパーなどがあり、イスラエルも早くから導入している。多様な無人攻撃機の実証実験機などのテストが進行中である[15]。
民間機
民間無人機の主な用途
民間用無人航空機での主な用途を示す。
- 農薬散布
- 民間用無人航空機の代表的な用途であり、回転翼機が多い。中には軍用機のように、GPSを使って自動的に設定されたルートを飛行するものもあるが、ヤマハ機が日本から海外へ不正に輸出されて社会問題となったケースもある。
- 架線工事
- 1980年代より架空電線路用の呼び線を張るのに利用されている。基本的にラジコンヘリコプターの産業利用であるが、尾根伝いの長い距離を空中架線するのに利用される。
- 写真撮影
- 空中写真の撮影に利用される。1990年代よりはデジタルカメラなどを使って撮影に挑戦するアマチュアも見られる。
- 災害調査
- 被災地域の空中からの調査や、噴火など予断を許さない状況下での調査などに利用される。有人ヘリコプターでは騒音による振動や巻き上げる風で被害拡大させる懸念を軽減させることも期待される(→レスキューロボット)。自動化され、コンピュータと連動させ、地図の作成にも威力を発揮する。
日本の産官学プロジェクトの中に、紛争地域に遺棄されている対人地雷の探知を、センサーを積んだロボットヘリコプターで行おうという構想がある。
無人航空機一覧