西日本新聞経済電子版 7月21日(火)11時14分配信 九州経済 >ニュース >記事
パン職人日本一は元半導体営業マン 北九州市「木輪」の芳野さん
2015年07月21日 03時00分 更新
記者:中原岳
大会は全日本パン協同組合連合会などの主催。食パン部門の予選には約50人が挑み、2月に千葉市であった決勝に4人が進んだ。食パン部門の条件は「国産小麦を50%以上使用」など。九州産の小麦粉を主に使い、麦畑にいるような風味や香りを味わってほしいと願い「麦畑」と名付けた。審査員の反応は「香りが良い」と上々。栄冠に輝いた。
木輪を創業した父、栄さん(63)の背中を見て育った。朝は午前3時から夜は午後8時半ごろまで働く姿を見て「パン職人の仕事はつらい」と感じていた。就職活動に励んでいた大学3年、栄さんから跡取りを打診されたが断った。半導体メーカーに就職。大手電機会社に毎日のように通いICチップやLEDライトなどを売り込んだ。
入社して3年が過ぎ、ふと、将来の自分を考えた。上司の課長や部長の上にはさらに本部長がいて、社長もいる。売り込む商品は自分で作ったわけではない。大きな組織では自分が小さく見えた。一方、栄さんは店の看板を背負ってパンを焼き、「おいしかったよ」「また食べたい」というお客さんの声に接している。「父の人生の方が価値や夢があるものに思えた」
しかし、今まで指導してくれた上司と、「店を継がない」と言ってしまった父への後ろめたさで、心は揺れた。そんな時だった。栄さんが体調を崩した。当時、結婚を前提に付き合っていた妻から「私も付いていくよ」と後押しされ、気持ちは固まった。
27歳で退職。修業先を探した。「木輪には10年以上パンを焼くスタッフもいる。帰ってきて『何もできません』とは言えない」。千葉県松戸市のパン店に弟子入りし、木輪に戻るまで5年半の歳月が流れた。
麦畑(1斤税込み324円)は木輪の売れ筋商品。農家の思いをもっと生地に込めようと6月、福岡県うきは市の小麦農家を訪ね、麦刈りも体験した。芳野さんは「麦畑は通過点。魅力あるパン作りに励み、来て楽しいと思えるパン店にしたい」と話した。』