「米軍が賠償する」という当然のことがニュースになる日本
きょう6月21日の毎日新聞の小さな記事に私は注目した。
「日米政府、遺族に見舞金」という見出しのその記事の要旨はこうだ。
すなわち、2016年4月に、沖縄県うるま市で女性が米軍属に暴行、殺害された事件があった。
その事件の裁判で、今年(2018年)1月、那覇地裁は元米軍属のシンザト被告に賠償を命じた。
ところがシンザト被告には支払い能力がない。
そこで日米地位協定の定めるところに従って、日米両政府が分担して賠償金に相当する見舞金を支払う方針を固めたことが明らかになった、という記事だ。
そのことを、複数の日本政府関係者が明らかにしたという記事だ。
なぜこんな当たり前のことが記事になるのか。
なぜそれを日本政府は公表せず、複数の政府関係者が明らかにした事によってはじめてニュースになるのか。
そしてなぜ賠償金ではなく、それに相当する見舞金という形にしなければならなかったのか。
なぜ日本が見舞金の分担をしなければいけないのか。
ここに、今の日米同盟の不平等さ、不当さが見事に反映されている。
日米同盟の事実上の取り決めである日米地位協定によれば、在日米軍人、および軍属による犯罪の賠償は米国政府が支払う事になっている。
ところが、米国政府はこれまで一切支払おうとしなかった。
支払う場合でもほんの一部しか支払わなかった。
今度の事件では遺族の感情や社会的影響を踏まえて、一定額の見舞金の支払いに応じようとしているからニュースになるのだ。
それを賠償ではなく見舞金という名にしたのは、いったん賠償を認めれば、今後とも賠償しなければいけなくなるからだ。
今回はあくまでも例外扱いだというわけだ。
それではなぜ日本政府が見舞金を分担しなければいけないのか。
米政府が賠償額の一部しか負担しないからだ。
もっとも、日米地位協定では事件の内容によって賠償金を日米両政府で分担することが決められている。
しかし、米国政府は、たとえ支払ったとしても、この分担比率を守った事はない。
この毎日新聞の記事は、那覇地裁が下した賠償額には一切触れていない。
そして賠償額と見舞金の差額には触れていない。
ただひとこと、「防衛省は、米側の見舞金に関する日米間の協議がまとまり次第、賠償額との差額を日本側が支払う手続きに入る」と書かれているだけだ。
これを要するに、これまで米国政府は日米地位協定に従わず賠償金の支払いを拒否し、日本政府と分担する場合でも協定に定められた米国分担比率を守ろうとしなかった。
それが今回に限っては、遺族感情や社会的影響を考えて、はじめて支払い交渉に応じたというのだ。
しかも、その負担さえも、まだ米国と交渉がまとまっていないのだ。
こんなふざけたことがニュースになるのだ。
しかし、このニュースを記事にしただけ毎日新聞はまだましだ。
他の主要紙はまったく報じようとしない。
主権を放棄した日米同盟を象徴するような毎日新聞の記事である(了)