新型コロナウイルスの感染が再び急拡大する欧州で、各国が商店の閉鎖や外出制限を伴う「ロックダウン」(都市封鎖)に逆戻りする中、独自戦略を貫く北欧スウェーデンが再び注目されている。感染者数は10月以降に増加が顕著だが、当初から流行の長期化を想定し、規制の弊害にも配慮した「厳しすぎない」路線は変えていない。(ストックホルム=下司佳代子)
拡大するストックホルムの中心部。マスク姿はほとんど見かけない=10月5日、下司佳代子撮影
「4月は確かに怖かった。私たちの戦略は間違っているのかもしれないと思った。でも今は100%、正しいと確信している」
10月上旬、ストックホルム中心部のカフェ「ベーテカッテン」のシェフ、ヨハン・サンデリンさん(51)はこう語った。
スウェーデン政府は国民に、発熱やせきなどがあれば自宅療養する▽他人とは社会的距離をとる▽可能なら在宅勤務――などを要請。国民は自発的にルールを守り、50人を超える集会の禁止など一部を除けば法的な強制もない。欧州でも日常となったマスク着用は推奨せず、街中でもほぼ見かけない。社会的距離の確保を呼びかける標識以外、にぎわう街で感染症の流行を思わせる場面はない。
拡大する老舗カフェ「ベーテカッテン」のシェフ、ヨハン・サンデリンさん=ストックホルム、下司佳代子撮影
「2メートルの社会的距離を取れと言われたら『そんなに近いの?』と思うくらい。国土はドイツとデンマーク(グリーンランドなど除く)とベルギーを合わせたくらいの広さがあるのに人口は10分の1ほど。スウェーデンの人たちはスペースを取るのに慣れている」
約300席のベーテカッテンはもともと店内が広く、席の配置も変えずに営業を続けてきた。他国がロックダウンした3月以降も、サンデリンさんは休まず働き、5歳の息子も幼稚園に通い続けた。
ただ、強制はなくとも在宅勤務や外出自粛は広がった。カフェの売り上げは減り、現在も5割ほどしか回復していない。
国際通貨基金(IMF)の10月の「世界経済見通し」によると、ロックダウンしなくても経済活動は落ち込む。スウェーデンの今年の経済成長率はマイナス4・7%となる見通しで、欧州全体のマイナス7・0%より良いが、早期にロックダウンした近隣のノルウェー(マイナス2・8%)やデンマーク(マイナス4・5%)より悪い。
サンデリンさんは「少なくともあと1年はこんな状態だろう。でもどんな危機の後も人々はコーヒーとシナモンロールを求めるものだ。私たちはフィーカ(甘いものを食べるコーヒーブレークの習慣)の文化を信じている」と話した。
「失業せずに済んだ」市民は歓迎
一方、「ロックダウンしなかったから失業せずに済んだ」という声もある。』