国際社会(特にアメリカや欧州)から日本の状況を見ると、
戦前戦中の軍国主義を復活させようという動きと受け取られ、
外交的にはマイナスで大きく国益を損ないます。
太平洋戦争は侵略戦争かどうかという議論がありますが、
中曽根康弘元総理がわかりやすい総括をされています。
出典は中曽根元総理の「自省録」(新潮社、2004年)です。
--------------------------------------------------
私なりに大東亜戦争を総括するなら、次の五点に集約されます。
一、昔の皇国史観には賛成しない。
二、東京裁判史観は正当ではない。
三、大東亜戦争は複合的で、対米英、対中国、対アジアのそれぞれの局面で性格が異なるため認識を区別しなければならない。
四、しかし、動員された大多数の国民は祖国防衛のために戦ったし、一部は反植民地主義・アジア解放のために戦ったと認識している。
五、英米仏蘭に対しては普通の戦争だったが、アジアに対しては侵略的性格のある戦争であった。
--------------------------------------------------
私も同じような感覚を持っています。
欧米諸国との帝国主義的戦争はいわば「普通の戦争」です。
植民地を持つ旧宗主国が、正義の味方には見えません。
他方、アジアの近隣諸国への侵攻を第三者的に見れば、
どう言いつくろったとしても「侵略戦争」です。
アジアの解放を掲げつつも、実態は侵略戦争でした。
末端の兵士や国民は、政府の掲げた大義を素直に信じて、
アジア解放のための戦いと思っていたかもしれません。
しかし、アジア各地で人々に多大な迷惑をかけました。
私はフィリピンやインドネシアに住んだことがあります。
その国の歴史を多少学んだ者の視点から見てみると、
日本の侵攻は彼らから見て侵略だったのは確かです。
私がフィリピンの大学に留学していた約20年前には、
戦争と日本軍の占領を経験したお年寄りが大勢いて、
身内が日本軍に殺されたといった話をよく聞きました。
一部の旧日本軍兵士がインドネシアの独立戦争に参加し、
感謝されていたといった事実はあります。しかし、その感謝は、
独立戦争に参加した個人に対するものでしょう。
断片的な事例で、戦争を正当化できるものでもありません。
中曽根元総理はこんなことも仰っています。
--------------------------------------------------
太平洋戦争を経験した世代として、戦争を知らない世代に伝えておかねばならぬことがある。それは、二十世紀前半の我が国の帝国主義的膨張や侵略によって被害を受けたアジアの国々の怨恨は、容易には消え去らないであろうということだ。日本独特の「水に流す」は日本以外では通用しない。韓国や中国における現在の反日教育、ナショナリズムを高揚する教育をみれば、心のわだかまりが溶解するには長い時間と期間を要すると考えなければならない。こうした考えに立って、我々の歴史の過失と悲劇に対して、率直な反省を胸に刻みつつ、この失敗を乗り越えるための外交を粘り強く進めて行く必要があることを我々は今一度、銘記しなければならない。そうした意味で、日本の歩むべき道は、失敗に対する深い思慮とともに、アジアと国際社会の一員として、平和を守り、互いの利益と協力を尊重しながら国際社会に貢献して行くことである。
(中曽根康弘「宰相に外交感覚がない悲劇」新潮45:2012年11月号)
--------------------------------------------------
中曽根元総理といえば、タカ派の印象がありますが、
非常にバランス感覚の優れた政治家だと思います。
あまりに非現実的な安全保障論が幅をきかせていた頃は、
中曽根氏は相対的にタカ派に見えたのかもしれません。
しかし、最近の日本の政界では、中曽根氏はタカ派ではなくて、
中道右派か、あるいは、相対的にハト派に入るかもしれません。
自民党は、大先輩の中曽根元総理のバランス感覚を見ならい、
見たくない不都合な現実を受け入れる度量を持つべきです。
マックス・ヴェーバー「職業としての政治」の中には、
こんな文章が出てきます。自民党政権に送りたい言葉です。
--------------------------------------------------
精神を集中して冷静さを失わず、現実をあるがままに受けとめる能力、つまり事物と人間に対して距離を置いて見ることが必要である。「距離を失ってしまうこと」はどんな政治家にとっても、それだけで大罪の一つである。
--------------------------------------------------
自民党政権は、自国の過ちを直視する勇気を持つべきです。
自らの誤りを認めるのは、弱さではなく、強さだと思います。
現実をあるがままに受けとめることが大事だと思います。
他方、戦前の政党政治の歴史を学ぶと、戦争一辺倒ではなく、
中国と和解し、国際社会と連携しようとした政治家が、
意外と大勢いたことに勇気づけられます。
軍人の中にも戦争を避けようと努力した人たちがいました。
いつの時代に生まれても、戦争を防ぎ、国際協調を目指す、
そういう政治勢力の一翼を担いたいと思います。
引用元http://yamauchi-koichi.cocolog-nifty.com/blog