リー・モーガンのキャリアを振り返った際に、1963年の「ザ・サイドワインダー」のビッグヒットを欠かすことはできません。ハードバップシーン随一の売れっ子トランぺッターとして1950年代後半に華々しい活躍をしたモーガンですが、60年代に入ると自身のヘロイン中毒の問題もあり、数年間の低迷期に入ります。そんな中で吹き込んだのが上述「ザ・サイドワインダー」。8ビートを取り入れた”ジャズ・ロック”と呼ばれるスタイルが大いに受け、ビルボートのアルバムチャートで最高25位とジャズでは異例の大ヒットとなります。特にジャズ専門レーベルでヒットチャートとは無縁だったブルーノートにとっては会社設立以来の大ヒットだったらしく、気を良くした彼らはその後もモーガンの「ザ・ランプローラー」「ザ・ジゴロ」、ハンク・モブレーの「ディッピン」「ア・キャディ・フォー・ダディ」とジャズロック路線を推し進めていきます。
本日ご紹介する「サーチ・フォー・ザ・ニュー・ランド」はそんなモーガンの60年代の作品群の中で見落とされがちな作品です。録音年月日は1964年2月15日。「ザ・サイドワインダー」の約3ヶ月後です。ただ、聴いていただければわかるように本作で演奏されるのはジャズロックではなく、かと言って旧来のハードバップでもなく、完全にモード~新主流派路線です。そもそもタイトルが和訳すれば「新天地の探求」ですからね。新たな路線を切り開こうとするモーガンの決意のようなものが感じられます。ジャズロックが大ヒットした直後なのになぜ?と思うかもしれませんが実は「ザ・サイドワインダー」がレコードとして発売されたのは1964年7月で、本作収録時には未発売だったのです。おそらくレコード会社もモーガン本人も8ビートのジャズがそんなに受けるとは思ってなかったのでしょうね。これからはモードジャズで行くぞ!と意気込んでいたら、ジャズロックが流行ったのでその後はそちらで売っていくことにした、と言うのが当時の実情ではないでしょうか?
メンバーは豪華ですよ。ウェイン・ショーター(テナー)、ハービー・ハンコック(ピアノ)、グラント・グリーン(ギター)、レジー・ワークマン(ベース)、ビリー・ヒギンズ(ドラム)と60年代のブルーノートを支えた面々がズラリと勢揃いしています。このうちグリーンだけは元々ソウルジャズ寄りでやや異色ですが、ショーター、ハンコックあたりはモード~新主流派の象徴的存在ですね。ただ、モーガンとショーターはジャズ・メッセンジャーズの同僚で旧知の仲ですし、ハンコックとはおそらく本作が初共演ですが、その後はモーガンの「コーンブレッド」でも共演しています。
全5曲、全てモーガンの自作曲で固められた意欲的な内容です。1曲目はタイトルトラックでもある”Search For The New Land"。15分余りの大作で、オリエンタル風なスピリチュアルな合奏から始まり、その後は各自がソロをリレーしていくのですが、ソロの合間毎に一旦フェードアウトするなど組曲風の凝った作りになっています。ソロの順番はショーター→モーガン→グリーン→ハンコックです。これぞブルーノート新主流派と言った感じの曲で本作のハイライトと言って良いでしょう。
2曲目”The Joker"と3曲目”Mr. Kenyatta"はそれに比べるとキャッチーな曲で、モーガンがいつもながらのファンキー節を披露しますが、一方でハービー・ハンコックのピアノやビリー・ヒギンスのドラムはモーダルな響きを感じさせます。ちなみにMr. Kenyattaとは前年にケニアを独立に導いたジョモ・ケニヤッタのことです。4曲目”Melancholee"はタイトル通りメランコリックなナンバーで、いかにもモードジャズと言った思索的な曲。モーガンのソロも抑え気味です。ラストの”Morgan The Pirate"はその反動と言っては何ですが、祝祭的なムードに溢れた明るい曲で、モーガンもいつも通りのはっちゃけたプレイです。何だかんだ言ってこういう陽気な曲の方がモーガンもイキイキしているような気がするのは私だけでしょうか?