Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

アリスとテレスのまぼろし工場

2023-09-03 | 映画(あ行)

◼️「アリスとテレスのまぼろし工場」(2023年・日本)

監督=岡田麿里
声の出演=榎木淳弥 上田麗奈 久野美咲 瀬戸康史 林遣都

製鉄工場の事故をきっかけに時間が止まり、空間的にも閉鎖されてしまった町。大人たちも子供たちも変わらないでいることを強要される。大きな変化を望むと空がひび割れ、その空の隙間を狼の頭をした煙が巻き起こって埋めていく。そしてまた何事もない日常が続く。それがまぼろし工場のある本作の舞台だ。

「うる星やつら ビューティフル・ドリーマー」や「涼宮ハルヒの憂鬱」にも出てくる閉鎖空間。変化を望む心がその壁を打ち砕く。それはこの「アリスとテレスのまぼろし工場」でも同じだ。本作では14歳の彼ら彼女らの知らず知らず知らずに惹かれあう気持ちが、変わろうとするひとつの原動力となっていく。

岡田麿里監督が携わった作品では、過去と向き合う辛さが示されてきた。それは今と対比することで観客の僕らをも巻き込んで、共感の気持ちを湧き上がらせた。これまでの作品をちょっとした共通点は確かにある。出られない空間や過去の人物への片思いは「空の青さを知る人よ」、自分の気持ちを吐き出すような告白は「ここさけ」を思わせる。

でも確実に違うのは、本作はただひたすらにまっすぐ未来を見据えていること。映画の中の街の行末は混沌としているけれど、スクリーンのこっち側も未来もなんなモヤモヤしている。でも、今いる世界がどうであれ、今自分はここにいる。ここにいて人とつながっているし、時には惹かれあっている。その気持ちに嘘はない。上気した頬の火照りや、息づかい、肌が触れるもの、匂い、ぬくもり。これまでのアニメでは見たことのない、生々しさを感じる描写は、確かにそこに彼ら彼女らがいる証を示す。「好き」という気持ちが急に高まる様子や、どれだけ胸をざわつかせる感情なのかを、丁寧に描いてみせる。
「好きって、痛い?」
そうだよ。好きになるって、そういうことなんだよ。主人公の叔父を通じて、大人の「好き」も、ちょっとだけ示される。いいね。

「好き」が行動の根底にあるお話だけど、正宗が絵を描くのが得意なのも「好き」→イラストレーターになりたいって変化につがっている。惚れた腫れただけの話だけではない。

多くの方の感想にもあるように、タイトル回収してくれないことに、正直僕も戸惑っている。岡田麿里監督のインタビューを読んで、そもそもの構想(狼少女2人の物語)や言葉を選んだ気持ちはなんとなくわかった。哲学者の名前が二人組の名前だと勘違いしていた幼い頃の記憶が発想の元にあるのだそうだ。

映画館を出て、なーんとなく浮かんだ落としどころ。自分の存在、憧れ、未来、生きる意味について深く考えている正宗と睦実たちこそ、結論を出せずにいる悩める哲学者コンビ。そしてその世界に現れた謎の少女は不思議の国に迷い込んだアリスなんだ。こんなことを考えちゃうのは、「空の青さを知る人よ」のタイトル回収場面で泣いてしまった自分😭だからなのかも。

なーんかまとまりのないレビューになったけれど、なかなかの力作なのは間違いないです。はい。

試写会にて鑑賞。
 


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犬神家の一族

2023-08-28 | 映画(あ行)

◼️「犬神家の一族」(1976年・日本)

監督=市川崑
主演=石坂浩二 高峰美恵子 島田陽子 あおい輝彦 加藤武

言わずと知れた大傑作。角川映画初の作品となる本作が1976年に公開されて以来、メディアミックスによる大規模な宣伝が主流となり、まだお子ちゃまだった僕もここから始まる一連の角川映画には思い入れがある作品が多い。中でも「犬神家の一族」は、高校時代にテレビで観て以来繰り返し観ている、フェバリット中のフェバリット。

日本映画も数あれど、金田一耕助シリーズ程リメイクやドラマ版を毎回追いかけている作品は他にない。時代とともに改変が加えられても、ジャニーズ枠があるドラマ版にイライラしても、好みでない役者の金田一耕助でも、とりあえず観てしまう。もちろんそれぞれに文句はあるのだが、こんな行動をとるのは、市川崑監督による76年版「犬神家」の強烈なインパクトがあってこそだ。それは犬神佐兵衛が登場人物にもたらした呪縛にも似ている(笑)。そして「犬神家」は76年版をスタンダードにして比較しながら観てしまうのだ。

繰り返し観るもんだから、台詞もところどころ覚えてしまって(恥)。同じ脚本を使った市川崑監督による2006年のリメイクは映画館で観た。佐清の奉納手形があるのを思い出したのは誰かと尋ねる神主とのやりとり場面。大滝秀治の演技の間が我慢できなかった僕は声を出してしまった🤣
「珠世さんです。」
急に台詞が前後から聞こえたせいで、前の席のオッさんがキョロキョロ。ごめんなさい!ww

ビジュアルのイメージに惹きつけられる。これはこの映画の大きな魅力だ。水面から伸びる足、ネガポジ反転する殺人シーン、金田一耕助のキャラクターを印象づけるディティールの細かさ。そしてデーンと明朝体の文字が並ぶタイトルバック。これに「エヴァンゲリオン」が影響を受けたのは有名な話。全編に漂う怪奇ムード、哀愁漂う大野雄二の音楽。その魅力は今さら語ることもない。でも年齢を重ねて観ると、親の情が心に刺さる。クライマックスの謎解きの緊張感は何度観てもたまらない。因縁、血縁の避けられない業の深さに心が震える。

先日久々に観た「社葬」。取締役の一人を演ずるのは、「犬神家」の警部役である加藤武。「社葬」の中で、金田一シリーズの名文句と同じ「よし!わかった!」って台詞があって、思わず吹き出した🤣。絶対金田一シリーズ意識しとるやろw





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インディ・ジョーンズと運命のダイヤル

2023-07-29 | 映画(あ行)

◼️「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル/Indiana Jones and the Dial of Destiny」(2023年・アメリカ)

監督=ジェームズ・マンゴールド
主演=ハリソン・フォード マッツ・ミケルセン フィービー・ウォーラー・ブリッジ ジョン・リス・デイビス

ハリソン・フォードは「スターウォーズ」のハン・ソロ以来憧れの存在。インディシリーズは、第1作「レイダース/失われたアーク(聖櫃)」を映画館で観た世代なもので、前面に打ち出されたディズニー映画でござーい!とのアピールが嫌で仕方ない。どうしてタイトルに今さら"と"を付ける?、ロゴのデザインが平坦でダサくなってる、とまぁ目くじらを立てたらきりがない💢。そんな不満はあるのだけれど、ハリソン=インディの花道を見届けるのは俺たち世代の役割だ。そんな気持ちでいざ、映画館へ。

パラマウント映画のロゴマークから山の映像がオープニングになるお約束(細かくてすみません)は破られて、オールドファンをまずイラッとさせる。しかし、そこから続く第二次大戦中のエピソードが危機また危機の見せ場になっている。いかんせんこのシーンは暗いのが残念。「ハン・ソロ」も前半は暗い場面のアクションが多かったよな。ディズニー資本だとみんなこうなるのか?いかんいかん、ディズニーを頭から追い出せ。ドイツ兵に化けたインディはCGで若造り。ロンギヌスの槍というパワーワードを退けてしまうアンティキティラのダイヤルとは、どれだけすごい代物なのか?。映画のツカミとしてはまずまず。

そこから先は冒険また冒険。モロッコの迷路の様な街を走り回り、ギリシャの海にダイブ、シシリー島と世界を股にかける大活躍。決して飽きさせることはない。クライマックスはこれまたスケールの大きな話になっているけれど、壮大なSFに持って行った前作「クリスタル・スカルの王国」と比べたら格段にいい。手堅い演出と考古学者であるインディのキャラクターが活かされた展開。これまで僕が観たジェームズ・マンゴールド監督作では、信念ある頑固な男たちが感動を与えてくれた。スピルバーグのジワジワ観客を追い詰める娯楽映画の演出とは違うけれど、それぞれのキャラクターが伝わりやすい気がする。出番は少ないながら、アントニオ・バンデラスもジョン・リス・デイビスも、わずかな台詞から生き様が伝わる。

アポロ月面着陸で盛り上がる1969年が舞台。時代の変化を印象づけるためか、ビートルズの楽曲が派手に使われている。なるほどねー、でもあの曲のリリース、もうちょっと前じゃない?。あー、雑念がw。でも勇壮なレイダースマーチが上書きしてくれる。やっぱりジョン・ウィリアムズ最高。

80歳を前にした撮影当時に、ハリソン・フォードがインディを演じてくれたことに感謝。後日談としては申し分ない。役者を替えてシリーズとして存続させたい、ディズニーの思惑がにじんでる気もするが、まあそれもビジネス。オールドファンには、ラストのやり取りが嬉しかったね。


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アレキサンダー大王

2023-07-12 | 映画(あ行)

◼️「アレキサンダー大王/Alexander The Great」(1956年・アメリカ)

監督=ロバート・ロッセン
主演=リチャード・バートン フレデリック・マーチ クレア・ブルーム ダニエル・ダリュー

マケドニアのアレクサンダー大王は、世界史の授業で必ず聞く名前だし、大がかりな東方遠征で広大な地域を支配した人物。アニメ好きには、「Fate/Zero」でサーヴァントの一人、征服王イスカンダルとして登場するのでおなじみの存在。本作はリチャード・バートンがアレクサンダーを演じた歴史大作。映画の存在は知っていたが、観るのはこれが初めて。配信もないようなので、なかなか貴重な放送だったのかも。

ハリウッド製歴史大作というと「ベン・ハー」やら「クレオパトラ」をどうしても思い浮かべてしまう。それらのスケール感やアクションを念頭におくと、この映画はどうも見劣りしてしまう。例えばイッソスの戦いシーン。ペルシャ軍の馬車も登場するけれど、「ベン・ハー」の有名なレース場面や、(CG時代と比べてはいけないと思うけれど)「キングダム2 遥かなる大地へ」の疾走感とは違う。走ってきた馬車を歩兵が取り囲んで槍でツキツキ…。戦況を俯瞰する映像は分かりやすいのだが、「プライベート・ライアン」や「ダンケルク」の生々しい戦場を観ている世代には間延びして感じてしまうかも。一方、剣を交える場面はなかなかよい。カイロネイアの戦いで、敵兵に追い詰められた父フィリッポス2世をアレキサンダーが救う場面は、後のストーリーにも絡むいい場面になっている。

この映画は、歴史活劇よりも人間ドラマに主眼を置いているのだろう。父フィリッポス2世と母オリュンピアスの確執と、その板挟みになるアレクサンダーの苦悩と決断が描かれる。フィリッポス2世を演ずるのは名優フレデリック・マーチ。本作の監督ロバート・ロッセンの代表作「オール・ザ・キングスメン」では主役の政治家を演じている。そちらでは権力に溺れてしまう役柄だったが、フィリッポス役も同様に権力に執着する姿が印象的だ。母はフランス女優ダニエル・ダリュー。「8人の女たち」や伯爵令嬢を演じた「うたかたの恋」など気品を感じさせる役が多い人で、本作の気丈な王妃役は他の作品とは違う迫力がある。

ギリシア世界とアジアを結びつける偉業を成し遂げたことは、この映画でも学ぶことができるが、彼を支えた人物たちとの関係が薄味なのはちと残念。「スターウォーズ」EP4のモフ・ターキン役、ピーター・カッシングが脇役で出演。



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OL百合族19歳

2023-05-13 | 映画(あ行)

◼️「OL百合族19歳」(1984年・日本)

監督=金子修介
主演=山本奈津子 小田かおる 久我冴子 山本伸吾

サービス終了となるGyao!を3月中に使わないと…あれこれ検索して、またにっかつロマンポルノに手を出すの巻。実は U-NEXTで観られることに今さら気づく💦。ともかくGyao!ありがたう。

山本奈津子好きで「セーラー服百合族」1作目は観たけど、これは観たことなくって!。公開当時、君は高校生だったでしょ!って鋭い指摘はしないでください。(1作目を観た経緯は「セーラー服百合族」レビューを参照)。

高校卒業後、再会した二人は、同じ会社の別の部署で働くことになり一緒に暮らし始める。社会人になれば生き方や行動を変えなければと気持ちが揺れる。なおみは結婚を見据えた男性との付き合いを考えるようになり、美和子は学生時代と同じようになおみとイチャイチャしていたい。なおみが思いを寄せている営業課の男性が振り向いてくれるように、美和子が世話を焼いたことから、なおみは結婚へと行動を移す。第1作と同じく、美和子は置いてけぼりで、冴えない男子に言い寄られる展開に。

監督は那須博之から、平成ガメラシリーズの金子修介にバトンタッチ。那須監督は、お年頃の煮え切らない気持ちや輝きをフィルムに収めた。本作では、大人になろうとする彼女たちと、何かとめんどくさい大人の世界が描かれる。生き方に悩んで迷子になってしまいそうな二人。金子修介監督は、冴えない童貞ボーイや左遷にあった美和子の上司を絡めて、ロマンポルノ特有のどよーんとした雰囲気にせず、楽しめる作品に仕上げている。コピーマシンが唸りをあげる濡れ場もあれば、まゆみと美和子が抱き合う幻想的な美しいシーンもある。

ラストシーンのウェディングドレス姿で教会から逃げ出す二人。ダスティン・ホフマンの「卒業」かよ🤣と笑っちゃうけど、二人の表情はとにかく明るい。
「どこまでも逃げるよ!二十歳まであと1年あるんだもん!」
逃げられた新郎の腕にそっと手を絡める同僚元カノ、美和子と抱き合って自殺を思いとどまる上司。無軌道な二人はそれでも誰かを幸せにしているのだ。きっとモニターのこっち側の僕らも😊






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エルビス・オン・ステージ

2023-05-09 | 映画(あ行)

◼️「エルビス・オン・ステージ/Elvis : That's The Way It Is」(1970年・アメリカ)

監督=デニス・サンダース
主演=エルビス・プレスリー ジェームズ・バートン チャーリー・ホッジ

中学生の頃。自宅の棚の上に古いシングルレコードが縦に詰め込まれた箱を見つけた。中には50-60年代映画の主題曲やらダンス音楽やらカスケーズ「悲しき雨音」やら。映画好きになりかかった頃だったし、音楽はオールディーズに何故か興味をもっていたから面白くなってあれこれ漁って聴いていた。そこにあったのが、赤い背景にギターを持った男性がジャケットに描かれたレコード。曲名は「ハウンドドッグ」、B面は「冷たくしないで」。エルビス・プレスリーである。

「あ、それ私のよ」
振り向くと母がいた。普段とても穏やかな人だから、(当時としては)けっこう激しいのを聴いていたことに驚いた。だって台所で奥村チヨの「終着駅」を口づさんでる姿しか見ていないんだもの。
「プレスリーと大川橋蔵の映画は、ほとんど映画館で観てるわよ。」
母は筋金入りのプレスリーファンだった。僕の音楽鑑賞のルーツを遡ると、ビートルズは父親に、プレスリーは母親に仕込まれたようなものだ。

エルビスの主演映画はレンタルビデオでいくつか観たが、ライブ映像をじっくり観る機会がなかなかない。大人になってから、BSで放送された「エルビス・オン・ステージ」を鑑賞した。1969年にラスベガスで催されたコンサートのドキュメンタリー。ステージアクションにバンドメンバーがいちいち反応する。合唱隊かと思える人数のバックコーラス。一座を従えているビッグスター。豪華な舞台。

中学生の頃エアチェックしたカセットで散々聴いた曲が次々に流れる。代表曲はもちろん素晴らしい。中でもSuspicious Mind、Polk Salad Annieの熱唱が心に残った。サイモン&ガーファンクルの「明日に架ける橋」も、エルビスが歌うとこんなに力強い曲になるのか。

60年代半ば以降、アメリカ音楽界は英国の侵略(ブリティッシュ・インベーション)の真っ最中。それでもチャートの上位に食い込むヒットを飛ばし続けていたのはエルビスだった。この映画でエルビスのステージを見つめる人々の眼差しと拍手。アメリカ音楽界でのエルビスの存在の大きさを見せつけられた気がした。







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嵐が丘

2023-04-28 | 映画(あ行)

◼️「嵐が丘/Wuthering Heights」(1992年・イギリス)

監督=ピーター・コズミンスキー
主演=レイフ・ファインズ ジュリエット・ビノシュ ジャネット・マクティア

エミリー・ブロンテの原作は何度も読んだし、ケイト・ブッシュが歌ったWuthering Heightsは大好きな曲。ヒースクリフとキャシーをめぐるある種異常な愛憎劇に、一時期ハマってしまったことがある。愛し合うが故に憎み合う。幸福になれると思えないけれど愛さずにいられない。もはや執着とも呼べるようなドロドロした人間ドラマは、他では味わえない。

映画化作品はあれこれあるけれど、代表的なウィリアム・ワイラー監督による1939年版はどうも好きになれない。話半分で終わるし、強引なハッピーエンドに持っていったように思えて仕方なかった。吉田喜重監督による日本を舞台にした翻案は、ドロドロした人間関係と全体の雰囲気がかなり好き。

ピーター・コズミンスキー監督によるこの1992年版は、個人的にはとても好感。原作にある程度忠実。しかしあの内容をじっくり描くには上映時間が短すぎるのが残念。されどキャスティングと作り込まれたムードがとても好きなのだ。特にヒースクリフの荒々しさと冷酷さ、内なる一途さを表現するのには、無表情なレイフ・ファインズは適役だと思う。ジュリエット・ビノシュのキャシーも、激しい感情を溜め込んでる感じが表情ひとつで感じられた。キャスティングで納得させられたし、原作の冷たい空気感が伝わる映画化だった。

憎しみを糧にして生きるのは難しいし、苦しい。ヒースクリフはその憎しみの陰にキャシーへの変わらぬ愛情があったからこそ魅力的なキャラクターなのだと思う。

坂本龍一の音楽が素晴らしい。





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a-ha THE MOVIE

2023-04-24 | 映画(あ行)

◼️「a-ha THE MOVIE/a-ha:The Movie」(2021年・ノルウェー=ドイツ)

監督=トマス・ロブサーム アスラーグ・ホルム
出演=モートン・ハルケット ポール・ワークター・サヴォイ マグネ・フルホルメン

コロナ禍のせいで参戦予定だったいくつかのライブに行けなかった。その一つが2020年3月のa-ha来日公演。名盤「Hunting High And Low」の完全再現を含むライブとのことですっごく期待していたのだが、延期に延期を重ねて結局参戦できず、泣く泣く払い戻し。残念だったな。

そのa-haの軌跡を追ったドキュメンタリー映画である。冒頭から3人のレコーディングに向かう気持ちがすれ違う。自分から湧き出るアイディアを試したいギターのポール、意見が合わず最後は殴り合いになるからスタジオに入りたくないと拒むキーボードのマグネ。こんな確執を抱えていたのかと驚かされる。

作曲者とは誰なのか。著作権者を示すクレジットがどうなっているかは、ミュージシャンにとって大きな問題。ビートルズの"レノン=マッカートニー"って表記の裏にもいろんな事情があるし、クィーンはそれまでメンバー個人の表記だったのが80年代半ばに"(QUEEN)"名義になってくる。大ヒット曲Take On Meのイントロのキーボードのリフは、14、5歳の頃から弾いていたとマグネは言うが曲の名義はポール。リスナーとしてa-ha楽曲を聴いてきたけれど、バンド内での方向性や力関係は初めて知ることばかりだった。ノルウェーの音楽シーン、007映画主題歌の裏側、その後の方向性の模索。アンプラグドでのアレンジをめぐって「自分だけが目立つ」とモートンが主張する場面など、興味深いエピソードが並ぶ。

1stアルバム「Hunting High And Low」は確かに名盤。個人的には2nd「Scoundrel Days」の暗さが好きだったりする。I've Been Losing Youの激しさや凝った構成のManhattan Skyline。2000年代に放ったヒット曲Foot of the Mountainの舞台裏に、こんなギリギリの駆け引きがあったとは。80年代のエレポップグループとは違うライブバンドとしての一面も知ることができた。

最新作の「True North」はしっとりしたムードがけっこう好きなのです。





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イタリア式離婚狂想曲

2023-04-20 | 映画(あ行)

◼️「イタリア式離婚狂想曲/Divorzio all'italiana」(1961年・イタリア)

監督=ピエトロ・ジェルミ
主演=マルチェロ・マストロヤンニ ダニエラ・ロッカ ステファニア・サンドレッリ

映画好きの親父殿が
「ピエトロ・ジェルミって人の映画ええぞ」
としきりに言っていた。自宅に「鉄道員」や「刑事」の主題曲レコードもあったくらいだから、かなりお気に入りだったんだろう。
あもーれ、あもーれ、あもーれぇ
あもれみぃぃおぉぉ♪
…と「刑事」の主題歌を口ずさむのだ。父に勧められて初めて観たのが「鉄道員」だったから、ジェルミってなんか深刻な話を撮る人なんだろなと思っていた。

ところがである。映画の知識がだんだんついてくる中で、僕はジェルミ氏はいわゆる艶笑コメディを撮っていると知る。そしてたどり着いたのがこの「イタリア式離婚協奏曲」。

没落貴族の主人公は、従妹と密かに愛し合うようになった。長年連れ添った妻が邪魔で仕方ない。当時のイタリアには姦通の罪が定められていて、姦通した妻を殺した夫は短期の懲役刑しか科されなかった。主人公は、妻が浮気できるように仕向けるが、そこに司教の息子である画家が現れる。天井画の手直しを彼に依頼して、妻と二人きりにすることにした…。

なんだこりゃ。
まさにあもーれ、あもーれ♡じゃねぇか。

若い頃。映画に出てくるイタリア男って、好色で陽気で何を考えてるかわからない輩が多いと、僕は勝手に思っていた。女にしつこく執着する男は決まってイタリアだ。未練が服着て歩いてるような「終着駅」のモンゴメリー・クリフト、アメリカ女につきまとう「旅情」のロッサノ・ブラッツィ、われらがダイアンをナンパする「リトル・ロマンス」のテロニウス・ベルナール少年。もちろん偏見だと百も承知。だけど、マルチェロ・マストロヤンニが演ずるこの映画の主人公フェフェはまさにその輩の一人だった。

やがて駆け落ちした妻と画家。世間から寝取られ男と噂されるが、実は楽しくてしかたない。ついに彼は二人を追いつめようとする。唖然とする結末と、クスクス笑える皮肉なラストシーンが控えている。艶笑コメディはお子ちゃまにはわからない大人の笑い。

「40過ぎたらおねーちゃんなんてどうでもよくなるんですよ」
と先輩がおっしゃっていて、僕もそうなるのかなと思っていた(ちっともそうならなかったけれどw)。だけどその年齢を超えた今思うと、この映画で
「人生は40からさ!」
と言うマルチェロの言葉もどこか素敵な響きに聞こえる。もちろん、法律を逆手にとった殺人はダメ、ゼッタイ。劇中、マストロヤンニ主演の「甘い生活」が引用されるのも映画ファンには楽しい仕掛け。





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安城家の舞踏会

2023-04-13 | 映画(あ行)

◼️「安城家の舞踏会」(1947年・日本)

監督=吉村公三郎
主演=滝沢修 森雅之 原節子 逢初夢子

華族制度が廃止されることで身分を失う一家の姿を描いた名作、と噂には聞いていたけど観るのは初めて。圧倒されました。没落貴族の映画なんて、ルキノ・ビスコンティの専売特許だと思っていたけど、日本映画にこんなすごいのがあったなんて。傑作。

地位も財産も失う日が迫る中、原節子演ずる次女は屋敷の売却先で奔走する。時代は確かに変わったけれど、爵位のプライドや過去を捨てきれない父と長女。「殿様」と慕われてきたが、その地位を維持することなどもはやどうにもならない。それでも過去にしてやった恩義を口にして債権者に頭を下げて猶予を訴える父。運送業で成功した元運転手は、次女に屋敷の購入を頼まれる一方で、出戻りの長女に愛情を抱いていた。しかし長女は貴族のプライドを捨てられない。手を振りほどいて「汚い」と言い放つ。時代の節目で、表舞台から姿を消す者たちと、経済力をつけていく者たち。

この映画が公開されたのは1947年。まさに華族制度が廃止された年だ。そんな時期に製作されたことが驚きだし、それが興味本位でなく、去りゆく者の揺れる心に触れるような繊細に描かれた物語。

庶民でない原節子も素晴らしい。森雅之って、今まで観たどの映画でも女性に好感度低そうな男を演じてる。それでも、許嫁だった女性にビンタ喰らった後で、高笑いしてピアノに向かう姿がなんか憎めない。

しとやかな獣」とこれを観て新藤兼人の脚本の良さを改めて感じた。時代の空気を感じ取れたり、短いけれど端的に刺さる台詞たち。




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