Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

カティンの森

2010-10-26 | 映画(か行)

■「カティンの森/Katyn」(2007年・ポーランド)

監督=アンジェイ・ワイダ
主演= マヤ・オスタシェフスカ アルトゥル・ジミイェフスキ マヤ・コモロフスカ

 これまで知らなかった異国の現実を、僕らは映画を通じて知ることができる。それは映画を見続けていてよかったと思えることのひとつだ。ポーランドは大国によって踏みつけられてきた歴史がある。1939年にドイツとソ連双方から侵攻されたことを僕らは教科書的には知っている。しかしその侵攻によって逃げまどうポーランドの人々のことは知らない。映画の冒頭、スクリーンの左右から戦火に追われた人々が現れる。ドイツが・・・ソ連が・・・軍の将校はみんな捕らわれた・・・絶望的な国内の状況を短時間で見事に僕らに印象づける。

 この映画は、ソビエトがポーランド将校を虐殺したカティンの森事件をテーマにしている。この虐殺事件は、映画でも描かれている通りにソ連寄りの政権によってドイツのせいにされ、事実が伏せられてきた。僕らはこれまで数々の戦争映画やホロコーストもので、ナチスドイツがやってきたことは知っている。でも戦争の悲劇はもちろんそれだけではない。カティンの森事件はスターリン指導下のソ連がやったこと。この映画を観なかったら、僕らはそれを知ることもなかっただろう。

 アンジェイ・ワイダ監督は祖国ポーランドを描き続けてきた。大国に抵抗する若者たちを、戦争に翻弄される人々を、政治変革に挑むワレサ議長を、そして祖国で起こった悲劇的な歴史を銀幕に刻み続ける。「カティンの森」も事件を風化させないこと、世界にこの悲劇を知らしめること。でも監督がこの映画に込めたのは、きっとそれだけではない。それはワイダ監督の怒り。「灰とダイヤモンド」を撮ったあの頃と世界はなんにも変わっちゃいない。ラストの虐殺シーンは淡々と、まるで流れ作業が行われるかのように描かれる。その怖さ、恐ろしさ。でも僕らは映画に込められた気迫に目を背けることができない。これだけの犠牲をポーランドは、いや世界は強いられてきた。なのに世界では今も・・・それはワイダ監督の嘆き。音楽さえないエンドクレジットには身動きすらできない。圧倒されて涙すら流せない。戦争は人を狂わせてしまう。様々な映画がこれまで銀幕に映し出してきたが、それらはやっぱり娯楽映画だったのか・・・とすら思えてしまう。

 戦争に翻弄される人々。引き裂かれる家族。物語は森で事件が起こるまでを記したメモが遺族に渡されて、真実に迫るところで終わる。映画はそのメモに残された事実を知った遺族の表情を映しはしない。空白のページが風にめくれるのを映すだけの空虚なラストシーン。事実を知り得たとしてもそれは解決ではないのだ。戦争は世界そのものを空虚にしてしまう。何度も観たい映画ではないし、楽しい映画でもない。だがこの映画を観ることで、ポーランドの歴史を知ること、戦争の悲劇を知ること、それを繰り返してはならないと思い知ることが大切なことだ。製作することに意味がある。観ることに意義がある、きっと忘れられない一本になる。これはそういう映画なのだ。

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