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お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

この天の虹

2010-10-30 | 映画(か行)

■「この天の虹」(1958年・日本)

監督=木下惠介
主演=高橋貞二 久我美子 大木実 川津祐介 田中絹代 笠智衆

先日工場萌えなお仲間たちとツアーに参加して新若戸道路建設現場と新日本製鐵の工場内を見学させてもらった(その様子はこちら)。製鉄工場の広大な敷地(なんと戸畑区の4割)、無数に走る巨大なパイプ、船着き場、歴史ある建造物、高炉の熱気・・・すべてに圧倒された。写真を撮れなかったけれどもその印象は記憶に強く残った。産業がまちをつくっているのだということを改めて感じた。ツアーに一緒に参加した年配の方が「七色の煙が出ていたのってこの辺りよね。」とおっしゃっていた。僕は北九州市出身ではないので昔のことはよく知らない。七色の煙は写真では見たことがあるが、それはむしろ公害をテーマに話をされていた中で示されてネガティブなイメージとして焼き付いていた。でもそのおばちゃんの「七色の煙」という響きには暗さがない。むしろ誇らしい響きがあった。

八幡西区黒崎に映画館を復活させようというイベント黒崎シネマチャレンジの中で、10月30日31日と11月3日に上映される「この天の虹」は八幡製鉄所を舞台にした映画だ。僕は地元ロケされた映画が数多くあるということは、貴重な財産であると思っている。そういた映画を観ることで地元への愛着や歴史やまちそのものへの興味を育てることができる。「この天の虹」は、八幡製鉄所で働く人々の人間模様を描いた木下恵介監督の意欲作。今も昔も、同じ職場で働いていても様々な人がいる。同じ企業と言っても、当時製鉄所で働いていたのは数万人に及んでいたと聞く。企業がまちをつくっている、と書いたが、この映画をみて、企業がまちそのものだったのだと思い知らされた。映画はその時代を記録する。その時代の風景を懐かしむだけでなく、学ぶこともたくさんある。映画は冒頭からしばらくの間八幡製鉄所の説明が続く。これは企業紹介映画だと言っていいだろう。僕は実際に見学してきた後だけに、見てきた現在をさらに上回るスケールだったこと、現在は立ち入りできない本社事務所が出てくるのにちょっと感激。

高橋貞二演ずる主人公が同じ会社で働く久我美子に恋している。物語はこの二人を軸にして、後輩川津祐介(デビュー作!)や久我美子が思いを寄せる田村高廣、川津祐介が下宿している家族など製鉄所を介してつながり合う人々を描き出す。高炉台公園で男二人が将来への不安や希望を語る場面が印象的だ。「僕の将来は工場の空にかかるこの天の虹だと思ったんです」という台詞。当時繁栄のイメージだった”七色の煙”と呼ばれた工場の排煙と虹をダブらせている。しかし企業がどんなに栄えて社員を支えるために手厚い福利厚生をやっていても、人の幸せはそれぞれのもの。人には人の希望や不安があり、それぞれの幸せがある。だから人と人のコミュニケーションは難しいし、逆に理解し合うことに幸せがある。

今の視点で見るとやはり煙突からの排煙が気になる。川津祐介が久我美子に「なんであの人と結婚しないのか」と詰め寄る場面のバックにも色濃い煙が漂う。ここまですごかったんだろうか、演出なんではないだろうか・・・とも思うが当時を知る人に尋ねると似たようなものだったようだ。皿倉山から見下ろす場面でも街は煙って見えはしない。話に聞いていた昔の八幡の様子がとてもよくわかった。映画による記録って大切だよなぁ・・・とそう思ったし、こうした映画が製作されていることのありがたさを感じた。映画の最後は、「煙の下で働く人々に幸せであれ、一人一人の力はささやかでもこの工場で生産される鉄は、我々の生活や国を支えている・・・」と結ばれる。高度成長期の時代にこの映画を観るときっと誇りに思えただろうなぁ。当時を知らない僕が観ても、自分が住む街がかつてこうした歴史や繁栄があったことを知るのは誇らしい。そして「働く人々の健康と幸福を祈ります」というナレーションで映画は幕を閉じる。銀幕のこちら側には日々地道に働く人々がいる。映画はそうした僕らの娯楽であり、様々な人生を学ぶものでもある。そんな僕らをねぎらってくれる映画・・・なんか嬉しいじゃない。この視点の優しさが木下恵介監督らしさのだろう。いいものみせてもらいました。



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