■「戦場にかける橋/The Bridge On The River Kwai」(1957年・アメリカ)
●1957年アカデミー賞 作品賞・主演男優賞・監督賞・脚色賞・撮影賞・編曲賞・編集賞
●1957年NY批評家協会賞 作品賞・男優賞・監督賞
●1957年ゴールデングローブ賞 作品賞・男優賞・監督賞
監督=デビッド・リーン
主演=アレック・ギネス ウィリアム・ホールデン 早川雪州 ジャック・ホーキンス
戦争映画は数多く製作されてきた。反戦的な内容のものもあれば冒険映画のようなものもある。戦場という極限状態での人間模様、戦争に翻弄される人間模様。戦争は人を狂気に陥れる。コッポラが「地獄の黙示録」で不気味に描いた狂気とは違うが、名匠デビッド・リーン監督の「戦場にかける橋」もやはり狂気の物語だ。捕虜たちが口笛を吹く明るいクワイ河マーチのイメージとは裏腹に、この映画のエンドマークを観た後に感じるのは他の映画では味わったことのない虚しさ。
サイレント時代から活躍する日本人スタア早川雪舟演ずる収容所所長の斉藤大佐。史実ではここで描かれるよりも非人道的な行為が行われていたとの指摘もあるようだが、それでも鉄道が完成しなければ死なねばならないと言う過剰な使命感はまさに戦争の狂気故だろう。また、アレック・ギネス演ずるイギリス軍のニコルソン大佐は、一見冷静で常識的な行動を採っているようにも思える。しかし、条約の遵守を頑なに主張したり、捕虜となりながらも軍の統率という目的の為に橋の完成と威厳を保つことに、まるで取り憑かれたように執着する。これも戦争や置かれた状況が彼を狂わせたことに他ならない。
そして唯一脱走に成功したアメリカ兵シアーズ(ウィリアム・ホールデン)は、鉄道破壊の任務の為に再びジャングルへと向かう。一緒に作戦を遂行するイギリス兵たちは、失敗した場合の死に方を彼に説くが、生きることを楽しむのが大切と考える彼にそれは不思議に感じられる。自分の弱みを握られたことで作戦参加を断れず、再びジャングルに。ところが将校が足に傷を負い、「自分を置いていけ」と彼に言う。シアーズが「どうして死に方ばかりを考えるんだ?。人間らしく生きることがいちばん大切なのに!」と叫ぶ場面は、戦争の狂気に染まらなかったひとこと。そして迎える映画のクライマックス。橋を完成させて安心した斉藤大佐、その橋建設に誇りを感じているニコルソン大佐、そして橋の破壊にやってきた兵士たち。それぞれの思いが交錯する。しかし爆破装置のワイヤーをニコルソン大佐に発見されたことから悲劇が・・・。大佐は敵に造らされた橋を守ろうとし、将校は同胞であった人間を「殺せ」と叫び、いちばん生きることに執着した男が爆破装置へと走る。「何のために・・・」とつぶやくラストシーンの衝撃。圧倒された。生きるために何かに執着することは決して悪いことではない。しかし、戦争はその気持ちを醜くゆがめてしまうし、お互いに打ち消し合わせてしまう。なんて空しいことだろう。そしてそうした人間達の愚行をジャングルの上を飛ぶ鳥たちは静かに見下ろし、自然はそれまでと変わらない静寂の中にある。デビッド・リーン監督が示したこのラストシーンに感じる虚無感は、これまで「シン・レッド・ライン」や「プライベート・ライアン」に感じた虚無感よりもずっとずっと心に残る。
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