Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

すべての男はアンパンマンである。

2012-03-23 | その他のつぶやき


 近頃、うちの子(幼稚園児・当時)は「それいけ!アンパンマン」にはまっている。多彩なキャラクターが次々と登場し、大人が見ていても楽しめる。キャラクターたちはそれぞれその分野のスペシャリストばかりである。例えば、 てんどんマン・カツどんマン・かまめしどんの丼ブラザースは、その名のとおり丼のスペシャリスト。ハイカラなカツ丼マンは英語も堪能だ。鉄火の巻ちゃんとかハンバーガーキッドだとか、姿を見れば名前さえ想像がつく。

 ところで、僕が思うに、この物語の中には”男の悲哀”がいっぱいである。最も可哀想なのはわがまま娘(どきんちゃん)に振り回されてばかりいる悪役、ばいきんまんだろう。「お腹すいた~、何かない~」と言われてばいきん城を出ていくばいきんまんの姿は、哀愁そのものだ。

 一方、主人公たるアンパンマンは困っている人を助けたり、お腹を空かせた人々に自分の顔をちぎって与えることを日々やっている。だが、彼は顔が汚れたり、濡れたり、つぶれたりするだけでもパワーダウンしてしまう。それにもかかわらず彼は顔をちぎって与える。この行為は、本人は笑顔を保ってはいるが、まさに”身を削る”行為なのである。

 アンパンマンは正義を守るヒーローだ。このコミュニティーの治安と平和を守る役割を果たしている。しかし、他のキャラがその食物に関するスペシャリストであるのに対して、アンパンマンだけはあんぱんを作るということはできない。例えば、同じ正義の味方であるハンバーガーキッドは、ばいきんまんに襲われて食糧が無くなった町を救うためにハンバーガーを作って提供することができるし、ところてんまんは屋台を引いて各地をまわって、ところてんの美味しさを伝えている偉大な伝道師だ。

 他にも食べ物を作らないキャラはいる。しかしその大半はメロンパンナちゃんとかちびぞう君のような小学生か、歯みがきまんとかバイオリン弾きのピーターなどのゲストキャラである。つまりアンパンマンは生産性のある仕事ができる訳ではないのだ。悪い言い方をすれば腕力と正義感を武器にしているだけの人なのだ。おまけに、ばいきんまんの策略で顔を濡らしてしまってパワーを失った場合には、生みの親であるジャムおじさんに助けてもらう他はない。危機を一人で乗り切ることはできない、いわば親に頼り切りの情けないヤツなのである。

 シリーズの一編に「ぼくのアンパンマン」(98年)というのがある。いつもはばいきんまんが悪さをして、アンパンマンが登場。ばいきんまんの反撃で顔にダメージを負うのだが、新しい顔に替えてパワーアップ、あんパンチでばいきんまんを倒す、というのが「水戸黄門」ばりの黄金パターン。ところがこの「ぼくのアンパンマン」は以下のような内容だ。

 アンパンマンが日頃どんな活動をしているのか?。困った人々を助けているというが、これはその実態を描いたものだ。砂漠で倒れているストーンマンを救ったり、海底で岩に挟まれたチビマリンを助けたりというエピソードが語られる。皆お腹を空かせているので、力が出ない。その為アンパンマンは自分の顔をちぎって与え、彼らを救うのだ。ところが、アンパンマンは顔をちぎりすぎた為にうまく飛ぶこともできなくなった。パン工場に戻る途中で雨も降り始め、木陰で雨宿りをすることになる。ぐったりして気力も失いかけたアンパンマン。だが、彼が救った子供たちや彼の帰りをパン工場で待つ子供たちの声が虹となって、雨もあがる。アンパンマンは再び立ち上がってパン工場への帰途に就くのだった・・・。

 どうだろう。これは日々がんばっているお父さんの姿ではないだろうか。制作者サイドにそういう意図があったかどうかは別にしても、僕にはそう感じられてならない。

 「ねぇ、お父さんって毎日どんなお仕事してんの?」と尋ねてくる子供たちや、「どうせ家じゃ粗大ゴミなんだから」と夫にねぎらいの言葉もかけない奥様たちよ、このエピソードを見なさい!っと小沢昭一風に僕は言いたいのだ。

 顔をちぎって与えるアンパンマンは、作り笑顔で得意先回りをして神経をすり減らしているお父さん。
顔を替えてもらって復活するアンパンマンは、失敗してばかりいるお父さん。
正義感をひけらかすアンパンマンは、がんばり屋で仕切り屋のお父さん。
粗大ゴミ扱いされているお父さんは、どきんちゃんに「おばか!」と罵られるばいきんまん。
尻に敷かれているお父さんは、「何かないの~」と言われてパン工場を襲うばいきんまん。
そして、あんぱんを作れずに、正義感だけでにコミュニティに貢献しているアンパンマンや、自分の得意分野だけで勝負しようとする数々の登場人物たちは、”これだけしかオレはできないから”と地道に頑張るお父さん。

 世は何でもできるゼネラリストが求められる時代かもしれない。しかし、アンパンマンのみならず、「それいけ!アンパンマン」のキャラたちは地道なるスペシャリストたちだ。しかし彼らは、自分にしかできない”これだけ”を大事にして、懸命に取り組んでいる人々なのだ。実はこのアニメはすごく僕ら男たちに勇気をくれる物語ではないだろうか?。
コメント
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