■「女と男のいる舗道/Vivre Sa Vie」(1962年・フランス)
監督=ジャン・リュック・ゴダール
主演=アンナ・カリーナ サディ・レボ ブリス・パラン
「好き勝手に生きる」の題されたこの映画。フランスの判事が書いた実際の売春婦の記録をもとに、ゴダールは一人の女が売春に至るまで、そしてその末路を映像化した。事情はあるにせよ一人の女が堕ちていく様を観るのは嫌だな・・・・と思う方もあろう。僕もそういう話は好きではない。ところがゴダールはそんな痛ましさだの女の悲哀だのを、観客に感じさせることなどこれっぽっちも考えてはいない。主人公ナナの日常を、路上に出したカメラでひたすら追っていく。その視線は時に冷たいドキュメンタリー風にもなるけれど、被写体への愛情が感じられる視線だ。これはカリーナとゴダールの蜜月時代の映画だけになおさらなのだ。何よりもこの映画はアンナ・カリーナの魅力によることろが大きい。履歴書を書きながら、指で身長を計る姿なんて実に可愛い。同じ話をイザベル・アジャーニあたりで今撮ったら、きっとドロドロの堕落物語なのだろうけど、カリーナの魅力でお洒落な映画に見えてしまうから不思議。
実は僕は「勝手にしやがれ」が嫌い。初めて観たときには、あのズタズタの編集に気分が悪くなった。映像はおろか音楽までコラージュされて、ゴダールの映画音楽担当する音楽家は可哀想とまで思った。じゃぁ「女と男のいる舗道」は嫌い?と聞かれたら・・・好きだ。こちらは実際に同時録音がされて生活の生々しさが感じられるし、カフェやレコード店での長回し撮影が僕には心地よかった。娼婦の生活をテンポよくみせる場面や、哲学について語る場面が好きだ。