◾️「9人の翻訳家 囚われたベストセラー/Les traducteurs」(2019年・フランス)
監督=レジス・ロワンサル
主演=ランベール・ウィルソン オルガ・キュリレンコ アレックス・ロウザー
出版前の作品漏洩を防ぐために、各国語を担当する翻訳家が集められ、地下室に隔離して作業にあたった。その実話をヒントに製作された、フランス製ミステリー映画。決して密室内の会話劇ではなく、翻訳家たちが地下室に入る前、その後、さらに回想と一連の出来事を描く場面が次々に展開していき、小出しに情報が示されていく。
犯人探しのミステリーとしては物足りない方もあるかもしれないが、観客を騙すばかりがミステリーではない。騙し騙される映画を観たいならそれが売りの映画を観ればよい。一癖も二癖もある登場人物の人間模様、犯罪に至るまでの心理、葛藤のドラマがねっとりと絡みつく面白さがミステリーの醍醐味。この映画もその類だ。もしハリウッドリメイクされることがあったなら、犯人探しと手口はさらに面白くなるかもしれないが、動機はきっと味気ないものになるだろう。
レジス・ロワンサル監督の「タイピスト!」のクライマックスでは、各国代表が集まるタイピング大会が登場する。決勝に集結した各国選手は、かなりステレオタイプな描かれ方をしていた。また映画のオチも、ビジネスはアメリカ人、恋愛上手はフランス人という分かりやすさが楽しかった。
「9人の翻訳家」でも、9ヶ国語それぞれを担当する各国の翻訳家が集められる。しかし今回は、それぞれのお国柄を"いかにも"と感じさせることはしない。ドイツの人はお堅くなく、イタリアの人が大らかでない。小説や仕事、生活、自分自身に向き合う等身大の姿が描かれる。特にオルガ・キュリレンコ演ずるロシア語担当は、小説のヒロインに魅せられて同じようなファッションでなりきり、翻訳しながら感情移入して泣くような"ヤバい読者"。エドゥアルド・ノリエガが演じたスペイン語担当は吃音にコンプレックスを感じているし、デンマーク語担当の女性は家族に対する複雑な気持ちに悩んでいる。お国柄でなく人柄のバラエティになっている。お国柄が出たのは、優秀な日本のコピー機かww。彼らが警備員に気づかれないように多言語で指示を出し合う場面、やたらカッコいい。
閑話休題。視覚で把握できる範囲は限りがある。ましてや映画を観ている観客にとっては、スクリーンに映されている四角に切り取られた風景がすべてで、その外側に何があるのか知ることはできない。ズームインとズームアウト。カメラレンズを回す操作によって、僕ら観客には情報量がガラッと変わってしまう。画面の外側にある事実、外側にいる誰か。暗闇の中ナイフを手に進む男性がぶつかる何か。焦りと怒りで顔をゆがめる出版社社長の表情だけが示され続けることで、僕ら観客は情報を与えられずにじらされる。そこでイライラしては負け。また、社長が懐に忍ばせたものをめぐるクライマックスの場面は、逆に観客目線でしか見えてないだけに、その後の展開が実に爽快。
主犯がどうしてここまで回りくどい方法をとるのかとは思ったけれども、後からジワリと染みてくるのだ。
犯人探しのミステリーとしては物足りない方もあるかもしれないが、観客を騙すばかりがミステリーではない。騙し騙される映画を観たいならそれが売りの映画を観ればよい。一癖も二癖もある登場人物の人間模様、犯罪に至るまでの心理、葛藤のドラマがねっとりと絡みつく面白さがミステリーの醍醐味。この映画もその類だ。もしハリウッドリメイクされることがあったなら、犯人探しと手口はさらに面白くなるかもしれないが、動機はきっと味気ないものになるだろう。
レジス・ロワンサル監督の「タイピスト!」のクライマックスでは、各国代表が集まるタイピング大会が登場する。決勝に集結した各国選手は、かなりステレオタイプな描かれ方をしていた。また映画のオチも、ビジネスはアメリカ人、恋愛上手はフランス人という分かりやすさが楽しかった。
「9人の翻訳家」でも、9ヶ国語それぞれを担当する各国の翻訳家が集められる。しかし今回は、それぞれのお国柄を"いかにも"と感じさせることはしない。ドイツの人はお堅くなく、イタリアの人が大らかでない。小説や仕事、生活、自分自身に向き合う等身大の姿が描かれる。特にオルガ・キュリレンコ演ずるロシア語担当は、小説のヒロインに魅せられて同じようなファッションでなりきり、翻訳しながら感情移入して泣くような"ヤバい読者"。エドゥアルド・ノリエガが演じたスペイン語担当は吃音にコンプレックスを感じているし、デンマーク語担当の女性は家族に対する複雑な気持ちに悩んでいる。お国柄でなく人柄のバラエティになっている。お国柄が出たのは、優秀な日本のコピー機かww。彼らが警備員に気づかれないように多言語で指示を出し合う場面、やたらカッコいい。
閑話休題。視覚で把握できる範囲は限りがある。ましてや映画を観ている観客にとっては、スクリーンに映されている四角に切り取られた風景がすべてで、その外側に何があるのか知ることはできない。ズームインとズームアウト。カメラレンズを回す操作によって、僕ら観客には情報量がガラッと変わってしまう。画面の外側にある事実、外側にいる誰か。暗闇の中ナイフを手に進む男性がぶつかる何か。焦りと怒りで顔をゆがめる出版社社長の表情だけが示され続けることで、僕ら観客は情報を与えられずにじらされる。そこでイライラしては負け。また、社長が懐に忍ばせたものをめぐるクライマックスの場面は、逆に観客目線でしか見えてないだけに、その後の展開が実に爽快。
主犯がどうしてここまで回りくどい方法をとるのかとは思ったけれども、後からジワリと染みてくるのだ。