Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

ばるぼら

2020-12-01 | 映画(は行)



◾️「ばるぼら/Barbara」(2019年・イギリス=ドイツ=日本)

監督=手塚眞
主演=稲垣吾郎 二階堂ふみ 渋川清彦

売れっ子作家の美倉洋介は、世間にちやほやされながらも満足できない日々を過ごしていた。彼はホームレス同然の生活をしている飲んだくれの女ばるぼらと出会う。最初は自作の小説を笑い飛ばされて腹を立てた美倉。しかし、彼の異常な性欲が高まって道を外れそうになると、どこからともなくばるぼらが現れて彼を引き戻してくれた。ばるぼらと過ごすことで刺激を受けた美倉は仕事も順調になるが、次第に世間との関わりが希薄になっていく。

手塚治虫のアダルトコミックを、息子手塚眞が映画化。本作は特にポストプロダクション(撮影後に行われる編集、音楽などの作業のこと)にじっくりと時間がかけられて完成されたと聞く。主演二人の熱演を美しく撮ったクリストファー・ドイルのカメラも、ジャジーな橋本一子の音楽も、凝った編集も他の映画では見られない独自の魅力がある。

されど、ビジュアルの美しさに傾いたせいなのか、美倉が変わっていく様子がどうも説得力不足に感じられる。ばるぼらと出会って美倉の作品や仕事がどう変化したのかがどうも伝わらない。それだけに、ばるぼらのことを「ミューズ」とまで言うにもかかわらず、彼の芸術をどれだけ高めた存在なのかは見えてこない。単に部屋を荒らしたアル中娘にしか見えないのが残念。また、二人が出会って交わす言葉のやりとり。道の隅に転がってた汚い女が文学的な言葉を口にしたことが、美倉に響いたはず。だのにその言葉がスクリーンのこっちにはどうも響かない。かといって字幕出すわけにいかないだろうけど。

思うに、ばるぼらは美倉にとって守護天使みたいな存在だったのではなかろうか。異常な性衝動に駆られると現れて彼を連れ戻し、仕事への啓示を与えてくれる。映画のラストで、タブーを犯す美倉がハッと我に帰って涙するのも、もしかしたら彼女の導きかもしれない。

この映画の英題表記が「Barbara」なのは、キリスト教の守護聖人の一人、聖バルバラにちなんでいるのではなかろうか。聖バルバラは、実在が証明できないからキリスト教会は聖人から外しているけれど、民間で崇拝されている存在だと聞く。それって素性もわからないし、存在した証もないけれど、美倉にとって確かにそこにいたばるぼらに重なるようにも思える。




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