Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書

2023-04-13 | 映画(は行)

◾️「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書/The Post」(2017年・アメリカ)

監督=スティーブン・スピルバーグ

主演=メリル・ストリープ トム・ハンクス アリソン・ブリー サラ・ポールソン

ベトナム戦争への反戦世論が高まる1971年のアメリカ。「勝ち目がない」と戦況を分析する調査がありながら、始めた以上負けを認められない政府が、泥沼化した戦争を続けた。そして若者の命が失われていたのだ。本作はその調査をしたマクナマラ文書について報道しようとするワシントンポスト紙を描いた映画である。

フェイクニュースというレッテルが日々流れる報道に向けられ、政治とマスコミの関係があれこれ言われる今のアメリカだからこそ、スピルバーグ監督はこれを撮るべき脚本として選んだ。しかもSFX大作「レディ・プレイヤー1」と並行して準備を進めたという熱の入れようだから、編集者のトム・ハンクスが合衆国憲法修正第1条「報道の自由」を掲げてさぞ声高に訴える映画になっているのだろう、と想像していた。しかし、意外にも重要な役割を果たすのは、親や夫の跡を継いでワシントンポストの社主となったメリル・ストリープの方だった。会社として屈しないことだけでなく、女性がビジネスの世界で全うに扱われなかった時代の戦いのドラマとしても、この映画には力強いメッセージが込められている。

ニューヨークタイムス紙が差し止めを喰らって報道できない中で、ポスト紙がマクナマラ文書を報道すべきかの葛藤が描かれる。だが、報道するかしないかという一面的な危機を描くだけでは並の映画だ。この映画では、法廷侮辱罪、会社の存続、世論、さらに社主キャサリンが親交のあったマクナマラに批判的な記事を報道できるのかという人間ドラマも織り込んでまったく飽きさせることはない。さすがだ。

ひとつひとつの台詞も心に響く。「報道の自由を守るには報道すること」「報道機関が仕えるべきは統治者ではなく、国民だ」最終的に新聞各紙がマクナマラ文書を報道して足並みが揃った場面は感動的だ。

まともな答弁もしない政治家が、「××新聞に書いているから読め。」と言い放つような今の日本で、こんなことができるのだろうか。折しも2019年の日本では、勤労統計調査の不正が明らかとなり大きな問題となっている。前年の外国人労働者受け入れ拡大においても必要性の根拠となる調査に疑問が示されたし、さらに実質賃金の動向をめぐる統計についても、都合よく調査対象を変えられているとか、何を信じたらいいのか。どうなっとんじゃいと思う日々。何にしても、不確かな根拠であろうと、この映画のように確かな根拠を隠されていようと、政府が決めた方針に振り回されるのは国民。そう考えたら、笑って観ていられない映画でもある。



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安城家の舞踏会

2023-04-13 | 映画(あ行)

◼️「安城家の舞踏会」(1947年・日本)

監督=吉村公三郎
主演=滝沢修 森雅之 原節子 逢初夢子

華族制度が廃止されることで身分を失う一家の姿を描いた名作、と噂には聞いていたけど観るのは初めて。圧倒されました。没落貴族の映画なんて、ルキノ・ビスコンティの専売特許だと思っていたけど、日本映画にこんなすごいのがあったなんて。傑作。

地位も財産も失う日が迫る中、原節子演ずる次女は屋敷の売却先で奔走する。時代は確かに変わったけれど、爵位のプライドや過去を捨てきれない父と長女。「殿様」と慕われてきたが、その地位を維持することなどもはやどうにもならない。それでも過去にしてやった恩義を口にして債権者に頭を下げて猶予を訴える父。運送業で成功した元運転手は、次女に屋敷の購入を頼まれる一方で、出戻りの長女に愛情を抱いていた。しかし長女は貴族のプライドを捨てられない。手を振りほどいて「汚い」と言い放つ。時代の節目で、表舞台から姿を消す者たちと、経済力をつけていく者たち。

この映画が公開されたのは1947年。まさに華族制度が廃止された年だ。そんな時期に製作されたことが驚きだし、それが興味本位でなく、去りゆく者の揺れる心に触れるような繊細に描かれた物語。

庶民でない原節子も素晴らしい。森雅之って、今まで観たどの映画でも女性に好感度低そうな男を演じてる。それでも、許嫁だった女性にビンタ喰らった後で、高笑いしてピアノに向かう姿がなんか憎めない。

しとやかな獣」とこれを観て新藤兼人の脚本の良さを改めて感じた。時代の空気を感じ取れたり、短いけれど端的に刺さる台詞たち。




コメント (2)
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