◾️「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書/The Post」(2017年・アメリカ)
監督=スティーブン・スピルバーグ
主演=メリル・ストリープ トム・ハンクス アリソン・ブリー サラ・ポールソン
ベトナム戦争への反戦世論が高まる1971年のアメリカ。「勝ち目がない」と戦況を分析する調査がありながら、始めた以上負けを認められない政府が、泥沼化した戦争を続けた。そして若者の命が失われていたのだ。本作はその調査をしたマクナマラ文書について報道しようとするワシントンポスト紙を描いた映画である。
フェイクニュースというレッテルが日々流れる報道に向けられ、政治とマスコミの関係があれこれ言われる今のアメリカだからこそ、スピルバーグ監督はこれを撮るべき脚本として選んだ。しかもSFX大作「レディ・プレイヤー1」と並行して準備を進めたという熱の入れようだから、編集者のトム・ハンクスが合衆国憲法修正第1条「報道の自由」を掲げてさぞ声高に訴える映画になっているのだろう、と想像していた。しかし、意外にも重要な役割を果たすのは、親や夫の跡を継いでワシントンポストの社主となったメリル・ストリープの方だった。会社として屈しないことだけでなく、女性がビジネスの世界で全うに扱われなかった時代の戦いのドラマとしても、この映画には力強いメッセージが込められている。
ニューヨークタイムス紙が差し止めを喰らって報道できない中で、ポスト紙がマクナマラ文書を報道すべきかの葛藤が描かれる。だが、報道するかしないかという一面的な危機を描くだけでは並の映画だ。この映画では、法廷侮辱罪、会社の存続、世論、さらに社主キャサリンが親交のあったマクナマラに批判的な記事を報道できるのかという人間ドラマも織り込んでまったく飽きさせることはない。さすがだ。
ひとつひとつの台詞も心に響く。「報道の自由を守るには報道すること」「報道機関が仕えるべきは統治者ではなく、国民だ」最終的に新聞各紙がマクナマラ文書を報道して足並みが揃った場面は感動的だ。
まともな答弁もしない政治家が、「××新聞に書いているから読め。」と言い放つような今の日本で、こんなことができるのだろうか。折しも2019年の日本では、勤労統計調査の不正が明らかとなり大きな問題となっている。前年の外国人労働者受け入れ拡大においても必要性の根拠となる調査に疑問が示されたし、さらに実質賃金の動向をめぐる統計についても、都合よく調査対象を変えられているとか、何を信じたらいいのか。どうなっとんじゃいと思う日々。何にしても、不確かな根拠であろうと、この映画のように確かな根拠を隠されていようと、政府が決めた方針に振り回されるのは国民。そう考えたら、笑って観ていられない映画でもある。