◼️「彼女とTGV/La femme et le TGV」(2016年・スイス)
監督=ティモ・ヴォン・グンテン
主演=ジェーン・バーキン ルシアン・ギニャール ジル・チューディ
ジェーン・バーキンの訃報を昨夜目にした。今年は本当に辛い訃報ばかりだ。子供の頃から憧れて、いろんな影響を受けてきた大人たちが次々旅立たれていく。ジェーン・バーキンもその一人。銀幕での美しいお姿も、セルジュと創り出した音楽も、心に残るものばかりだ。飾らないのにスタイリッシュで、心に素直な発言と行動がカッコよくて。
セルジュの言葉遊びが美しい名曲。
「スローガン」「ガラスの墓標」も「太陽が知っている」も好き。だけど、個人的に印象深かったのが幼い娘の友人男子に恋をする「カンフー・マスター!」。年齢を重ねてもときめきを忘れないヒロイン像を素敵だなと思った。
ショートフィルム「彼女とTGV」は、スイスの田舎にポツンと建つ家の窓から、毎日特急列車に手を振る女性の物語。ある日、列車の運転手からお礼の手紙が届く。そこから手紙を通じて始まったやりとりは、彼女を生き生きとさせる。クロワッサンとトリュフが評判だった彼女のパン屋は安売り店に客を奪われている。彼女の誕生日に久々に息子がやって来るが、投げかけられたのは高齢者施設への入所を促す言葉。その日を境に毎日手を振っていた列車が通らなくなる。
実話に基づくお話とのこと。わずか30分の映像の中に喜怒哀楽と人情、老いと社会の変化、美しい風景と人間模様が詰め込まれている。トリュフチョコが詰められた小箱のように、小さいけれどスイートな幸せとビターな切なさが並んでいる。一瞬しか映らない街の人々までもが愛しくて感じられる。花に水をやる男性も、毎朝枕を叩く女性も、郵便配達人も。店の前に迷惑駐車するシトロエンの主が、罪滅ぼしにトリュフを買い求めにやって来る。そのトリュフをバレエを練習する女性に渡す様子がカーテンに影絵のように映す演出が粋でオシャレ。
クライマックスのチューリッヒ駅。ほっこりするラストシーン。ラッセ・ハルストレム監督の「ショコラ」はファンタジーだったけど、現実世界にも同じような人情物語がある。幸せな気持ちをくれる30分。ジェーン、晩年にこんな素敵な婆さんを演じてくれてありがとう。
セルジュ・ゲンスブールの名曲「手切れ」を、ジェーンはセルジュ追悼コンサートで歌った。手切れなんて冷たい邦題だが、直訳は「私はさよならを言うためにここに来た」。僕は昨夜この曲を久しぶりに聴いた。自分の葬式で流したいと密かに思っている曲でもある。
R.I.P.