Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

恋するシャンソン

2023-08-04 | 映画(か行)

■「恋するシャンソン/On Connait La Chanson」(1997年・フランス=スイス=イギリス)

監督=アラン・レネ
主演=アンドレ・デュソリエ アニエス・ジャウィ サビーヌ・アゼマ ランベール・ウィルソン ジャン・ピエール・バクリ

●1998年ベルリン国際映画祭 銀熊賞(生涯貢献賞)
●1997年セザール賞 作品賞・主演男優賞・助演男優賞・助演女優賞・脚本賞・音響賞・編集賞

かつて「シェルブールの雨傘」や「ロシュフォールの恋人たち」でジャック・ドミ監督は台詞のすべてを歌にした。それはとてもミュージカルとはひと味違った素敵な試みだった。それとは違うが、普段生活する中でふと歌の文句が頭を過ぎることってないだろうか。人からなにか相談をもちかけられたけど断りたい・・・と思ったとき、中森明菜の「禁区」(♪それはちょっとできない相談ね)心の中で流れたり、吉野屋に立ち寄ると頭の中で中島みゆきの「狼になりたい」が流れてちょっと気だるい気分になったり(僕はおかしいのだろか?w)。

「恋するシャンソン」はシャンソンやフレンチポップスが散りばめられた映画。だが場面を盛り上げるために既成曲が流れるような使い方ではない。それは台詞の一部になっているのだ。映画の冒頭。ヒトラーからパリを焼き払う命令を受けたドイツ人将校が突然綺麗な声で歌い出す。美しいパリの街を焼き払うことなんかできない。そう思った将校は、ジョセフィン・ベーカーの「二つの愛」を高らかに歌い始めるのだ。
♪私は愛するものがふたつあるの/それは故郷とそしてパリ
この映画が面白いのは、演じる役者が自分の声で歌うのではなく、オリジナルの歌の断片が台詞として挿入されること。いかつい男優が突然女性の声で歌ったり、もちろんその逆も。曲はあくまで断片として流れるので、唐突さとアンバランスな感じが面白い。医者にかかる登場人物の一人が症状を述べる代わりに流れるのは「体の弱い僕」。
♪脾臓はぱんぱん/心臓はどきどき
・・・と症状を延々早口で歌い続けるコミックソング。相手を勇気づけようと拳を握って歌うのはフランス・ギャルの「レジスト」。不動産業を営むプレイボーイはジャック・デュトロンの「僕は女の子たちが好き」。意見を聞かずに暴走する妻に別れを切り出そうとする夫が口ずさむのはセルジュ・ゲンスブールの「手切れ」。オリジナルを知らずとも選曲がいい、と思えるのだがサントラでそれぞれの曲をフルサイズで聴くと選んだ理由がよくわかる。シャンソンでは男女の掛け合いがみられるものもある。ダリダとアラン・ドロンの「甘い囁き」(サントラ未収録が残念)、アルレッティとアキスタバスの「そして残りは」も効果的に使われている。

実は映画の存在を知ってサントラを先に購入していた。だけどなかなか観る機会がなくってやっと観ることができたんでした。フランス映画らしい恋の群像劇。でもそれをあの静寂の映画「去年マリエンバートで」を撮ったアラン・レネが撮ることが観る前から不思議で仕方がなかった。僕は「マリエンバート」と「恋するシャンソン」に共通するレネ監督らしさを見いだせる程レネ作品を観ていないが、敢えて言うならば遠景でストーリーを描いているところかな。皿の積み重なった不思議なオブジェがある広場を見下ろす借家のバルコニー。上から見る風景とそこで小さく動く人。群像劇の面白さは、観客である僕らが多くの登場人物とそれぞれの交錯する思いを遠くから見守っているようなもの。それはマリエンバートで城の中庭で位置を変え続ける男女を見つめ続ける遠景とどこか似ているのではなかろうか。ともかく音楽と恋模様を楽しむのがこの映画は吉。さぁサントラ聴こう。



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