◾️「PERFECT DAYS/Perfect Days」(2023年・日本)
監督=ヴィム・ヴェンダース
主演=役所広司 柄本時生 中野有紗 アオイヤマダ
2024年の映画館初詣。今年もいい映画に出会えますように…と思ったら、新年早々素敵なのに出会えた。
公衆トイレ清掃の仕事をしている主人公平山の日々を追った、ヴィム・ヴェンダース監督の日本映画。繰り返される日々のルーティンを追った映画。近所のおばさんのホウキの音で目覚め、ドアを開けて空を見上げ、缶コーヒーを飲む。一日の節目にはモノクロでイメージショットのような映像がインサートされる。
映画前半では、この淡々としたムードのまま続くのだろうかとやや不安になった。映画館だから集中できるけれど、配信で観たら気分次第じゃ途中で放棄していたかもしれない。でもその繰り返しは決して退屈な訳じゃない。むしろ心地よい。「おかえり」と迎えてくれる飲食店のおじさん。文庫本を買うと作家のうんちくを述べる古書店のおばさん。ところが映画後半は、突然家出した姪が現れたり、行きつけの小料理屋のママさん関係でちょっと心が揺らいだり。それでも日々は続いていく。変わらないけれど、決して同じではない。
これは映像で語る詩だ。同じ韻律が繰り返される中で、ちょっとしたバリエーションが織り込まれる。それは小さな出来事だったり、心を揺るがすような驚きだったり。
平山はカセットで音楽を聴き、セレクトも趣味がいい。Pale Blue Eyesを映画を通じて聴くなんて、韓国映画の「接続」以来だ。タイトルにも使われたLou ReedのPerfect day。Duran Duranのカバーも好きだったなぁ。ロック好きとしても知られるヴェンダースのセレクトなのだろうか。
エンドクレジットの前に流れた曲は、Nina SimoneのFeeling Good。それまで本編では60〜70年代のロック中心だったのに、ちょっとジャズボーカル寄り。
何故だか、今日は歌詞が自然と耳に入ってきた。
It's a new dawn. It's a new day.
It's a new life for me. I'm feelin' good.
毎日同じように過ぎるけれども一日として同じ日はない。そのことを観客に伝える為に、ヴィム・ヴェンダースはニーナの歌にそれを託した。
新しい夜明け。新しい日。
私にとっての新しい生活。最高の気分。
役所広司が一人で暮らす様子を見ると「すばらしき世界」の名演と重ねてしまうが、本作で演ずる平山は口数も少なく、感情を表に出さず、穏やかで「素晴らしき世界」とは正反対だ。淡々としている役柄なのに、どこかユーモラスで、優しくて。でも映画は、この主人公が今こんな暮らしをしている事情や背景を詳しくは語らない。おそらく長らく会っていなかった妹との再会。年老いた父親の話が出るが、それ以上二人の会話は続かない。涙を流す平山。その意味は決して示されない。
でもリアルって、説明くさいものじゃなくて、こういうものじゃないのか。行間でほんのりと感情を示すみたいに。三浦友和と会話する場面が好き。平山のちょっとしたセリフに、不器用な優しさがにじみ出る。やっぱりこの映画は詩なんだ。
姪から"友達の樹"と名付けられた神社の樹から差してくる木漏れ日を、フィルムカメラで撮り続ける。出来上がった写真からいいものを残してコレクション。その"木漏れ日"は一期一会の美しい風景だ、とヴェンダースはエンドクレジットの後で付け加えた。途中で席を立った人たちは、このヴェンダースの"あとがき"を見損ねている。味わい深いだけにもったいない。
公衆トイレ清掃の仕事をしている主人公平山の日々を追った、ヴィム・ヴェンダース監督の日本映画。繰り返される日々のルーティンを追った映画。近所のおばさんのホウキの音で目覚め、ドアを開けて空を見上げ、缶コーヒーを飲む。一日の節目にはモノクロでイメージショットのような映像がインサートされる。
映画前半では、この淡々としたムードのまま続くのだろうかとやや不安になった。映画館だから集中できるけれど、配信で観たら気分次第じゃ途中で放棄していたかもしれない。でもその繰り返しは決して退屈な訳じゃない。むしろ心地よい。「おかえり」と迎えてくれる飲食店のおじさん。文庫本を買うと作家のうんちくを述べる古書店のおばさん。ところが映画後半は、突然家出した姪が現れたり、行きつけの小料理屋のママさん関係でちょっと心が揺らいだり。それでも日々は続いていく。変わらないけれど、決して同じではない。
これは映像で語る詩だ。同じ韻律が繰り返される中で、ちょっとしたバリエーションが織り込まれる。それは小さな出来事だったり、心を揺るがすような驚きだったり。
平山はカセットで音楽を聴き、セレクトも趣味がいい。Pale Blue Eyesを映画を通じて聴くなんて、韓国映画の「接続」以来だ。タイトルにも使われたLou ReedのPerfect day。Duran Duranのカバーも好きだったなぁ。ロック好きとしても知られるヴェンダースのセレクトなのだろうか。
エンドクレジットの前に流れた曲は、Nina SimoneのFeeling Good。それまで本編では60〜70年代のロック中心だったのに、ちょっとジャズボーカル寄り。
何故だか、今日は歌詞が自然と耳に入ってきた。
It's a new dawn. It's a new day.
It's a new life for me. I'm feelin' good.
毎日同じように過ぎるけれども一日として同じ日はない。そのことを観客に伝える為に、ヴィム・ヴェンダースはニーナの歌にそれを託した。
新しい夜明け。新しい日。
私にとっての新しい生活。最高の気分。
役所広司が一人で暮らす様子を見ると「すばらしき世界」の名演と重ねてしまうが、本作で演ずる平山は口数も少なく、感情を表に出さず、穏やかで「素晴らしき世界」とは正反対だ。淡々としている役柄なのに、どこかユーモラスで、優しくて。でも映画は、この主人公が今こんな暮らしをしている事情や背景を詳しくは語らない。おそらく長らく会っていなかった妹との再会。年老いた父親の話が出るが、それ以上二人の会話は続かない。涙を流す平山。その意味は決して示されない。
でもリアルって、説明くさいものじゃなくて、こういうものじゃないのか。行間でほんのりと感情を示すみたいに。三浦友和と会話する場面が好き。平山のちょっとしたセリフに、不器用な優しさがにじみ出る。やっぱりこの映画は詩なんだ。
姪から"友達の樹"と名付けられた神社の樹から差してくる木漏れ日を、フィルムカメラで撮り続ける。出来上がった写真からいいものを残してコレクション。その"木漏れ日"は一期一会の美しい風景だ、とヴェンダースはエンドクレジットの後で付け加えた。途中で席を立った人たちは、このヴェンダースの"あとがき"を見損ねている。味わい深いだけにもったいない。