◼️「そして誰もいなくなった/And Then There Were None」(1945年・アメリカ)
監督=ルネ・クレール
主演=バリー・フィッツジェラルド ウォルター・ヒューストン ルイス・ヘイワード
アガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」1945年の映画化。第二次大戦中、フランスの名匠ルネ・クレール監督がハリウッドに渡って撮った作品。当時のフランスは親独ヴィシー政権の時代。「パリの屋根の下」「自由を我等に」などフランス映画の名作を撮ってきたクレール監督は国籍剥奪されてしまう。これも歴史。
孤島に集められた10人の男女が、過去の悪行を明かされ一人ずつ殺害されていくお馴染みのストーリー。最近観た2015年製作のBBCドラマ版は悲壮感と緊迫感で息が詰まりそうだった。それと比べると全体的にライト
タッチで、ところどころユーモアある描写を挟む余裕すらある。この作風は明るい作品が多いクレール監督らしさなのだろう。
それでも死体が次々に見つかり、追い詰められ、互いを信じられなくなる様子は説得力があり無理がない。昔の映画だし、明るさが持ち前の監督だから、死体を仰々しく見せることはなく、舞台劇ぽさもある。猫が戯れていた毛糸玉の糸を辿ると遺体の手が見えたり、死体の足先だけ見えているのになかなか気づかなかったり。斧で死んだ遺体は見せない。この物語を90分以内で収めているのは見事だが、人間模様を深く掘り下げたものが好みなら前述のBBCドラマ版がオススメ。
「我が道を往く」の老神父役が忘れがたいバリー・フィッツジェラルド、「レベッカ」の怖いダンヴァース夫人が有名なジュディス・アンダーソンなど名脇役のいい仕事。この連続殺人が続く陰惨な物語を、あっけらかんと締めくくるラストシーンには唖然とするが、これも監督の持ち味だ。