映画と本の『たんぽぽ館』

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「暁の密使」 北森 鴻

2008年10月17日 | 本(ミステリ)
暁の密使 (小学館文庫 (き5-1))
北森 鴻
小学館

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目指すは天竺ならぬ、チベットのラサ

          * * * * * * * *

えー、私にしては硬派の本になりました。
「香菜里屋シリーズ」は私のお気に入りなので、また、北森鴻にチャレンジというわけで・・・。
それとまた、チベットが絡むストーリーにはここのところ縁があって、興味があります。

さて、この本は実話に基づいていまして、
明治30年代、日本の仏教僧能海寛(のうみゆたか)が仏教再興のため、
チベットのラサをめざすというストーリー。
今でもチベットは大変遠いですが、
当時としては、想像を絶する困難があったようです。

そもそも、チベットは鎖国をしていて、外国人を受け入れない。
そこをどのようなつてで、入国しようとするのか。
また、途中盗賊やら山賊やらが跋扈し、非常に危険。
険しい山中を抜けなければならないし、
ひとたび天候が崩れれば、今のような携行に便利な装備や食料があるわけもなく、
たちまち、凍傷や生命の危機となる。
おまけに、このストーリーでは、
チベットはアジアの地勢の要として、欧米列強の覇権競争が繰り広げられている。
政治的陰謀の数々がまた、能海の行く手を阻む。
実は、彼自身は知らずして、日本政府の密使の役割を背負わされていた・・・
というのが、これが単なるノンフィクションでなく、
ミステリ作家、北森鴻の「らしい」ところなのです。

能海自身は、非常に鷹揚で、気持ちには微塵の曇りもなく、
ただひたすら、仏教の道を究めるべくチベットを目指している。
「何とかならんものかな・・・」
というのが彼の口癖で、
数々の困難の前でつい、そうつぶやいてしまうのだけれど、
彼の人柄の良さに引かれて、つい助けてあげたくなってしまう人が寄ってくるというのも、また面白い。
これってつまり、西遊記の物語がちょっと意識されているんですね。
終盤では能海のお供として、
揚用(ヤンヨン)、洪水明(ホンシュエイミン)、明蘭(ミンラン)ら、
頼りになる仲間との旅になります。
彼らのカッコ良く痛快なアクションシーンなども交えつつ、チベットに迫っていくのですが、
果たして能海は憧れの地、チベットのラサへたどり着けるのか・・・?!

壮大な物語に、読後はちょっとボーっとさせられます。
つわものどもが夢のあと・・・といった感慨ですね。

時が過ぎ、チベットの地では相変わらず冷たい風が吹きすさび、
あたりの雪を舞い上げているのでありましょう・・・。

満足度★★★★☆