映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

コレラの時代の愛

2008年10月30日 | 映画(か行)

偉大なる愛か、はたまたストーカーか?

                 * * * * * * * *

この作品は、よその地域ではもうとっくに終わっているみたいですね。
札幌の上映がすごく遅れていたようです。
それで、個人的には先日見た「宮廷画家ゴヤは見た」とハビエル・ヴァルデムのレンチャンになってしまいました。

そもそも、この予告編を見たときに、
「51年9ヶ月と4日、夫のいる女性を思い続け、見守り続ける男性の物語」、
ということで、う~ん、それってストーカーなんじゃないの???と思いました。
それで、ストーカーではなく「愛」であることを見届けようというのが、
ひそかなこの映画に関する私の課題だったのです。

まず舞台が、内戦とコレラの蔓延に揺れている1900年前後のコロンビアということで、
ほとんど今までそういう舞台の作品なんて見たことなかったですね。
その中南米の情熱的な人々、南国特有の美しい風景、
そんなことにも目を惹かれました。

はじめの出会いは1879年年です。
若き電報配達人のフロレンティーノが配達先の令嬢フェルミーナに一目惚れ。
せっせと彼女にラブレターを送るうちに、
彼女の方もその情熱にほだされて結婚の約束をするのですが、
彼女の父親が激怒。
そんな貧乏人に娘はやれない、ということですね。
父親は二人を引き離すため、娘を別の地に移す。

数年が過ぎ、フェルミーナがまた戻ってくる。
ただひたすら彼女の帰りを待ちわびていたフロレンティーノ(ここからハビエル・バルデム)が、夢に見た再会。
しか~し、何ということか。
彼女の情熱はすっかり冷めていて、もう、あなたとは会わない、と、きっぱり。
そして別の男性、医師のフニベルと結婚してしまうのです。

ここの彼女の心変わりをどう見ればよいのでしょう。
二人の間はまだ清いままでした。
彼女は単に恋に恋をしていた乙女だったのでしょう。
心の中でその思いを大切にしてきたけれど、
いざ本人を目の前にして、
理想と現実のギャップに初めて気がついたのかも知れません。

さて、それから51年9ヶ月と4日。
彼は彼女の夫が死に、彼女がまた一人身となるのをじっと待ち続ける。
徐々に二人が年月を重ね年をとっていくさまが、
さすがに今のメイク技術で、不自然なく描かれています。

ところが、フロレンティーノは心はフェルミーナに奉げるといいながら、
女性遍歴はなはだしく、関係した女性が622人。
それを彼はいちいち記録として書き溜めるという律儀さ。
ほとんどカサノバですね。
まあ、それで満たされない気持ちを埋めていた・・・というのですけどね。
でも、なぜか憎めない。
というのも、彼のほうより、むしろ周りの女性が擦り寄ってくるという感じなのです。
それは、彼自身の本心は別にあり、特定の女性を縛ろうとする意思がない。
言葉は詩のように巧みだし、とにかく優しい。
また、貧しい電報配達人だった彼も、叔父の商船会社に勤め、
最後には社長の座を次ぐということで、裕福になっている。
正直、ハビエル・バルデムは、二枚目とはいいがたいですが、
なにやら漂う色香・・・。
うーむ、やはり只者ではない。
そんなわけで、女性の方が、彼をほおって置かないというのも、
なんだか納得できちゃうんですよね・・・。
ただひたすらひっそりと、彼はフェルミーナを思い続けるわけです。
表立った接近はしない。
これはやっぱり、ストーカーとは違いますね。
でも、彼女の方も、それには気がついていて、
「あの人は影のような人・・・」と評します。
確かに、その密やかさはまるで彼女の影のようでもあります。

また、フェルミーナ自身の結婚生活はそう幸福というわけでもない。
まあ、普通なんじゃないでしょうか。
たいていの結婚はいつまでも情熱的ではいられないものですし、
夫の浮気も珍しくはないでしょう。
子どもも生まれ、裕福に暮らし、それは十分幸せと呼べるものだったと思うのです。
でも、彼女の中になぜか充実感がない。
それはフロレンティーノの存在が、
彼女のもう一つ別にあったかも知れない人生を
いつも思い起こさせるからなのではないかな。

50年以上に渡るフロレンティーノの愛は果たして報われるのでしょうか・・・。

この写真のように、老いて穏やかな二人の光景はとてもほほえましいのです。
なんだか、年をとるのも悪くないなあ・・・という気がする。

失恋し、母にすがり付いて泣くフロレンティーノ。
突然女性に強姦(?)され、放心するフロレンティーノ。
商用の文書を、韻を踏んで情熱的に書き上げるフロレンティーノ。
愛を受け入れてもらえず、失意の中にあるはずなのですが、
この映画全体ににそのような絶望感はなく、
なにやらほんのりしたおかしみが漂います。

まっすぐなラブストーリーも悪くないですが、
このような屈折した愛も、味わい深くてまたよし。

2007年/アメリカ/137分
監督:マイク・ニューウェル
出演:ハビエル・バルデム、ジョヴァンナ・メッツォジョルノ、ベンジャミン・ブラッド、カタリーナ・サンディノ・モレノ