映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

12人の怒れる男

2008年10月06日 | 映画(さ行)

ヘンリー・フォンダ主演で名高い1957年アメリカ作品「12人の怒れる男」のロシア版リメイク。
設定はほとんど同じです。
殺人容疑を受けた少年が有罪か無罪かを、12人の陪審員たちが審議する。
その、元祖版は、それこそ遠い昔に、テレビの洋画劇場で見ただけですが、
まあ、うっすらと記憶はあります。
けれど、これはその結末を知っていたとしても、
決して退屈せず、じっくり見てしまう、ずっしりした手ごたえの作品。

舞台はロシア。
チェチェンの少年が、元ロシア軍将校の養父を殺害したという容疑で、
検察からは最高刑(終身刑)を求刑されている。
市民の中から選ばれた12人の陪審員。
全員男性ですが、職業はバラバラ。
(なぜ、全員男性なのかと、ふと思う・・・???)
題名が「怒れる男」だから・・・、なんていったらそれこそ怒っちゃう。
皆は、これは有罪に決まっているし、あっという間に話は決まって、お終い、そう思っていた。
陪審員室が改装中のため、建物が続いている学校の体育館に案内され、
そこで審議をするようにといわれる。
なんだか、この辺までは皆ほとんどお祭り気分。
学校の体育館に、ちょっと懐かしい気分になり、
ボールを蹴ってみたり、ピアノを弾いてみたり。
私はここのシーンがなんだか好きです。ただの会議室よりも、ずっといい。
初めての体験に少し無邪気にはしゃいでいる、そんな雰囲気です。
しかし、彼らはその後、いやというほど長く、そこに缶詰状態になってしまうのですが・・・。

まずはたった一人の人物が、
「少年の一生がかかっている問題を、そんなに簡単に有罪と決めてしまって良いのか・・・」と、異を唱えます。
有罪:無罪が11:1。
さっさと終わらせたいのに、なんで余計なことを言うんだ・・・と、他の皆からにらまれる。
しかし、この状況から、時には口論となり、時には実験も交えながら論議が進んでゆくのです。
この12人はそれぞれの名前も明かさないのですが、それぞれの抱える問題やつらい過去を明かしつつ、真相らしきものが浮かび上がってくる。
それは次第に、現在のロシアが抱える問題をも浮かび上がらせて行くわけです。
ここに、あえてロシアでリメイクしたことの意義があります。

途中で、電気が切れてしまい、やむなくろうそくの光の中論議が続きますが、
徐々に秘密が解き明かされていく、その雰囲気に効果満点。
最後には誰もが少年の無罪を確信するにいたる
・・・と、ここまで書いても有名作品のリメイクということでネタバレにはなりますまい。
ただ、この作品ではさらなる問題があって、
少年の冤罪を晴らすだけでは少年を救うことにならないのです。
いわば未完のハッピーエンド。
そういうところにまた、魅力のあるストーリーとなっています。

ここでは、この囚われた少年のイメージになぞらえ、
体育館の中に小鳥が一羽迷い込んでくるのです。
彼ら12人の論議の輪の中を飛び回る。
最後にこの鳥はこの体育館から吹雪の下界へ飛び立ちます。
そう、そこがたとえ生きていくのに厳しい世界であっても、自由は尊重されるべき。
いいラストシーンですねえ・・・。

終わってみればすごく長い作品でした。
舞台はずっと体育館の中。
途中、戦闘に巻き込まれた少年の過去のシーンや、
留置所の少年のシーンが挿入されてはいますが。
陪審員が味わった長ーい時間に付き合わされている感じですね。
しかし、それは大変密度の高い、充実した時間、というわけです。

当然、日本でもまもなく始まるという裁判員制度にも思いがいたるわけですが、
まあ、今日はここでそれを述べるのはやめておきましょう。

2007年/ロシア/160分
監督:ニキータ・ミハルコフ
出演:セルゲイ・マコヴェツキー、ニキータ・ミハルコフ、セルゲイ・ガルマッシュ、ヴァレンティン・ガフト

「12人の怒れる男」公式サイト