映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

トウキョウソナタ

2008年10月11日 | 映画(た行)

ホームドラマ。
そういうと、食卓を囲んだ家族がご飯をほおばりながら話が弾んで、
励ましたり、けなしたり、笑ったり、
まあ、そのような光景が思い浮かびます。

しかし、この作品では家族四人食卓を囲んでも無言。
家族として一つ家に住んではいるものの、それぞれが自分の殻の中にいて孤独。
けれど、現代、実はそれは特殊なことではないのだろうと思います。
すごくリアル。
実のところ、現実に近すぎて、見るのがつらくなってしまうほどです。

リストラされたことを家族に言うことができず、毎朝スーツを着てきちんと家を出る父。
大学には入ったものの、目的を見失い、米軍に入隊しようとする長男。
父親に反対され、やむなく給食費を使い込んでピアノを習う次男。
こんな中で、小泉今日子演じる母が、なんだか不思議な雰囲気を漂わせていました。

彼女は一人ひとりをきちんと見ています。
ただ、その見返りを求めることをすでにあきらめている、というような感じでしょうか。もうすでに崩壊しつつある家庭を、
必死に立て直そうとするでもなく、見放すわけでもない。
ただぼんやりと距離を置いて眺めながら、
なお、自分のポジションを探しているように思える。
この亡羊とした雰囲気が、つまり、この映画全体の雰囲気のような気がします。


この映画のラストには、苦笑させられます。
それぞれが煮詰まって、大変な一夜を明かすのです。
一人は留置所。
一人は車にはねられて路上。
もう一人は強盗と逃避行の末、海岸に。
(長男はアメリカなので、とりあえず出てこない。)

そしてあくる朝、皆とぼとぼと、やはり家に帰ってくるのですね。
どうしたって、そこしか行き場がない。
平日の午前、一人ずつ帰宅。
みな、一夜を外で明かしたことは一目瞭然なのに、
それぞれ呆然としながら、やはり会話なく、皆で黙々と朝ごはんを食べ始める。
でも、ここの無言は不思議と共感を持った無言なんです。
だから家族は侮れない。
ここから、家族の再生が始まるのです。
誰かが謝るでもなく、皆で抱きしめあうでもない。
それは再生と意識できるほどではないほんのささやかな変化なのですが。
悲しみとおかしみが隣り合わせの、味わい深い作品です。

ラストで少年が奏でるやわらかなピアノのソナタが胸にしみました・・・。

2008年/日本/119分
監督:黒沢 清
出演:香川照之、小泉今日子、小柳友、井之脇海

「トウキョウソナタ」公式サイト