権力や宗教に翻弄される人間の弱さ。
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18世紀末、スペイン。
ちょうど、フランス革命やナポレオンの台頭があった時代ですね。
その歴史のうねりは、フランスだけでなく隣国スペインにも過酷な影響を及ぼしていた。
ゴヤは宮廷のお抱え画家でしたが、
またその一方、権力批判や社会風刺に富んだ作品も製作していました。
映画中エッチングの製作過程が一通り出てくるシーンがありまして、それはとても興味深かった・・・。
このゴヤが肖像画を描いた二人。
裕福な商人の娘イネスとカトリック教会神父ロレンソ。
この二人の数奇な運命を中心にストーリーが進みます。
イネスは全くいわれれのないことから教会の異端審問にかかり、
拷問の挙句15年間幽閉されてしまう。
ロレンソはその異端審問を強行した立場だったのですが、
信仰では拷問を乗り越える力を与えられないと悟り、国外逃亡。
しかし15年後は、スペインを支配するナポレオン政府の大臣となって現れる。
ところがそれもつかの間、イギリス軍がスペイン援軍として現れ、フランス軍は敗走。
今日は権力の上に立ち、人を裁く身が、
明日には一転し、裁かれる身となる。
罪もないものが捕らえられ、拷問を受け、人間の尊厳も奪われる。
人々を支配する権力や宗教、思想の残酷さ、空しさ。
そしてそれに翻弄される人間の弱さ・・・。
この有様をゴヤは、ひたすら傍観するのですね。
画家として、とにかく「見る」事が彼の役割となっているわけです。
聴覚を失っているのはそのためかと思えるほど。
この数奇な運命をたどる男ロレンソ。
ハビエル・バルデムがまたはまり役です。
彼はいろいろな意味で欲得まみれ、
しかも、心はもろい、全く”人間的”な存在であるわけですが、
最後の最後に、矜持を見せますね。
これまでの変節をよしとしてきたわけではない。
心の痛みを持っていた。
だからこそ、これ以上の変節をもう自分に許せなくなったのだろうと思います。
その心を呼び覚ましたのは、もしかするとイネスの”心”なのかも知れません。
もう、壊れてしまった”心”ではありますが、
それはピュアな部分がそのまま固まってしまったかのようです。
この狂った世を生き延びるには、この方が幸せかもしれません。
この映画のキャッチコピーに
「スキャンダラスな愛の行方」という言葉があるのですが、
果たして、そこに愛はあったのでしょうか。
どうも私には違うと思えるのですが、
でも、ラストシーンを見るとやはり愛なのか・・・とも思えます。
この微妙さ加減がまた、考え落ちということで、それもいいかも知れませんね。
いずれにしても、ため息が出るほどに先の予測がつかない、ドラマチックな時代を生きる人間のドラマでありました。
2006年/アメリカ/114分
監督:ミロス・フォアマン
出演:ハビエル・バルデム、ナタリ-・ポートマン、ステラン・スカルスガルド、ランディ・クエイド
「宮廷画家ゴヤは見た」公式サイト