映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「誰が学校を変えるのか」 藤原和博

2008年10月20日 | 本(解説)
誰が学校を変えるのか―公教育の未来 (ちくま文庫 ふ 29-10)
藤原 和博
筑摩書房

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 この著者藤原和博氏は、民間人から杉並区立和田中学校校長に就任。
先ごろ学習塾と連携した課外授業「夜スペ」で、話題となりました。
今年3月で校長は退任していますが、
現在、大阪府の橋下知事のもと、特別顧問となっています。
まあ、いろいろと教育界で賛否両論あるお方のようですが、
まず、素直にこの本を読んでみる事にしました。

これまで、日本では、「処理能力の高いサラリーマン」は育てたが
「自分のアタマで考え自治を行う市民」を育てられなかったといっています。

自分が払っている税金や年金のこともよく分からないし、
地域社会を形づくる教育や介護や街づくりの現場に積極的な参加もしない。
文句は言うが、対案をつくり自ら実現に向かって責任を分担することを避ける。
そんな「住民」をつくってきた。
成熟社会を生きる「市民の態度」とはほど遠い。

と、言うのです。これにはすごくうなづけてしまいます。
最近良く言われるモンスターペアレントのことも思い浮かびます。
このままでは、間違いなく地域社会は崩壊の一途をたどり、
セキュリティレベルは急速に悪くなる。

では「市民」を育てるためにどうすればよいのか。
ここが藤原氏の力説するところですが、「よのなか科」を設置する。
これは大人になるための技術を学ぶ教科。
まずは「身の回りの経済問題」。
お金の話はタブー視されてきたけれども、資本主義社会の中での人生とお金の関係をきっちり教えるべきとする。
そして、「身の回りの政治問題」。
税金や、年金について、あまりにも知らなさすぎ。
さらには「身の回りで起る現代社会の諸問題」。
裁判員制度のこと、自殺のこと、など等。
この授業は、教師だけでなく関心のある地域の人々、保護者、教師を目指す学生や教育関係者にどんどん参加してもらう。
正解を学ぶ授業ではなくて、考え方を学ぶ授業である、と。
なんだかいいですね。
そんな授業があれば私も参加してみたい気がします。
このようなことのために、学校に「地域本部」を置くべし、としています。

でも今、それこそ地域に無関心な「住民」は多いですよね。
自分のことを考えても、もう、仕事で手一杯で、
自分の子どもが学校から離れたら、きっぱり縁も切れてしまう、というのが現状のように思います。
だって、私たちは「市民」になるためのの教育を受けていないわけですし・・・。

ところがここでミソなのは、
この地域本部で、この私のような大人たちをも巻き込んで、
子どもたちと一緒に「市民」としての勉強をしてもらおう、と、
そういう意図もある点なんですね。
大人も子どもも共に学ぶ・・・か。
単にカルチャーというのでなく、こういうことのほうが実際大人としても楽しそうです。カルチャーなら単に趣味ですが、
これなら、子どもたちの成長というすばらしいやりがいがある。

そういえば、以前に読んだ「モンスターペアレントっていうな」の本のなかでも、
解決策としてはスクールコミュニティが上っていましたっけ。
これからの学校は地域との関係なしには語れないということなんでしょうね。
まだまだ夢のようなお話っぽいところもありますが、
現に、和田中ではできていたわけですし・・・。

どこまで、学校現場の人たちと地域の人たちの意識を変えることができるのか、
問題はそこなのだろうなあ・・・。

満足度★★★★☆