映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

長い散歩

2008年10月16日 | 映画(な行)
長い散歩 プレミアム・エディション

ジェネオン エンタテインメント

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緒形 拳 さんを偲んで

           * * * * * * * *

緒形拳さん追悼の意味で見てみました。
以前から気になってはいたのですが、見損ねていたもので。
さてしかし、これは非常に重いです。

元校長の松太郎(緒形拳)は、仕事一筋で家庭を顧みず、
また、かなり厳格な性格でもあったため、妻はアルコール依存症で亡くなってしまった。
そのことで、一人娘とも絶縁状態。
一人安アパートに身を落ち着ける。

さて、そのアパートの隣室に住む母子。
幼い少女が、母親から虐待を受けている。
ほとんどかまってもらえず、いつも一人ぼっち。
体には明らかに折檻のあとも。
この、お色気たっぷりの自堕落な母親を高岡早紀が実にうまく演じています。
実際にはお会いしたくないタイプですが。

ある日とうとう彼は少女を連れ出し、旅に出るのです。
それは、彼自身、家族に何も与えられなかったことの贖罪の気持ちでもありました。
体に触れられることを異常に嫌がる少女。
また、レストランの熱々のハンバーグを「痛い」といって、寄せ付けない。
つまり、温かい食事を与えられたことがなかったということなんですね。
不思議なこの二人の旅の間に、次第に少女の心が解け、距離が縮まってゆく。
そしてまた、松太郎自身もこの少女に救われてゆくのです。
少女が終始身に付けている天使の羽が利いています。

ところが、これは世間的に見れば誘拐なのです。
実際は少女を救い出したにもかかわらず、誘拐犯として指名手配されてしまった。
のどかな旅が次第に逃走劇となってゆくのですが・・・。

母と子、父と娘。
この作品では、血のつながりは何の心の安らぎももたらしません。
むしろ傷つけあっている。
そして、全く他人の老人と幼女が心を通い合わせ、
かけがえのない存在として寄り添っている。
皮肉ながらも、そういうものかもしれません。
断ち切れない親子関係というもの。
断ち切れないが故の苦しみ。
でも、単純に人と人、お互い弱い存在として認め合った時に、
通じ合うことができるのではないでしょうか・・・。
途中で道連れとなるオニーサン(松田翔太)が、とてもよかったなあ・・・。
何とか彼も、とりあえずの目的地までは連れて行ってあげたかった・・・。
エンディング曲が、UAによる「傘がない」。胸にしみます。

これまでの自分の人生に後悔しながらも、また、
まだまだ、あきらめていない、
そういう「男」の姿が、よく表わされていたと思います。
隣家のヒモ男に天誅を下すべく、
ランニングし、竹の棒を竹刀に見立てて体を鍛える松太郎。
ちょっと茶目っ気もあってよかったです!


2006年/日本/136分
監督:奥田瑛二
出演:緒形拳、高岡早紀、杉浦花菜、松田翔太、奥田瑛二