ぽっとん便所、つまり汲み取り便所、己の出したもんは、手前で方付ける、って理念のほどはかっこいいんだが、現実は人知れぬ苦難の日々なんだなぁ、これが。
季節ごとの汲み取り、堆肥積み作業も度胸と決断のいる仕事だが、日々悩みの種は、何と言っても臭いだ。特に暖かくなってからの便所臭、時に我慢ならぬほどひどいこともある。我が家に他人を上げたくないのも、あるいは、無意識に便所をひた隠す思いの表れやもしれぬ。訪問客にこちらのエコ信念を押し付けるわけにもいかしなぁ。
それでも、大便所の方は少しはましなのだ。便槽との間に換気口があって、それが外につながっており、四六時中小さな換気扇が回っているから、よほどの強風でも吹いて逆流しない限り、悪臭は外気の中に紛れて野の風となる。
小便器の方は、専用の配管を通って大便ぽっとん管に流入するのだが、その間の流路にどうしても汚れが溜まりやすいのだ。いやいや、そんな奥深い部分だけの話しじゃない。小便器そのもにも尿石がびっしりこびりついている。これが悪臭の原因だとはわかっちゃいるが、なんせ、この尿石、固い、頑固だ、こびりついて取れない。
用を足すたんびに水洗便所さなが、水を流しておけばこんな悲惨な状況にはならないのだが、なんせ、便槽に限りある汲み取り式、そうやたらに水を流すわけにはいかない。まっ、そのうちなんとかなっぺ、ってすっかりずぼらを決め込んでいたら、全面尿垢がこびりついてしまったってわけだ。
この溜まりに溜まった尿の置き土産が、ついに我慢がならぬほどの悪臭を発しだしたのだ。汚いことにゃ、ちょっとやそっとじゃ音を上げないが、夏場の暑さとの相乗効果、これにゃ参った。よしっ、この際、このこびり付いた尿石に挑戦しようじゃないか。
ネットで調べてみると、同じお悩みの人はけっこういるもんで、様々な対策が提案されていた。なかにゃぁ、紙やすりで削り落とす、なんて、ご勘弁、ご勘弁の方法もある。うーん、なんとか洗浄剤みたいなもの吹きかけて落とす、なんて簡便な方法はないものか?あるにはある。酸とかアルカリとかで強力に落とすって方法。まっそうだろう。酸・アルカリの分解力なら相当なものだ。人間の皮膚だって、服の布地だってぼろぼろにしちまうくらいだもの。
でも、落ちりゃいいってもんじゃない。我が家の糞尿は、堆肥の元だ。やたらな化学薬剤は使いたくない。それが原因で、堆肥に積んでも発酵しない、なんてことになった一大事だ。となると、酸・アルカリでも、日常生活で使っているような弱いものでないか?そうか、アルカリなら重曹、酸ならお酢だ。まっ、これなら、重曹は蕨のあく抜きに使ったりもするし、お酢の方は食品そのもの、安全性に問題なかろう。より安心できるものとしゃ、やっぱ、お酢だろうな。
と、いうことで、最安値の食酢、1.8リットル360円也、を買い求めた。スプレー容器に入れて、用を足し終わるたびに噴霧し、ぼろきれで覆って、お酢の成分が揮発しないようにする。そう、お酢の湿布ってことだな。時折、その布で便器の尿石汚れをこすってやると、おおっ!なんと、少しずつだが、落ちて行くではないか!始めて1週間、7割方溶かし落とすことに成功した。このまま、執念深く続けていけば、2,3週間うちには新品同様?真っ白な陶製小便器に生まれ変わるに違いない。これは思いがけず、超お役立ちの洗浄剤が見つかったわい。
ただ、用を足すたびに噴霧するとなると、今度はお酢のあのむせるような酢酸臭が気になりだした。そこで、お酢の中にミントの葉を入れてみた。爽やかなミントの香り!ってわけにゃいかぬが、まっ、そこそこに香って、酢の癖の強い臭いは相殺してくれた。
このミント入りビネガー、頑固な尿石落としの効果だけじゃなく、トイレの消臭にも効果的だってこともわかった。どうして、酢が臭気を消すのか、その理由はわからない。が、尿とともに流れこんだ便槽の中で、なにかしら酸として健気に働いているらしい。
ということで、便器の横に置かれたミントビネガースプレー、トイレの必需品に昇格した。あっ、あと1か月くらい経ったら、我が家のトイレ使ってみてくれよ。って、わざわざトイレのために上がり込む奴はないか。