ステージおきたま

無農薬百姓33年
舞台作り続けて22年
がむしゃら走り6年
コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

残念!がっかり!『イヌの仇討ち』

2017-08-05 09:22:59 | 劇評

 ほんと、楽しみにしてたんだ。新進の演出家だってことだし、あっ、と、驚く大胆な舞台が見られるんじゃないかって。前々日、仕込みの手伝いもして、凝りに凝った舞台装置や、これでもかってほどの小道具類に圧倒されてたから、これは行けるよ、きっと、てね。だから、客席の誘導係も気持ち入れて、いらっしゃいませ!ってご案内に精出した、あっ、ちょっと、集合時間に遅れたけど。

 最初の違和感。あれっ、ここ笑い取るとこじゃないの?井上さんの芝居は微妙なセリフや役者のちょっとした仕草でしっかり笑いが起きる、てのが特徴なんだ。特に、ここ川西フレンドリープラザはお膝元だからね、そんなことで笑うなよ、ってツッコミ入れたくなるくらいに観客の反応は鋭敏、過敏?なんだ。それが、どうだ?何度も、激笑ポイントをやり過ごしてる。中盤以降での駄洒落ではさすがに笑いが起きていたが、それでも、大石内蔵助をアホの間抜けの虚けの、と、大量の罵倒語を連ねて蔑むシーンも、井上さんお得意の同義語を重ねるセリフ作りね、変に暗く間延びしたものになっていた。演出のせいなのか?それとも役者の力不足なのか?

 次にたまらんなぁ、これは!我慢できん、って感じたのは役者だ。やたら声が裏返る砥石小僧。聞きづらい、耳障り、あの変な発声の所為で、聞かせ所の啖呵も心に迫って来ない。もちろん、言葉も聞き取りにくい。茶坊主役もキンキン声で、叫び過ぎていて、見て聞いて、心地よさがない。まっ、切迫感を出したかったのかもしれないが。宝塚出身のお吟役も、えっ、その演技で通ったの、宝塚?ってレベルで、訴えかけるもの、なし。

 極め付けの上野介、うーん、これは好みの問題なのかもしれないが、第一声からこれ違うんじゃない?って感じ。あまりに堂々と落ち着いていて、逞し過ぎる。まっ、たしかに、この『イヌの仇討ち』は吉良憎し、上野介卑怯者史観をひっくり返すのが目的の芝居だから、決然とした吉良でいいには違いないのだが、それはラストになって忽然と大石の意図を悟った、あるいは深読みした時に現れる自信なんだと思う。襲撃に恐れをなして秘密の納戸に逃げ込むあたりは、やはり命惜しさの老いぼれ老人でいいんだと思う。そんなジイサンが、一緒に閉じこもった人たちと意見を交わし、邸内探索の大石の様子を聞いて、考えを深めつつ変わって行く、それがこの芝居の吉良上野介なんじゃないかな。最初から立派な吉良だから、結局お上に、つまり権力者に、体よく利用されたんだと見切って、自ら赤穂浪士達の前に身を晒す、ってラストも、もう一つ、感動が薄い。そりゃ立派なお人はそうでしょうよ、おいらたち庶民とは違いますよね、って別世界の人間になってしまっているからなんだと思う。

 それでも、やっぱここは、上杉様の民人意識は濃厚なんだなぁ、万雷の拍手で幕が降りた。そう、吉良は上杉家と濃厚な血縁関係にあったからね。今だって、米沢じゃ忠臣蔵の芝居や映画は打てない、打っても客は入らない、そんな積年の恨みが連綿と受け継がれている土地柄なんだ。カッコよく吉良が死に赴けば、それはもう、よしっ、やったぞ上野介!って拍手喝采になるんだよ。で、おいらは、ここらの言葉で言う、旅の者、ちなみに、米沢でには3代暮らしても、よそ者扱いだったってこと聞いたことがある、今はどうだろう、この排他意識は?へぇ、まっ、そんな見方もできるよね、っ程度にしか感じなかったので、まさか、あの割れんばかりの反響には驚いた。井上さんの地元愛にもね。

 井上さんの脚本、よくぞ、あんなシーンを切り取れたもんだ!納屋に潜んだ数時間を描くなんて発想の奇抜さ!多分現実は、ただひたすら、声を潜め、恐れ慄いて身を寄せ合っていたに違いない、そんな場所と時間を、思いがけない登場人物、盗人砥石小僧、と、大石の表情を逐一伝える茶坊主を造形することで、松の廊下から仇討ちに至る世間の常識をひっくり返した力技、凄いっ!って思う。

 御上ってのは、その都度周囲をつまりは、世間の評判を気にしつつ、手のひら返しをしていく存在なんだ、って認識、今の森友問題に通じるってことで、あるいは、上演を決めたのかもしれないが、籠池さんに共感、同情が集まらないのと同様、吉良にもすっきり感情移入はできなかったなぁ。裏切られたって言ったって、所詮、権力の裾握っていい汁吸ってた人間だろ、吉良も籠池さんも。要するにどっちもどっちなんだよ。

 最後に、あんなに精緻な装置、大量の小道具、照明器具、生かされてたのかねぇ?なんだか、肩透かし食った気分だ。もっと、いろいろ演出上の仕掛けとかあるんじゃないか?って楽しみにしてたのに。せっかく上出来の装置が埋め尽くされた小道具類でほとんど見えない部分も多々あった。照明についても同じ、相当の仕込み量だった。客席上のバトンにも吊る、フロントはもソースホー沢山運び込む、ムービングまで使って、で、あの程度?って印象だった。あれって、スタッフ泣かせだよな。バラシ、搬出手伝いながら、手際よく働くスタッフさんの姿追いつつ、この人たちどんな風に感じてるんだろ?って、余計なお世話だけど、同情してしまった。まっ、彼らはプロだから、一切批評がましいこと言わず、黙々と作業してたけどね。

 おっと、精一杯手伝ったのは、お手伝い組、菜の花座メンバー7人も同じ。終演から2時間半、すべて終了は11時間近だった。肉体的にも、精神的にも、お疲れ!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする