自然治癒力セラピー協会=Spontaneous Healing Therapy Japan

自然治癒力を発揮させるために、心と体の関係を考えます。

ユマニチュード~認知症でも人格を認めて

2014年06月07日 | 介護と自然治癒力

”あなたに会えてよかった!”   2014・6.7



***********************************

 先回のブログで少し触れたが、

ユマニチュードは、フランス人のイブ・ジネストさんと

ロゼット・マレスコッティさんが完成させた認知症ケアと

いわれている。

フランスでは30年以上の歴史があるが、日本に知られるよう

になって間もない。


エマニチュードの特徴は4つの大事な基本ルールは、

*見つめる事

~相手の眼の視線で瞳の奥を見つめるように、魂にかたりかける

*話しかける事

~わからないだろう・・・ということは絶対ない・

必ず相手は魂で聴いている

触れること

~体のどこでもよいというわけではないが、言葉をかけるとき、

ごく自然に相手に愛が伝わるように。

*立つこと

~二足でまず、立つ意味の大きさ。誰でも立ちたい。歩きたい。

そして、立ってみようという意欲を持たせる。

前向きで明るい心の持ち方が、それを成功させる。

 

考案者イブ・ジネスト氏が日本のある病院で、90代の

寝たきりの認知症の男性を相手に、デモンストレーションを

しているところをテレビで見た。


この男性は80歳代でもまだ社会的活動をしていたのだが、

妻が亡くなると、急に衰えを見せ、現在病院のベッドで

ほとんど寝たきり。

その放映場面は、看護士数人がこの老人の部屋に入っていく

所から始まる。


やさしく声をかけているのだが、老人は頑固にかたくなだ。

口の洗浄を促す3人の看護師に不機嫌に抵抗をして、なかなか口を

開けようともしない。

仕方なく、老人の体をベッドについているベルトで縛り、腕を

抑えながら処置をすることになる。

 

ここで、イブ氏の登場となる。

彼はまず、寝ている老人の注意をドアの外に向けるために

部屋に入る前にノックをする。

こうして、誰かが入ってくる気配を老人が察するようにさせる。

いきなり入って 老人の視界に現れたときの驚きを避けるために。

正常な人と同じように 敬意を持って、接するのだ。

 

そして、老人がイブ氏の存在を見ると、少し離れたところから、

大袈裟に見えるほど、’こんにちは!’と笑顔で老人に挨拶する。

見つめる のだ。

見つめ合って、挨拶して、笑顔で近づく。

話すときの、目線はいつも、老人の眼と同じ高さ。

イブ氏はそのままベッドに近づいて屈んで

眼を見つめたままこう挨拶する。

 

元気? あなたに会えてうれしいですよ。”

老人の眼を見つめるから老人もイブ氏をじっと見つめる。


あなたを大好きですよ、素晴らしい出会いだ。

なんて、あなたは素晴らしい足跡を人生に残してきたのだろう!

言葉に出さなくても、イブ氏の心からのテレパシーが老人の

胸に浸透していくかのようだ。

 

”人は見つめてもらい、誰かと触れあい、言葉を交わすことで

存在する。”とイブ氏はいう。

 

老人は久しぶりに自分を 一人の人格者として一人前に扱って

くれる人間と会ったのだ~と感じ始めているに違いない。

自分と話して嬉しいと言ってくれる人がいる!

会えてよかったと心から語りかけてくれる人がいる!

老人のこうして、閉ざされた心を開いていく様子が手に取る

ようにわかる場面だった。老人の顔に、微笑みが広がるからだ。


そして、彼は、話始めたのだ。

自分のこと、息子のこと、いろいろなこと。

 

時々、イブ氏はやさしく老人の背中をさすり、手を握る。

触れ合う。


マッサージしてあげますよ~と言いながら、体の緊張を

解きながら、暖かい手の温もりを愛とともに伝えるように。


”さあ、あちらに行ってみませんか?

とても気分の良い場所があるのです。”

イブ氏は 老人をベッドから車いすに乗せて、それから、

”立ってみませんか?”と 挑戦を促す。

 

ここから老人の奇蹟が起こる。

これまで何年もたったことのない老人がヨロヨロと細い脚に体の

重心をかけて立ち上がろうとするのだ。

そして・・・


歩いてみたい・・・と老人の意欲が出る。

足を前に一歩ずつ、踏み出そうとする。

”立つこと”

これは ユマニチュード法の基本的ルールの一つだ。


イブ氏は言う。

”死に至る日まで、できるだけ立つことで、人としての尊厳を

自覚する。”

 

老人の心が変わった。笑いがこみ上げる。

そして、尊厳に満ちた自分を想いだして、自力でたって歩きたい

という気持ちが自然とわき出て、立って歩いた。

次に、老人は目的地の部屋へ行くと、そこの椅子に腰かけた。

イブ氏は本題に入る。そう、口の洗浄だ。


”あなたの口、どのくらい大きく開きますか?

私に見せてください。”


すると、老人は、大きく口を開いて見せるのだ。

イブ氏は、綺麗な布を手に、

”さあ、これから、あなたの口の中をきれいにしますよ。ほ~ら”

と、言って、数回、手早く自分の手に巻いた布を、大きく開いた

老人の口の中に突っ込んで手際よく、口の中を拭く。


”どうですか? 気持ちいいでしょう?”

老人はにこやかに ”気持ちいい” と嬉しそうに答えた。

 

そばを囲んで見守っている看護師の顔には、戸惑いと喜びと

驚愕が混じっていた。

イブ氏はこうして デモンストレーションして見せ、そのルールに

沿った介護を行いながら、老人の心と体に起きた、大きな成果を

周囲に納得させた。


まず、見つめる、そして、愛を持って語りかける。

やさしく、体の緊張をほどきながら、触れる。


そして、立つこと、立てるという意識、立ちたいというやる気を

起こさせていく・・・

心の元気が、そうした生命の力を駆り立てる。

”立てるという意識こちらが、そう対応を変えることで、患者も

変わっていくのです”と イブ氏は言った。

 

私たちは死ぬまで尊厳ある人格者だ。

魂の領域は死ぬまで変わらずに活動している。

たとえ認知症、アルツハイマーと診断され、理が通らない行動を

本人が全く自覚できなくなり、暴力を振るい、罵詈雑言

(ばりぞうごん)を口走っても、それはむしろ私たちへの

何らかの有り難いメッセージと受け取ることができるのかも

しれない。


この気難しくなった老人も、笑いを、全く忘れてしまったわけ

ではなかった。

人間だけが笑いを知っている。

それは、他の動物と異なる、人の霊性を顕す一つの能力だろう。

 

”何年かぶりに、父の笑顔を見ました”

と、この老人の家族が イブ氏との会話の中で楽しそうに笑う

父の姿をみて驚きながらつぶやく。

 

こうして、イブ氏の認知症患者に対する癒しのメソッドの効果は

そこにいたすべての人達が確認したのだ。

相手に尊厳を持って接すること、

4つの基本的主旨を背景に様々な状況設定においてのマニュアルが

造られていると聞いた。

 

しかし、そのマニュアルどおりしても、必ず成功するとは

限らないだろう。


相手を変える事ができる根底にあるのは、マニュアルではなく、

誰でも本来持っている尊厳性を どんな状態の人にも 認めて

接しながら、引き出していく、介護する人の 強い信念と、愛以外

のなにものでもないような気がする。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする