局の道楽日記

食道楽、着道楽、読書道楽  etc
生活色々を楽しんで暮らしている日々の記録です

さくらの記憶

2007-03-28 21:27:19 | 記憶の箱
桜が開花した。日当たりによって咲き加減が違うけど 三分咲きから七分咲きくらいと言うところだろうか?今週末は色々なところでお花見が繰り広げられるだろう。

桜の花を意識したのは小学校の入学の頃だと思う。
両親に連れられての入学式で 「桜が咲いているわね」と母が言ったのに 私は一向にそれが綺麗だと思わなかったのをよく覚えている。
なんだか灰色がかって一つ一つの花も小さくて地味な花だと思った。
今思うと、咲き始めか咲き終わりかの頃で花の数が少なかったのではないだろうか? 
その翌年、小学校の桜が満開になったときの木を見上げて 「なんて綺麗な木だろう」と思ったことが記憶にあるから。
他の少女たちもそうしたように、花びらを集めてままごとの道具にしたり、糸でつづってほんのつかの間の首飾りにしたりして遊んだ。

成長してからも、春の記憶は桜に彩られている。色々なところで見た桜。特に私は柳の芽吹きの若々しい緑と一緒に桜を見られる風景が一番好き。春生まれだから余計桜の季節は印象深いのだろうか?

こんな風にたいてい桜の記憶は穏やかな記憶に満ちたものだったけど・・・

もう 6年になるだろうか、甘やかばかりだったものに辛いエッセンスを加えた出来事から。

去年、夏の思い出と題してブログに書いた 友人一家の話。家の子供たちと同級生で家族ぐるみでお付き合いをしていたお宅のご主人が亡くなったのは 4月2日だった。
肺がんが見つかってから一年もたたないうちに、見る見る衰えて亡くなってしまった彼の最後。
数回の手術も功を奏さずに、大学病院から出され、彼の意に沿わない病院に入れられた時は本当に本人も家族も辛そうだった。
脳に転移して、もうなすすべがないと言われてから 彼の奥さんである私の親友は彼をホスピスに入れるために奔走した。
運よく、近くのホスピスに入れたのが3月の初旬。私も何回かお見舞いに行ったけど、それまでの病院での険しい表情がウソのように彼の顔は穏やかになっていた。

「局ちゃん。今までに比べてここは天国だよ」と彼は言った。医師も看護士も優しく穏やか。今までダメとだけ言われてきたことも、なるべくかなえてくれる方向で聞いてくれる。ペットセラピーも取り入れられていて、彼が大好きだった大型犬とも触れ合える。「外でさ、タバコも吸えるんだよ」と嬉しそうに笑った。
さすがに病院内じゃダメだけど、車椅子で外に連れていってもらって日に少しだけなら吸わせてもらえていたらしい。
「よかったねえ。いい病院に入れて。Hちゃん(奥さん)のおかげだよね」と私が言ったら照れくさそうに笑っていたっけ。

その年は記録的に桜の開花が早く、三月の二十日すぎくらいから開花宣言が出されていた。そして、その病院の中庭にも大きな桜の木が植えられ、彼の病室の窓の真正面に窓いっぱいに咲き誇る光景が展開された。
ただ、その頃には、彼の意識は薄れ、一日中起きているのだか眠っているのだかわからないようになっていった。私が行くと
「ほら パパ 局ちゃん来てくれたよ」奥さんに言われ、その時だけはうっすらと目を開ける彼。闘病中に髪は真っ白になり、中高だった顔はげっそりして高い鼻がよけい目立っていた。(この人はまもなく逝ってしまうんだろうな)と内心思った。
亡くなった人の事は悪く言いたくないけど、昔ながらの俺様亭主。おとなしくてしっかりした奥さんと素直な子供を従えて、明治男みたいに家族に家長として君臨していた彼。好き勝手やって、こんなに若くて綺麗な奥さんとまだ中学と高校の子供を残して(ついでに借金も残して)一人で行っちゃうわけ?と内心なじりたかった。
「見えてるのかわからないけどね、桜の方を向きたがるのよ。」私の友人がポツンと言った。
その時が生きている彼を見た最後だった。

4月2日の早朝に彼は逝った。葬儀をしたお寺の入り口には大きな桜が植えられ、開花が早かったのでもう桜吹雪が舞い踊っていた。
参列の人たちも思わず目をとめてその見事な舞いを愛でる。それはダンディだった彼の最後の演出みたいだった。
それから げっそりやつれた奥さんと中学と高校の制服を着た子供たちを見て現実に帰り、これからどうするんだろう と参列した誰もが思っただろう。

今年、浪人していた彼女の下の子が志望の大学に合格した。
私立の理系だからお金もかなりかかるけど、奨学金をもらいながらがんばると息子も言っていた。あと数年は大変だけど、優しい彼はきっと彼女の助けになると思う。

こうしてあの春以来、桜をみると、あのホスピスの記憶、葬儀の記憶が蘇ってしまう。

年取るってことは思い出も色々な色に染められてしまうんだなとつくづく思う。いいのか悪いのかはわからないけれど・・・



コメント (6)
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