「なんてったっけ? 普門館? 工事しててつかえないんだってね」
「そうなんだよ、だから今年の全国大会は名古屋なのね」
「甲子園みたいなもんなんでしょ」
「そうそう。そんなだから、うちも、今年はいいかなって思って」
「なるほど、そう来ましたか(笑)」
て会話を更衣室でした。
今年はそういう事情もあって、全国大会へは出場しなかったが、そろそろ目指してみようかな。
だって、俺まだ本気だしてないから。
いっかい本気だしてやってみたら、行けんじゃないかな、やればできるタイプだし … 。
と夢想する時間もめっきり減ってしまった。
いくつになっても、自分はやればできると思っている人って多いと思う。
実際やればできるのかもしれないけど、ほとんどの人はやらずに終わる。
だとしたら、40歳で会社をほんとに辞めてしまい、一念発起して漫画家を目指そうとしているシズオは、思うだけでやらない大多数の人間よりもエラいのだ。
周囲は言うだろう。
その年になって何をやってるんだ、と。
いい年をして自分探しとかいって、マクドでバイトしながら、マンガ書いて。それも一心不乱に書くのではなく、つい朝から呑んでしまう日があったり。
満を持して完成させた原稿も編集さんに一読されて即ボツなわけで、プロの漫画家になる才能がないのは明らかではないか。
娘に手がかからなくなったからと言って、そんな人生を送ってていいのか。
そんなことだから、たまたま行ってしまった風俗系のお店で、バイトしている娘と出会ってしまったりするのだ。「ああいう店だけはやめなさい」と注意して素直にきいてもらえただけありがたいと思わないといけない、普通は「てめえ、このすけべオヤジ、死ね」とか言われて家出されたってしかたない。
いいかげん、目をさましたらどうだ、シズオ!
しっかりしろ。地に足をつけて生きろ、って、ふつうなら言われるな。
42歳、フリーター、漫画家志望、バツイチ、娘一人、父親と三人で同居、小太り … 。
バイト先でのふるまい、家族とのやりとりの一々がイタい。
しかし、このだめだめオヤジの物語にはまってしまう人はきっといる。
実はシズオのことがうらやましいんじゃないだろうか。
彼のだめさは、リアルなんだけど、読んでるとリアルを超えてファンタジーになっている気もしてきた。
そのシズオの物語が完結した。
即ボツばかりだったシズオのマンガだが、23歳女子の編集者との出会いで、少し変化が生まれる。
40歳だからこそ書ける作品を書かなきゃだめでしょと女の子に言われて変化する。
彼の作品がはじめて入選する日でシズオの話は終わっている。
最終話は、娘の鈴子の視点で描かれる。
高校卒業後、建築関係の仕事を学ぶためにフィンランドに留学することを決めた。
そのとき、シズオの父、つまりおじいちゃんから「ほんとは結婚資金にと思ってたのだが」とかなりの額のお金を手渡される。父のシズオはバイト先からの前借りなどでつくった17万円を渡す。
「だめなおやじで悪かったと思ってるけど、おまえのことは大切に思ってる」と別れ際に言う父に、「知ってるよ」と答える鈴子の笑顔のシーンでは、昨夜一人ブラックニッカをロックで呑みながら泣いた。
5年後、帰国した鈴子と、空港に迎えに来たすっかりハゲてしまったシズオとが顔を合わせるシーンで全5巻が完結した。
完結したけど、多くの人の心の中にいるシズオの物語はまだ続いている。
ひょっとしたら、まだ出してない本気を、これから少し出す人がいるかもしれない。
で、コミックの最後に実写で映画化されるというニュースを読んで驚いた。
この本、そんなに売れてんだ。
そして、大黒シズオ役を堤真一が演じるという。
あの堤真一がシズオ役を。だめだめな堤さんの姿なんて … 。きゅん。
なんと娘の鈴子役は橋本愛ちゃん。も、もぇー。(おれが一番イタいかな … )
全然ちがう話だが、河上亮一先生が鶴ヶ島市の教育長になられたそうだ。
文科大臣は、真紀子さんではなく、河上先生じゃないだろうか。