水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

10月14日

2012年10月14日 | 学年だよりなど

 1学年だより「iPS細胞」

 山中伸弥教授がiPS細胞をつくることに成功したというニュースに接したのは5年前である。

 ~ 人間の皮膚細胞から、さまざまな臓器や組織の細胞に成長する能力を秘めた「万能細胞」を作ることに成功したと、京都大学の山中伸弥教授(幹細胞生物学)らの研究チームが発表した。患者と遺伝情報が同じ細胞を作製でき、拒絶反応のない移植医療の実現に向け、大きな前進となる成果だ。山中教授は「数年以内に臨床応用可能」との見通しを示している。(2007/11/21読売新聞) ~

 ~ 人間の皮膚細胞からさまざまな臓器や組織に成長する能力を秘めた「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」をつくった京都大の山中伸弥教授(幹細胞生物学)らの研究グループが、課題とされたがん遺伝子を使わずにiPS細胞をつくることに人間とマウスで成功した。このiPS細胞は、がん化しにくいことも確認。臨床応用に向け、さらに一歩踏み出した。(2007/12/1読売新聞) ~


 研究が進めばいつかノーベル賞も間違いないと当時から言われていた。
 ただ医学・生理学の分野では、臨床(実際に患者と接しての診察・治療)での成果が出ていない段階で受賞するのは難しいという。
 受賞インタビューで山中先生も言われていたが、専門家であるなら「まだ」ないだろうという感覚の人は多かったかもしれない。
 しかし、我々素人は、マスコミは当然期待する。
 われわれの身体の一部から採取した細胞が、他のあらゆる人体のパーツに変わりうるという夢のような研究だ。これほどわかりやすい発明・発見はなかなかない。
 現在、さまざまな難病に苦しむ人々が、光明を見いだす気持ちになることも想像に難くない。
 山中教授の今回の受賞は、世界中の人々の期待の大きさが後押ししたものと言えるのではないだろうか。
 報道ステーションのインタビューで、山中教授がこういう主旨のお話をされていた。
「今この分野での競争はきわめて熾烈だ。とくにアメリカの研究機関が、大変なお金を使って国をあげてのプロジェクトになっている。これからも日本が一歩でも二歩でも先んじて研究成果を出していきたい。現在iPS細胞関連の様々な特許をとれている。とくにアメリカでの特許を成立させることが大事です。」
 特許をとるのはなんのためですかと古館キャスターが尋ねる。
「特許を、日本の京都大学が取得することによって、研究が公のものにすることができるんです。特許が一企業に属することになると、その企業の営利が第一優先になる。一つ一つの技術に莫大な使用量がかかり、当然薬や治療にも高額な対価が求められることになります。少しでも多くの人が研究の恩恵を受けることができるためにも、特許をとっていかないといけないんです」
 これを「志」と言わずして何と言おう。


 明日配る学年だよりを書くのに、ネットで関連のニュースを見てて思った。山中教授に比してわが国の総理の呑気さよ。
「山中先生ほどの有名人が資金に困っていると聞きました。しっかり支援させていただきます。私の妻も先生の所に寄付してたそうです」
 素人か。ていうか「先生ほどの有名人でも」って小学生か。おそくても、数年前のiPS細胞成功の時点で、国家戦略の一つとして絵を描くのが政治家さんの役目ではないだろうか。
 首相は井上ひさし『吉里吉里人』を読んでないな。日本からの独立を宣言した吉里吉里国に、武力制圧を決めた日本国だったが、その実行を阻んだのだ、吉里吉里国にいる世界中の要人たちだった。医学の粋を集めて作られた吉里吉里国病院には、世界中の指導者たちが、治療を受けたいと訪れて入院しているのだった。その人たちが奇しくも人質になる。なるほど武力を持たなくても攻撃されない国になるこんな方法があるのかと学生時代に思ったものだ。教師になった自分は記憶にとどめているだけだが、国の中枢にいる人たちはそういうことばかりあれこれ考えてるのだと思っていた。
 現実社会に目を向けても、医療の分野で、日本が吉里吉里国になる可能性は十分にある。というかその能力をもつ数少ない国のひとつのはずだ。その気になれば一番じゃないかな。ドナルドキーン先生が日本人になられたのも、医療への期待が一番大きいとおっしゃっていた記憶がある。山中先生ぐらいにとまでは言わないが、もう少し目線の広い方が政のトップになられてもいいのではないか、人材はいないのかとしみじみ思う。

コメント
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